【東京五輪/テニス】バーティ、ジョコビッチ、大坂なおみ、錦織圭……メダル候補が次々と去った意外性のオリンピック終幕 | CYCLE やわらかスポーツ情報サイト

【東京五輪/テニス】バーティ、ジョコビッチ、大坂なおみ、錦織圭……メダル候補が次々と去った意外性のオリンピック終幕

新着 ビジネス
【東京五輪/テニス】バーティ、ジョコビッチ、大坂なおみ、錦織圭……メダル候補が次々と去った意外性のオリンピック終幕
  • 【東京五輪/テニス】バーティ、ジョコビッチ、大坂なおみ、錦織圭……メダル候補が次々と去った意外性のオリンピック終幕

東京五輪テニス競技は、日本勢のシングルスでの活躍は錦織圭のベスト8が最高成績となり、また第2シードで出場した大坂なおみは3回戦でマルケタ・ボンドロウソバ(チェコ)に敗退。ボンドロウソバはこの勝利をきっかけに弾みをつけ、銀メダルを獲得した。


土居美咲は2回戦で金メダルに輝いたベリンダ・ベンチッチ(スイス)に敗れ、西岡良仁も1回戦で銀メダリストとなったカレン・ハチャノフ(ロシア・オリンピック委員会)にフルセットの末に初めての五輪を終えた。ダニエル太郎、杉田祐一、日比野菜緒は1回戦で敗退したが、各選手ともに素晴らしい戦いを母国で披露し、ネット観戦で応援してくれたファンに感謝の意を表した。


◆休養の裏にあった素直さとジレンマ 大坂なおみが再び輝くために


■オールラウンダ―に近づいた「NEW錦織」の予感


男子は1回戦で全員がシード選手との対戦となり、それぞれ厳しい試合に臨んだ。その中で唯一、錦織圭が第5シードでATPランキング7位のアンドレイ・ルブレフ(ロシア・オリンピック委員会)に素早く鮮やかな動きから、鋭いショットを放ち続けストレートセットで快勝した。うねるような錦織のフォアが調子の良さを物語り、ここ近年取り組み続けてきたネットプレーで勝負所を抑える姿に「復活」という言葉は似合わない。今までのストローク主体の攻撃的なプレーにネットでのポイント取得が大きく加わり、オールラウンダ―に近づいた「NEW錦織」と呼べる。


3回戦では第10シードのガエル・モンフィス(フランス)を破り勝ち上がってきたイリヤ・イバシカ(ベラルーシ)に経験の高さを見せつける。ファーストセット7-6(7)の激闘を制し、セカンドセットは絶対に流れを渡さない気迫のプレーで6-0と勝負を決めた。


準々決勝ではメダル獲得に向け、大きな壁である第1シードのノバク・ジョコビッチ(セルビア)と激突。前日までの酷暑の中での連戦に疲れもあっただろうが、ジョコビッチの正確なストロークに追いつかないシーンが多く、2-6、0-6と圧倒される結果となった。錦織は「なるべくラリーをして食らいついていく作戦だったが、彼のディフェンスが思った以上に良かった。最初のサービスゲームをブレークされプレッシャーをかけられず、ほとんど完璧にプレーされた。何もできなかった」と悔しさをにじませた。しかし、今大会で復帰後から今までにない良い感覚が戻ってきていることを実感していることから、北米シーズンでの戦いで勢いをつけ全米オープンでの上位進出を期待したい。


■新時代突入を感じさせたズべレフの金メダル


ジョコビッチが錦織戦で見せた絶対王者の戦いぶりから、彼が金メダルを取ると確信した人も多かったのではないだろうか。しかし、準決勝で第4シードのアレクサンダー・ズベレフ(ドイツ)に歴史的アップセットと呼べる白星を与えてしまい、グランドスラム4大会とオリンピック制覇という、ゴールデンスラムの夢は断たれた。


さらに3位決定戦でも一度狂った歯車を止められずパブロ・カレーニョ・ブスタ(スペイン)に敗れ、メダルを手にせず五輪を終えた。


2011年のウィンブルドン選手権で初優勝して以来、世界ランキング1位に通算328週ものあいだ君臨しているジョコビッチからすると、過去4名(シュテフィ・グラフ、アンドレ・アガシ、ラファエル・ナダル、セリーナ・ウィリアムズ)しか達成していないゴールデンスラムの夢を逃した一戦を忘れることはできないだろう。しかし、彼はテニス界の英雄でありスポーツ界の偉人。3年後のパリ五輪でも是非、ゴールデンスラムの夢を追いかけてもらいたい。


ジョコビッチを倒し歴史的快挙を成し遂げたズべレフは、好調をキープし母国ドイツに金メダルをもたらした。彼の次なる目標は全米オープン優勝と思われる。ジョコビッチの圧勝劇を止めたズべレフを筆頭に“ネクストジェン”の活躍が本格化していることから、男子テニスが新時代に突入することは間違いない。


■大坂に影響を与えた“空間の違い”


