【スポーツビジネスを読む】琉球アスティーダスポーツクラブ株式会社早川周作代表取締役社長 後編 NFTが変えるクラブ経営 | CYCLE やわらかスポーツ情報サイト

【スポーツビジネスを読む】琉球アスティーダスポーツクラブ株式会社早川周作代表取締役社長 後編 NFTが変えるクラブ経営

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【スポーツビジネスを読む】琉球アスティーダスポーツクラブ株式会社早川周作代表取締役社長 後編 NFTが変えるクラブ経営
  • 【スポーツビジネスを読む】琉球アスティーダスポーツクラブ株式会社早川周作代表取締役社長 後編 NFTが変えるクラブ経営

今回のインタビューは、果たして本当に「インタビュー」と呼べたのかどうか、書き手としては少々不安に思わざるをえない体験でもあった。通常、インタビューは質問に対し回答を引き出す形式だと考えている。しかし、早川さんには最初のトリガーを与えたのみで、その後はフリートークのように話題が湧き出てくるのだった。

「松下さんからのお話では『多くの上場企業がスポンサーについているから心配ない』という口説き文句だったんです。それが実際に各企業を回ってみると、決定済だったのは、なかったんですよ」と、これもまた早川さんは笑い飛ばす。

それでもほぼ即決で卓球の世界に飛び込んだのには、これまで人がやってこなかったリーグにチャレンジするベンチャー気質があったからだと自身では分析している。

「これから作り上げられるリーグだから、魅力を感じました。私自身、もはや出来上がっているものには情熱を感じないのかもしれません。選挙も事業の立ち上げも、同じです。人がやってなかったこと、それがスポーツの業界でできるチャンスだと計算していたのかもしれない」と振り返る。

結果的に自分がスポーツを引き受けた課題は何だったのか。引き受けたことによって何が実現できるか。どんな社会課題を解決できるか。こうした志に賛同してもらえるように営業を展開。「ビジョンはこう、スピリットはこう、そしてこんなことしています。そうして口説いてきましたが、まだ190社です」。いやいや、190社と相対するだけでも、並外れたフットワークの良さだ。

◆【インタビュー前編】琉球アスティーダスポーツクラブ株式会社早川周作代表取締役社長 「スポーツは儲からない」を豹変させた卓球

■スポーツも時代はトークン、NFT

琉球アスティーダはトークン型クラウドファンディング「FiNANCiE」を活用し7月より国内初のクラブトークン発行を始めている。クラブ運営において、既存のビジネスモデルの柱であるチケット・セールスとスポンサー収益だけに頼らない独自のクラブ経営モデルの構築、および「スポーツ ✕ 〇〇」という掛け算的思考と世界を目指す挑戦を見据えての動きという。

クラブトークン」はすでに欧州を中心とした海外チームで、ブロックチェーン技術を活用し、オンライン上でのファンサービス・クラブ応援ツールとして注目されており、バルセロナFCユベントスなどでも展開されている。特に耳目を集めているのは、NBAが活用しているNFTで、NFT化された固有の動画が高額で取引される例も登場している。

撮影:SPREAD編集部

「トークンについては1年半前から妄想を繰り広げて来ました。世界でも卓球人口は増えていますし、ブロックチェーンを活用して卓球を、テーブルテニスを、世界に広げていくことができないか……その価値を高めていくことで、インドやアフリカにまで広げていくことができると考えています。トークンを活用し資金調達し、いずれはロシアのチームや中国のチームとの互換性も可能になる。NFT化することで、(選手に)センサーを付け動作解析をし、それを(練習向けの動画として)サブスクで海外にまでセールスすることもできるかな……とか。つまり世界で活用できますし、競技人口が増えれば増えるほど、その価値も上昇する。これを次のチャレンジに活用したい」と、その可能性を語る。

■日本では前例が少ないクラブトークンの導入

アスティーダでは10月からクラブトークンを活用した特典もスタート。販売売上は、主に琉球アスティーダのクラブ運営、強化費用、年内12月20日21日、来年2月7日、8日、国内で最もNBAの会場に近いと言われている1万人沖縄アリーナで行われる「アスティーダフェス 2021-2022」イベント企画・運営費に利用される予定であり、クラブトークン購入者は、クラブの投票企画参加、イベントへの招待、特典抽選、アスティーダフェスでの特別な体験などへ応募が可能となっている。

