【Dリーグ】2年連続MVD “B BOY” ISSEIの“これまで”と“これから” 「パリ五輪だけがダンスじゃない」 | CYCLE やわらかスポーツ情報サイト

【Dリーグ】2年連続MVD “B BOY” ISSEIの“これまで”と“これから” 「パリ五輪だけがダンスじゃない」

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【Dリーグ】2年連続MVD “B BOY” ISSEIの“これまで”と“これから” 「パリ五輪だけがダンスじゃない」
  • 【Dリーグ】2年連続MVD “B BOY” ISSEIの“これまで”と“これから” 「パリ五輪だけがダンスじゃない」

6月30日、チケット完売の盛り上がりでチャンピオンシップが開催され、セカンドシーズンの幕が閉じたDリーグ。そこで見事、チームとしての優勝、そして2年連続で最優秀ダンサーに贈られるMVDを獲得した名実共にトップ中のトップ・ダンサー、KOSÉ 8ROCKSISSEIに、再びインタビューの機会を得た。彼は同時に、今後はDリーグを一時離れて活動してゆくことも表明しており、そんな“渦中”のISSEIからどんな話が聞けるのか、いささか興奮ぎみに現場におもむいた。

◆全選手が命を削ってきたセカンドシーズン・フィナーレにダンスのさらなる可能性を見た 栄冠はエイトロックスに

■人間技とは思えない不可思議な動きの連続

様々なスタイルのダンスが踊られるDリーグだが、その全チームの中でも、エイトロックスが踊るブレイキンは、世界中の若者に支持される熱きストリート・ダンススタイルであり、極めてアクロバティックでダンサブルな点が特徴だ。また特に、エイトロックスのオリジナルスタイルである、複数のダンサーが一人のダンサーの腕や足を掴んで、まるで体操の鉄棒の演技のようにぐるぐると大きく回す“組み技”は、いったいどうしたらあんな動きが可能となるのか、人間技とは思えない不可思議な動きの連続で、その大迫力は毎回会場を最も大きく沸かしていたことも印象に残っている。また、あのような動きを作り出すことは、各ダンサーのスキルももちろんだが、タイミングや相手のその瞬間の状態を感じとる感性を含め、深い信頼と互いの身体を大切にする気持ちが全員に伴って初めて可能となる技であろう。

真摯に言葉をひとつひとつ選んで話すISSEI 撮影: SPREAD編集部

6歳でブレイクダンスの世界へ足を踏み入れ、これまでも数々の世界大会で優勝を飾るなど輝かしい実績と実力を有している“B BOY”ISSEIに、コーセーエイトロックスのディレクターとして白羽の矢が当たったのはDリーグの創成期である2年前。ちょうどコロナで、思うようにダンスをしづらくなってきたタイミングだったこともあり、迷うことなく新しい世界へ飛び込んだという。全チームのディレクターの中でも最年少ではあったが、ダンス歴では負けていない。また、彼の周りには、これまで世界で戦ってきた実績と経験、そして何よりダンスへの愛がオーラとなって纏わりついているように感じさせる素敵なバイブスが漂っている特別なダンサーだ。

今回、インタビューのための約束場所に現れた彼も、やはりいつもの通り、リラックスした空気を身にまとい、柔らかな笑顔で“これまで”と“これから”を語ってくれた。

■Dリーグの2年間で得たもの

「Dリーグでの2年間はとにかくすべてに感謝しかありません。エイトロックスで戦えて本当に良かった。最初は自分がチームを引っ張っていかなきゃいけないのかなと思っていましたが、始めてみたら頼れる存在が沢山いて、本当にみんなが助けてくれて協力してくれた。喧嘩も一度もしたことがなく、皆で沢山の人の前で踊れる楽しさも手伝って、もともと好きだったダンスがさらに好きになりました。充実して幸せでした。もちろん、楽しいだけではなく、なかなか勝てないときがあったり、大変で苦しかったり悔しかったことも沢山ありました。でも、ダンスでこんなにも色々な感情になれるってことは素晴らしいことで、それだけ熱中している証拠なんだなと思いました。本当に一緒に戦ってくれたメンバーに感謝しています。特にセカンドシーズンのチャンピオンシップでは、(トーナメント制のため)同日に3種のナンバーで闘うために前日まで1日12時間くらい練習して、もうわけわからないくらい頑張りました。それで優勝して、みんなで“レペゼン”できた時は、もうここで死んでもいい!(笑)と思うくらい幸せで泣きました」。

レペゼンとは、ヒップホップ界の用語で、「代表する、象徴する」といった意味合いを持つ。日頃から「ブレイキンの可能性をもっともっと広げてゆきたい」と語っているISSEIにとって、この日本発のプロダンスリーグで優勝することは、「ブレイキンを世の中にレペゼンする」という自らの使命を全うしたことにもなったのだろう。