女子は第1シードのアシュリー・バーティ(オーストラリア)が1回戦で姿を消し、聖火最終ランナーを務めた大坂なおみが金メダル最有力者となった。大きなプレッシャーを背負い挑んだ初戦では、見ていて気持ちのいいほど彼女の良さである超攻撃型のパワーテニスが披露され、私たちに明るい未来を予感させた。ところが台風の影響から屋根が閉まったコロシアムで行われたボンドロウソバとの3回戦では、どうも調子が上がらないまま1-6、4-6のストレートで敗退。試合後の会見でも「自分でも分からないほど調子が上がらなかった」と肩を落とし、悔しさのあまり涙を流していた。


今回の敗戦に対し、湿度や室内の冷房を効かせた気温の変化が指摘されている。それに加え筆者の経験上、コロシアムは屋根が開いている状態と閉まっている状態では音の反響も変わることから「ボールスピードを速く感じてしまうのではないか」と気になっていた。屋根が開いている状態では、どれだけ打っても音は空に逃げていきコートを広く感じるという選手が多い。閉時は空間が狭くなったように感じ、音も響きやすい効果から調子が上がる選手もいるが、この時ばかりはボンドロウソバが先にいい感触を掴み取ったように思う。大坂本人がどう感じたか定かでないが3回戦では2回戦までと違い、振り遅れのようなシーンもよく見られ、試合序盤で空間の違いにフィット出来なかったことが勝負に大きく影響したようにも感じる。


テニス選手は日々変わる環境に対応していかなければいけないことは今に始まったことではないが、本人は屋内となったコロシアムの照明が気になったことを試合後に吐露していた。


■才能の成熟を証明したベンチッチとボンドロウソバ


また彼女の敗退から聖火の最終ランナーをやめさせた方が良かったのではないか……との指摘もあるが、筆者は決してそうは思わない。ハイチ系アメリカ人の父と日本人の母から生まれた大坂は14歳から参戦してきたプロサーキットで最初から日本国籍を登録し、今までの功績も日本アスリートの活躍として社会に還元してきた。東京五輪の理念にもある「多様性と調和」は、彼女のようなルーツを持った選手が一人の人間として人種差別やアスリートのメンタルヘルスを訴えていることに大きな意味を持つ。「純血ではないから……」と意地悪なことをいう人もいるが、母国を愛し「日本のために戦いたい」とまで言ってきた彼女の気持ちにも耳を傾けるべきではないだろうか。


そしてテニス競技の自由なファッション性を活かし、ジャパンカラーである赤と白を使った髪の毛でトータルコーディネートされた自己表現もテニス以外の才能を開花させている彼女にしかできなかったと見ている。


テニス界初の聖火最終ランナーとして歴史を作り、多くの人が繋いできた「願いの灯」を聖火台に灯した姿は世界中の人々の心に焼き付いた。筆者もその一人であり、今後もスポーツ界の発展、多様性を尊重する社会を目指すためにも彼女の存在は欠かせない。


そんな大坂が辿り着けなかった決勝で夢を叶えたベンチッチは、幼少期から憧れたマルチナ・ヒンギスやロジャー・フェデラーも成し遂げられなかった五輪シングルスで黄金色のメダルを首にかけた。「笑っていいのか、泣いていいのかわからないの。まさかこんなことになるとは思わなかったから……人生を懸けて戦ってきたことが上手くいった」と笑顔で語りながらも溢れる涙を抑えきれなかった。


ベンチッチは16歳でジュニアNo.1に到達、翌年はプロと肩を並べ全米オープンで最年少準々決勝進出を果たし「天才少女」「ヒンギス2世」と謳われていた。また銀メダリストのボンドロウソバもジュニアNo.1から19歳で2019年の全仏オープン準優勝を飾った実力の持ち主。ジュニア時代から期待されてきた2人がオリンピックという最高の舞台で才能の成熟を証明したと言っていいだろう。


すでにテニス界は日常のトーナメントに戻っている。3年後のパリで、また素晴らしいプレーが、今度は観客のいる日常の世界で堪能できるよう、願ってやまない。


◆休養の裏にあった素直さとジレンマ 大坂なおみが再び輝くために


◆【パラリンピック/テニス】日本のレジェンド国枝慎吾、上地結衣の伝説は東京で完結するか


◆大坂なおみに「日本人なのか?」…豪紙が五輪最終聖火ランナー「不適任」指摘 各国メディアで批判


著者プロフィール


久見香奈恵●元プロ・テニス・プレーヤー、日本テニス協会 広報委員1987年京都府生まれ。10歳の時からテニスを始め、13歳でRSK全国選抜ジュニアテニス大会で全国初優勝を果たし、ワールドジュニア日本代表U14に選出される。園田学園高等学校を卒業後、2005年にプロ入り。国内外のプロツアーでITFシングルス3勝、ダブルス10勝、WTAダブルス1勝のタイトルを持つ。2015年には全日本選手権ダブルスで優勝し国内タイトルを獲得。2017年に現役を引退し、現在はテニス普及活動をはじめ後世への強化指導合宿で活躍中。国内でのプロツアーの大会運営にも力を注ぐ。

《SPREAD》
page top