しかし、NFTの扱いまでの道のりは平坦ではなかった。

「国内では、許認可の点で前例が少なく、海外で会社を設立しなければならないかも……と問題があり、そこでフィナンシェさんとご一緒させていただきました。トークンを発行するなんて簡単なことと思って内部監査人と食事をしながら『トークン出すよ』と話したら『ちょっと待ってください!』と血色を変えて言われ……『適時開示』に当たるとか、デジタルグッズの販売でも資金がらみで『あとで問題になるかもしれません』と指摘され突如、夜中に証券会社に電話しました。すると『それはビットコインですが、東証では上場廃止ですよ』とか『トークンの売上はどう計上するんですか』と、そこからひと月、証券会社、監査法人とは延々と協議になりました」と、この困難も早川さんは高らかに笑い飛ばした。

早川さんはスポーツ業界のみならず、ビジネス界としても「上場」という資金調達方法は不要になるのではないかと読んでいる。「株式投資型のクラウドファンディングを初めてやって気づいたんですが今後は、ブロックチェーンで資金調達、トークンで資金調達が可能になります。資産性、投資性を考えると下手な手続きよりトークンでの調達のほうがお手軽です。そうなると将来的には、上場市場がなくなる可能性さえあると思います」と発想そのものがスポーツ界にとどまらない。

もちろん、「スポーツの価値」についても、熟考済だ。

「(メルカリの)小泉さん(小泉文明会長)が鹿島アントラーズを資本提携51%の株式取得で16億円。もちろん『スポーツってこんなに安いのかぁ』と各界から投資が集まるならいいですが、日本でも有数の強豪サッカー・クラブがたったの16億円です。クラブを作った側から見れば、あそこまで成長させても資産価値として32億円と言われると、たまったもんじゃありません。やはり、スポーツチームも50億円で購入したら、5年後には100億円になるような投機対象にならなければいけません」。

日本のスポーツ界ではチームの経営が譲渡されると「身売り」と表現され、長いことマイナスのイメージがついてまわった。しかし、アメリカのスポーツ界を眺めても経営の譲渡は、スポーツの価値が「資産」というかたちをもって高められ、スポーツがビジネスとして潤う構図が確立している。日本も早く、こうした健全なビジネスに成長させなければならないと早川さんは説く。

■業界の垣根を越えた「スポーツパスポート」を

「スポーツを育てて行くためには、プロの経営者を増やすことが、スポーツのエコシステムを生むと思います。プレーヤー人口を含めると関係者は自動車業界に匹敵するほど。やはりビジネス規模も自動車業界レベルにならないとおかしい」と示唆。

そのためには; 1.経営感覚を持ったリーダーの育成・参入 2.プロスポーツチームで上場チーム増加 3.国内だけではなく海外からの資金調達も必要と、唱える。

「スポーツ業界も沖縄県内にスポーツチームが増えると『スポンサーを奪われる』などという妙な意識を捨て、スポーツ全体がどう手を取り合って連携して行くかが必要です。経営者としては数年先には『スポーツパスポート』を作ってくれと、行政にも提案しています。子どもたちが、1日でいろいろなスポーツを観に行けるパスポートです、そして、これからは、むしろスポーツだけにとどまらず『スポーツ ✕ 観光』『スポーツ ✕ 音楽』など業界の垣根を越えて協力していかなければならない、そんな時代だと思います」と先を見据える。

早川さんの語りに耳を傾けていると、日本のスポーツ界の変革は、すぐそこに迫っているように思えてくる。そして、早川さんなら、きっとそれを爆速で具現して行くのだろう。

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著者プロフィール

松永裕司●Stats Perform Vice President

NTTドコモ ビジネス戦略担当部長/ 電通スポーツ 企画開発部長/ 東京マラソン事務局広報ディレクター/ Microsoft毎日新聞の協業ニュースサイト「MSN毎日インタラクティブ」プロデューサー/ CNN Chief Directorなどを歴任。出版社、ラジオ、テレビ、新聞、デジタルメディア、広告代理店、通信会社での勤務経験を持つ。1990年代をニューヨークで2000年代初頭をアトランタで過ごし帰国。Forbes Official Columnist

《SPREAD》
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