【プロ野球】“NPB AWARDS”に思う、満票を避ける投票記者の心理 「やましさはないのか」 | CYCLE やわらかスポーツ情報サイト

【プロ野球】“NPB AWARDS”に思う、満票を避ける投票記者の心理 「やましさはないのか」

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【プロ野球】“NPB AWARDS”に思う、満票を避ける投票記者の心理 「やましさはないのか」
  • 【プロ野球】“NPB AWARDS”に思う、満票を避ける投票記者の心理 「やましさはないのか」

私が子どものころ、つまり昭和の時代は日本シリーズの翌々日に両リーグの最優秀選手賞(MVP)と新人王の発表があり、プロ野球シーズンが完全に終わる日だった。

「これから来年の春のオープン戦まで何を楽しみに過ごせばいいのか」と野球少年としては大げさながら、呆然とさせられる日だったのを記憶している。

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■NPB AWARDSの意義と価値

最近は冠スポンサーも得て、表彰選手の発表と表彰が同時にショーアップされて行われる。今年も母国に帰省した外国人選手や海外のウィンターリーグなどに出場した選手がビデオメッセージを残し、その他の首都圏球団以外の選手も全員が東京に集まってにぎにぎしく開催された。関係者と選手の苦労については、前職・広告代理店での経験を通し敬意を表したい。

こういう試合以外の活動が選手の負担となることはよくわかる。ゴルフなどではこうしたイベントに欠席・欠場すると課せられる罰金などが報道されることもあり、選手の肩を持ちたくもなるものだが、関係者の思いもまた大切にしたい。

先日、ワールドカップ・カタール大会においてベスト8の夢破れ帰国したサッカー日本代表吉田麻也主将も、6月ごろに日本代表の試合に観客が集まらず「みんな日本代表よりもブラジル・チームを見に来ている」とはっきり感じ、その頃から今に至るまで「メディア出演を断らないように」と各選手に伝えている。また、のみならず成田空港ではメディアに対しても「出演オファーを」と積極的に頼み込んでいた。心身ともに疲れ切った状態でよくそこまで気が回ったものだと頭が下がる。

カタールW杯日本代表(C)Getty Images

近年は、プロ野球選手もそういう思いを感じているのだろう。みんなが晴れがましい表情でNPB AWARDSのステージに立っていた。中には表彰慣れした選手もいるだろうが、初めての舞台という選手もいる。もしかしたら二度とこの舞台に立てないという選手もいるかもしれない、などいろいろなことを考えながらCS放送を見ていた。

“AWARDS”というアルファベットでの行事名表記そのものは個人的には好まないが、長年スーツ姿で球団組織を支えた人、公式記録員や審判諸氏の表彰も素敵だと思う。

■「自信をもった投票だと胸を張って言い切れるものか」

東京ヤクルト・スワローズ村上宗隆が、1977年の王貞治以来となるセ・リーグでは45年ぶりのMVP満票と報道された。こうした際、表彰選手を選んだ野球記者の方々には言いたいことがある。あらためて投票に際し「本当にその選手に1位票を投じてやましさはありませんか」と問うてみたいと毎年思う。

スポーツ各紙を飾る村上宗隆、日本人最多「56号」と「三冠王」獲得の見出し

今年もベストナイン発表時、セ・リーグ三塁手部門で村上以外の選手に1票投じた記者がいた。王らの記録を抜く56本のホームランを放ち、史上最年少で三冠王に輝いた三塁手以外に投票する意図は何だろうか。

たとえば2002年、巨人の松井秀喜は50本塁打、107打点で二冠、かつ打率でも福留孝介の.343に次ぐ.334で、あわや三冠王でセ・リーグMVPに輝いたが、ここでも他選手に1位票を投じた記者があった。2012年の阿部慎之介は打率と打点の二冠、本塁打はヤクルト・バレンティンの31本に次ぐ27本、それでも他選手に投じた記者が2人いた。1986年のパ・リーグ新人王・清原和博以外の選手に投じた記者がひとり。清原は高卒新人初年度について31本塁打、打率.304、打点78を記録。これは高卒選手の記録であり、31本塁打も1959年桑田武(大洋)とならぶ新人最多タイ記録にも関わらず…だ。今年、巨人の大勢に至っては新人記録となる37セーブを挙げた。それでも満票ではなかった。

