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ウィンブルドンが1週目を終え、折り返し地点であるミドルサンデーを終えた。男女ともにベスト16が決まり、月曜日からは優勝に向かって選手たちの戦いが、さらにヒートアップする。
そんな中、女子では2人のティーンエイジャーが勝ち残っている。
【実際の映像】ラウンド16に進出したイギリス人女性の最年少記録を刻んだ瞬間
■元女王を破りグランドスラム本戦デビュー
ひとりはコリ・ガウフ(アメリカ)。誰もが衝撃を受けた2年前のウィンブルドン、ガウフは15歳ながら予選を勝ち上がり、1回戦ではグランドスラム7勝を持つ元女王ビーナス・ウィリアムズ(アメリカ)を倒し4回戦進出。
このセンセーショナルなグランドスラム本戦デビューを果たしてからは、みなが彼女に夢中になり「アメリカの天才少女が現れた」と常に耳目を寄せるようになった。以降、ガウフはフロックとは言わせない強さを継続して見せつける。
ツアータイトル2勝を挙げ、17歳になって挑む今大会では堂々の第20シード。「誰と対戦しても私は勝ちたい」と鋭いまなざしで語り、17歳とは思えないほど静かな自信に満ち溢れている。
俊敏な動きから弱点は無いかのようにコートを守り切り、相手の隙を逃さず一気に攻め立てる。攻撃的であるが、無駄に攻撃するのではなく、テニスが「確率のスポーツ」であるという特性をよく理解し、プレーの安定度も高い。相手の動きと試合の流れをよく読みながら、攻撃するポイントを選び抜き、一瞬の決断から放たれるエースショットは、脂がのった経験豊富なオールドプレイヤーのように見えて仕方がない。
今年の全仏オープン準々決勝、覇者となったバルボラ・クレイチコバ(チェコ)に5-4リードのサービスゲームからタイブレーク6-8で1セット目を落とし、2セット目は完全に相手のペースで1-5と離されたところから、もがきにもがいて3-5まで追いついた。結果、6-7(6)・3-6で敗退したものの試合後にはこう語っている。
「最後まで諦めずにファイトすることは未来への投資になる。私のその姿勢を知っていれば、対戦相手は試合終盤でナーバスになるだろうから」。
これこそ未来のチャンピオンへと駆け上るガウフの強さではないだろうか。自身への反省のみならず、敗戦からも相手にプレーシャーを与えるという高度な思考力と現実の受け止め方は立派だ。
またウィンブルドンが始まる前、ガウフはこんな言葉を残した。「私たちはみな、いつかは死ぬのだから、それを最大限に活かしたいと思っている」。こうした記者会見での姿もティーンエイジャーと思えないほど。自身の身に起きている状況を的確に把握している様には驚きを覚える。
何度も言うが彼女はまだ17歳だ。
自身が選んだ戦いの世界に迷いはない。そんな彼女が2年前の結果で満足するわけがない。月曜日の4回戦では、2018年ウィンブルドン覇者、ドイツのアンジェリーク・ケルバーと対戦する。果たして準々決勝進出となるか……。
■ワイルドカード枠で出場のランキング338位
そして、注目すべきもうひとりは、英国のニューヒロイン、18歳のエマ・ラドゥカヌだ。大会前の彼女のランキングは338位、今大会はワイルドカード枠での出場となり幼少期から思い描いていた夢の舞台へと足を踏み入れた。
ITFツアーで3勝の実績を持つがWTAツアーデビューを果たしたのは前哨戦のWTA250ノッティンガム大会。前述にあるようにトップ選手との試合経験は乏しく、今までにトップ100の選手に勝った経験はなかった。
そんなラドゥカヌは1回戦でWTAランク最高位71位だったビタリア・ディアチェンコ(ロシア)を7-6(4)、6-0で下し、2回戦では2019年の全仏オープンファイナリストであるマルケタ・ボンドロウソワ(チェコ/現42位)に6-2、6-4のストレートで破り大金星をあげる。続く3回戦ではグランドスラムで14年も活躍し、2回戦で元世界NO1のビクトリア・アザレンカに勝ち上がってきたソラナ・シルステア(ルーマニア/現45位)を6-3, 7-5で破り、大会2週目の切符を手にした。
今回でトップ50の選手を2人破り、ウィンブルドンで大きなキャリアアップを遂げていることに「信じられない。最高の時間を過ごしている。このワイルドカードを最大限に活かし、自分が獲得したことを示したいと思っていた。チャンスを与えてくれたAELTCに感謝しています」と爽やかな笑顔で喜びを爆発させた。
英国のティーンエイジャーがウィンブルドンでベスト16に進出したのは彼女で4人目となる。オープン時代になってからグリニス・コールズ(1973年)、デボラ・ジェバンズ(1979年)、ローラ・ロブソン(2013年)に続く快挙。また、18歳と239日のラドゥカヌは、全英オープン化以降、ウィンブルドンでラウンド16に進出したイギリス人女性の最年少記録となり歴史に名を刻んだ。
今思い返せば、コリー・ガウフが2年前に衝撃デビューを果たしたときの世界ランクは313位……またラドゥカヌも338位で鮮やかなグランドスラム本戦デビューを飾った先に何が待っているだろうか。
まずは準々決勝でアイラ・トムヤノビッチ(オーストラリア/75位)との対戦に注目が集まる。
◆ウィンブルドンを揺らしたマレーの雄叫びと観客の狂熱「まだ最高のレベルでプレーができる」
◆殿堂プレーヤー、ノボトナに捧げる クレイチコバの全仏オープン単複優勝
著者プロフィール
久見香奈恵1987年京都府生まれ。10歳の時からテニスを始め、13歳でRSK全国選抜ジュニアテニス大会で全国初優勝を果たし、ワールドジュニア日本代表U14に選出される。園田学園高等学校を卒業後、2005年にプロ入り。国内外のプロツアーでITFシングルス3勝、ダブルス10勝、WTAダブルス1勝のタイトルを持つ。2015年には全日本選手権ダブルスで優勝し国内タイトルを獲得。2017年に現役を引退し、現在はテニス普及活動をはじめ後世への強化指導合宿で活躍中。国内でのプロツアーの大会運営にも力を注ぐ。
■ラウンド16を進出が決まりイギリス人女性の最年少記録を飾った瞬間
This match point tho □
Take a bow and drink it in, @EmmaRaducanu!
□: @Wimbledonpic.twitter.com/gFDKw9qMig
— wta (@WTA) July 3, 2021