パリ五輪よりダンス「ブレイキン」が種目として追加が決まり、スポーツ界からもダンスそのものが着目される世の中となった。ISSEIがDリーグから離れる事実は、五輪への専念なのかという見方もされた。これにISSEは「パリ・オリンピックに向けては、オリンピックだからといってそれだけをガチガチに目指してはいないです。もちろんビッグイベントですし頑張りますが、その日、その時にならないとわからないのがブレイキンですから。常に今、目の前にあることに熱中していきながら、自分を磨いて、“道筋をこう”と決めてしまうことはないです。面白いイベントやフィールドがあればそこでもやる。色んな場所でブレイキンができればいいと思うし、大会だけではなく、映像やファッション的分野まで、道をいっぱい作れたらと思っています。選択肢がブレイキンをやっている子たちに沢山あるといいし、色んな形がブレイキンの場として生まれてくるといいなと日々考えています」と自身の可能性を狭めることなく捉えているとした。

■ブレイキン=ライフスタイル

またダンスの捉え方としても「ブレイキンはライフスタイルなので、日々の動きからダンスに落とし込んでいったり、外に出て見たり触れたりしたことが、結局すべてダンスに繋がっていったりすることが多いです。自分のダンスをブラッシュアップするための、筋トレなどの日々のトレーニングというのも特にしていなくて、すべて踊りながら、軸も筋肉も鍛えています。練習、というのもちょっと普通のスポーツとは考え方が違って、日々の動作や、何かを見て得たインスピレーションから新しい動きを作る時に、その動きの“練習”をすることはありますが、練習を重ねるというよりは、毎日踊っていくなかで身体は出来て行き、自分をブラッシュアップするためには常に試合に出て、実戦の場で強くなっていくというのが自分のこれまでのスタイルです。試合のその時の空気や相手が繰り出してきた技、その時かかる曲など、ブレイキンのバトルはすべてが即興での勝負なので、そこで自分がどう反応して何を出していけるのか。反射神経や経験や勘が頼りです」とひとつの枠にはめ込むことなく取り組んでいる点を明かした。

Dリーグ優勝時には「ダンス、やっててよかった!」の言葉が印象的だった  撮影:SPREAD編集部

さらにダンスへの取り組むも「メンタル的トレーニングも、日々感じることを考えぬくことでメンタルを鍛えていると感じています。マインド作りという点でも、自分の以前の師匠から『一生懸命頑張ることを好きになれ』と教えられたのが大きいです。それは熱中出来ているときで、自分が一生懸命になれているときが最も自分が良い状態の時なので、本当に全部を一生懸命出来ているなら間違いない!と思っています。すべて一生懸命やっていたら、良いことしかない。それで、もしも結果が伴わなくても後悔しないですし、後悔したくないから、熱中します。そして、そのためにも無理はしない。ダンスを嫌いにならないように、無理をしすぎない。ありのままの自分で踊ること。そして、怪我をしそうと思ったら無理をしないで潔くメリハリをつけることも大切です」とその姿勢を示した。

古来より、ダンスは信仰のようなものだと言う人がいるが、“ISSEI流ダンス道”ともいえる話を聞いていたら、一流ダンサーとしての極意のようなものが垣間見えて目が覚める思いがした。と同時に、その道を究めたものだけが行き着くであろう境地に触れ、ある種の悟りともいえる深みを感じることにもなった。

Dリーグでの2年間は、“負ける楽しさ”を知った月日でもあり、これまでになく大勢の観衆の前で踊るという楽しさを知り、「またさらにダンスが好きになった」と語るISSEI。今後はDリーグとは戦い方の違うバトルの世界に戻り、バトラーとしての現場感と勘を取り戻してゆくということをしながら、“記録より記憶に残るダンス”を目指し、自分が楽しいと思うことをやりながらさらにブレイキンの可能性を広げてゆきたいとも語ってくれた。そして、ちょうど2年後の夏、パリ・オリンピックの檜舞台も待っている。

彼の話を聞けば聞くほど、これほどまでにダンスを愛し、ブレイキンの未来を深く広く考えているダンサーはいないのではないかという確信に至ることとなった。オリンピックの金メダル候補という大きな期待もさることながら、ダンス界に、ダンサーISSEIのビッグハートがさらに大きく素敵なオーラとなって降り注ぐ未来が見える気がした2022年の夏。ここからさらに、いろいろな場所で彼のダンスが人々を沸かせることとなるだろう。ISSEIに注がれるダンスの神様の寵愛がますます強くなることを祈りながら、次にまた、彼が様々な舞台で力強く華麗に舞う姿が見られる時を、心待ちにしたい。

撮影: SPREAD編集部

◆21-22アワードショー、ISSEIが2年連続MVD 「世界のスポーツでダンスがもっとも可能性がある」とテリー伊藤

◆THE GREAT HEART of“8ROCKS” ブレイキン世界一のISSEI率いる熱き魂

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著者プロフィール

Naomi Ogawa Ross●クリエイティブ・ディレクター、ライター

『CREA Traveller』『週刊文春』のファッション&ライフスタイル・ディレクター、『文學界』の文藝編集者など、長年多岐に亘る雑誌メディア業に従事。宮古島ハイビスカス産業や再生可能エネルギー業界のクリエイティブ・ディレクターとしても活躍中。齢3歳で、松竹で歌舞伎プロデューサーをしていた亡父の導きのもと尾上流家元に日舞を習い始めた時からサルサに嵌る現在まで、心の本業はダンサー

《SPREAD》
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