NPBのホームページでは20年間は投票結果をさかのぼって見ることができる。こうして衆人環視の投票結果が20年は残るのに、自信をもった投票だと胸を張って言い切れるものだろうか。

2位以下のチームに突出した成績を残した選手がいる際に「優勝球団から選ぶべきだ」との意見があり票が割れるのは理解できる。2年目3年目の新人王有資格者よりもルーキーの数字が若干劣る場合「やはりルーキーから選ぶべきだ」という趣旨で数字が劣るルーキーに票が寄るのも、これも理解できる。上記の例は優勝球団で文句なく打撃二冠に輝いた打者、新人セーブ記録を挙げた投手である。なぜセリーグのMVPに45年も満票が出ないのかと不可思議に思う。

セ・パのリーグ間でもMVP選手は微妙に異なるセ・リーグは極力優勝チームから選ばれ、パ・リーグは2位以下のチームから選ばれるケースが多い。セでは73年のうち2例しかないがパでは11例もある。

もしパの記者が2018年のセMVPを投票していれば、優勝球団広島の、無冠だった丸佳浩ではなく、3位巨人で投手部門三冠王(勝利数、防御率、奪三振)菅野智之がMVPを獲得していたのではないかと思ってしまう。

MLBでは最高殊勲選手ではなく最優秀選手を選ぶのだという考えからか優勝球団からは選出されないことが多い、だが目立つのは投手が極端に少ないことである。日本では73年の歴史の中、セが23人、パでは33人が投手である。それに対して1931年からMVP選出が始まったMLBではア・リーグで12人、ナ・リーグでは11人である(日米とも大谷翔平を含む)。

これはサイ・ヤング賞の存在がそうさせるという説もあるが、特に近年のナ・リーグの「野手偏重」はファンの間でも有名。この50年間で2014年のクレイトン・カーショー(ロサンゼルス・ドジャース)ただひとりしか投手は選ばれていない。こうしたリーグ間の微妙な違いを考えるのも一興ではある…。

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著者プロフィール

篠原一郎●順天堂大学スポーツ健康科学部特任教授

1959年生まれ、愛媛県出身。松山東高校(旧制・松山中)および東京大学野球部OB。新卒にて電通入社。東京六大学野球連盟公式記録員、東京大学野球部OB会前幹事長。現在順天堂大学スポーツ健康科学部特任教授。

■プロ野球MVPと優勝球団 年度別 セ・リーグ

年度 選手名 チーム 優勝球団 監督2022 村上宗隆(ヤクルト) ヤクルト(高津臣吾)2021 村上宗隆(ヤクルト) ヤクルト(高津臣吾)2020 菅野智之(巨人) 巨人(原辰徳)2019 坂本勇人(巨人) 巨人(原辰徳)2018 丸佳浩(広島) 広島(緒方孝市)2017 丸佳浩(広島) 広島(緒方孝市)2016 新井貴浩(広島) 広島(緒方孝市)2015 山田哲人(ヤクルト) ヤクルト(真中満)2014 菅野智之(巨人) 巨人(原辰徳)2013 バレンティン(ヤクルト)巨人(原辰徳)2012 阿部慎之助(巨人) 巨人(原辰徳)2011 浅尾拓也 (中日) 中日(落合博満)2010 和田一浩 (中日) 中日(落合博満)2009 ラミレス (巨人) 巨人(原辰徳)2008 ラミレス (巨人) 巨人(原辰徳)2007 小笠原道大(巨人) 巨人(原辰徳)2006 福留孝介 (中日) 中日(落合博満)2005 金本知憲 (阪神) 阪神(岡田彰布)2004 川上憲伸 (中日) 中日(落合博満)2003 井川慶 (阪神) 阪神(星野仙一)2002 松井秀喜 (巨人) 巨人(原辰徳)2001 ペタジーニ(ヤクルト) ヤクルト(若松勉)2000 松井秀喜 (巨人) 巨人(長嶋茂雄)1999 野口茂樹 (中日) 中日(星野仙一)1998 佐々木主浩(横浜) 横浜(権藤博)1997 古田敦也 (ヤクルト) ヤクルト(野村克也)1996 松井秀喜 (巨人) 巨人(長嶋茂雄)1995 オマリー (ヤクルト) ヤクルト(野村克也)1994 桑田真澄 (巨人) 巨人(長嶋茂雄)1993 古田敦也 (ヤクルト) ヤクルト(野村克也)1992 ハウエル (ヤクルト) ヤクルト(野村克也)1991 佐々岡真司 (広島) 広島(山本浩二)1990 斎藤雅樹 (巨人) 巨人(藤田元司)1989 クロマティ (巨人) 巨人(藤田元司)1988 郭源治 (中日) 中日(星野仙一)1987 山倉和博 (巨人) 巨人(王貞治)1986 北別府学 (広島) 広島(阿南準郎)1985 バース (阪神) 阪神(吉田義男)1984 衣笠祥雄 (広島) 広島(古葉竹識)1983 原辰徳 (巨人) 巨人(藤田元司)1982 中尾孝義 (中日) 中日(近藤貞雄)1981 江川卓 (巨人) 巨人(藤田元司)1980 山本浩二 (広島) 広島(古葉竹識)1979 江夏豊 (広島) 広島(古葉竹識)1978 若松勉 (ヤクルト) ヤクルト(広岡達朗)1977 王貞治 (巨人) 巨人(長嶋茂雄)1976 王貞治 (巨人) 巨人(長嶋茂雄)1975 山本浩二 (広島) 広島(古葉竹識)1974 王貞治 (巨人) 中日(与那嶺要)1973 王貞治 (巨人) 巨人(川上哲治)1972 堀内恒夫 (巨人) 巨人(川上哲治)1971 長嶋茂雄 (巨人) 巨人(川上哲治)1970 王貞治 (巨人) 巨人(川上哲治)1969 王貞治 (巨人) 巨人(川上哲治)1968 長嶋茂雄 (巨人) 巨人(川上哲治)1967 王貞治 (巨人) 巨人(川上哲治)1966 長嶋茂雄 (巨人) 巨人(川上哲治)1965 王貞治 (巨人) 巨人(川上哲治)1964 王貞治 (巨人) 阪神(藤本定義)1963 長嶋茂雄 (巨人) 巨人(川上哲治)1962 村山実 (阪神) 阪神(藤本定義)1961 長嶋茂雄 (巨人) 巨人(川上哲治)1960 秋山登 (大洋) 大洋(三原脩)1959 藤田元司 (巨人) 巨人(水原茂)1958 藤田元司 (巨人) 巨人(水原茂)1957 与那嶺要 (巨人) 巨人(水原茂)1956 別所毅彦 (巨人) 巨人(水原茂)1955 川上哲治 (巨人) 巨人(水原茂)1954 杉下茂 (中日) 中日(天知俊一)1953 大友工 (巨人) 巨人(水原茂)1952 別所毅彦 (巨人) 巨人(水原茂)1951 川上哲治 (巨人) 巨人(水原茂)1950 小鶴誠 (松竹) 松竹(小西得郎)

■プロ野球MVPと優勝球団 年度別 パ・リーグ

年度 選手名 チーム 優勝球団  監督2022 山本由伸 (オリックス) オリックス(中嶋聡)2021 山本由伸 (オリックス) オリックス(中嶋聡)2020 柳田悠岐 (ソフトバンク) ソフトバンク(工藤公康)2019 森友哉 (西武) 西武(辻発彦)2018 山川穂高 (西武) 西武(辻発彦)2017 サファテ (ソフトバンク) ソフトバンク(工藤公康)2016 大谷翔平 (日本ハム) 日本ハム(栗山英樹)2015 柳田悠岐 (ソフトバンク) ソフトバンク(工藤公康)2014 金子千尋 (オリックス) ソフトバンク(秋山幸二)2013 田中将大 (楽天) 楽天(星野仙一)2012 吉川光夫 (日本ハム 日本ハム(栗山英樹)2011 内川聖一 (ソフトバンク) ソフトバンク(秋山幸二)2010 和田毅 (ソフトバンク) ソフトバンク(秋山幸二)2009 ダルビッシュ有(日本ハム) 日本ハム(梨田昌孝)2008 岩隈久志 (楽天) 西武(渡辺久信)2007 ダルビッシュ有(日本ハム) 日本ハム(ヒルマン)2006 小笠原道大(日本ハム) 日本ハム(ヒルマン)2005 杉内俊哉 (ソフトバンク) ロッテ(バレンタイン)2004 松中信彦 (ダイエー) 西武(伊東勤)2003 城島健司 (ダイエー) ダイエー(王貞治)2002 カブレラ (西武) 西武(伊原春樹)2001 T・ローズ (近鉄) 近鉄(梨田昌孝)2000 松中信彦 (ダイエー) ダイエー(王貞治)1999 工藤公康 (ダイエー) ダイエー(王貞治)1998 松井稼頭央(西武) 西武(東尾修)1997 西口文也 (西武) 西武(東尾修)1996 イチロー (オリックス) オリックス(仰木彬)1995 イチロー (オリックス) オリックス(仰木彬)1994 イチロー (オリックス) 西武(森祇晶)1993 工藤公康 (西武) 西武(森祇晶)1992 石井丈裕 (西武) 西武(森祇晶)1991 郭泰源 (西武) 西武(森祇晶)1990 野茂英雄 (近鉄) 西武(森祇晶)1989 ブライアント(近鉄) 近鉄(仰木彬)1988 門田博光 (南海) 西武(森祇晶)1987 東尾修 (西武) 西武(森祇晶)1986 石毛宏典 (西武) 西武(森祇晶)1985 落合博満 (ロッテ) 西武(広岡達朗)1984 ブーマー (阪急) 阪急(上田利治)1983 東尾修 (西武) 西武(広岡達朗)1982 落合博満 (ロッテ) 西武(広岡達朗)1981 江夏豊 (日本ハム) 日本ハム(大沢啓二)1980 木田勇 (日本ハム) 近 鉄(西本幸雄)1979 マニエル (近鉄) 近鉄(西本幸雄)1978 山田久志 (阪急) 阪急(上田利治)1977 山田久志 (阪急) 阪急(上田利治)1976 山田久志 (阪急) 阪急(上田利治)1975 加藤英司 (阪急) 阪急(上田利治)1974 金田留広 (ロッテ)ロッテ(金田正一)1973 野村克也 (南海) 南海(野村克也)1972 福本豊 (阪急) 阪急(西本幸雄)1971 長池徳二 (阪急) 阪急(西本幸雄)1970 木樽正明 (ロッテ)ロッテ(濃人渉)1969 長池徳二 (阪急) 阪急(西本幸雄)1968 米田哲也 (阪急) 阪急(西本幸雄)1967 足立光宏 (阪急) 阪急(西本幸雄)1966 野村克也 (南海) 南海(鶴岡一人)1965 野村克也 (南海) 南海(鶴岡一人)1964 スタンカ (南海) 南海(鶴岡一人)1963 野村克也 (南海) 西鉄(中西太)1962 張本勲 (東映) 東映(水原茂)1961 野村克也 (南海) 南海(鶴岡一人)1960 山内和弘 (大毎) 大毎(西本幸雄)1959 杉浦忠 (南海) 南海(鶴岡一人)1958 稲尾和久 (西鉄) 西鉄(三原脩)1957 稲尾和久 (西鉄) 西鉄(三原脩)1956 中西太 (西鉄) 西鉄(三原脩)1955 飯田徳治 (南海) 南海(山本一人)1954 大下弘 (西鉄) 西鉄(三原脩)1953 岡本伊三美(南海)南海(山本一人)1952 柚木進 (南海) 南海(山本一人)1951 山本一人 (南海) 南海(山本一人)1950 別当薫 (毎日) 毎日(湯浅禎夫)

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