
ラグビーは番狂わせが少ない球技といえる。善戦はあっても、ランキング順位をひっくり返して勝利を掴むことはかなり難しい。今シーズンのトップリーグでも番狂わせはほとんど起きていない。だからこそラグビーの応援は判官びいきになりがちだし、番狂わせが起こったときの興奮はひとしおといえる。
9日に行われたトップリーグ2021プレーオフトーナメント準々決勝、クボタスピアーズvs神戸製鋼コベルコスティーラーズの一戦は、手に汗握るアップセット劇となった。
【動画】準々決勝にふさわしい手に汗握るアップセット劇! クボタvs神戸製鋼戦ハイライト
■主導権を握ったクボタのチャレンジャー魂
クボタも実力のあるチームとはいえ、リーグ戦は3位。ディフェンディングチャンピオンの神戸製鋼に対してはアンダードッグといっていいだろう。そのクボタがチャレンジャー魂を剥き出しに先制攻撃に出た。開始3分でバツベイシオネのトライで先制すると、9分にもトライを追加。10分までに14-0と主導権を握った。
さらにPGで17-0と差は広がったが、この時点でも神戸製鋼に焦りはなかったはずだ。ラグビーで本当の実力差が現れるのは後半の20分以降、序盤劣勢からの逆転は何度も経験している。しかも3年5カ月間、一度も負けたことがないチームは自信に満ち溢れている。
試合の流れが変わったのは29分。クボタの司令塔バーナード・フォーリーの気迫あふれるタックルが、危険プレーと判定されレッドカード、退場となってしまった。クボタはリーグ戦でサントリーサンゴリアス、トヨタ自動車ヴェルブリッツに惜敗しているが、いずれもイエローカードによる退出時の失点が響いたものだった。またか、という暗雲が漂う。
■50分間14人で掴んだ貴重な勝利
ラグビーは退場者が出ると、サッカーに比べて戦力バランスが大きく変化する。接戦の好ゲームがイエローカード1枚によって台無しになった例は何度も観ている。これは個人的な意見だが、イエローカード、レッドカードの頻度を減らしてほしい。実際、カードの対象になった危険タックルの多くは懸命なプレーによるアクシデントであり、悪質なケースは少ない。また、オーストラリアのルールではレッドカードは退場ではなく、20分間の退出となっている。ぜひ見直しを検討してほしい。
試合に戻ろう。後半、予想通りに神戸製鋼がじわじわと追い上げ、スコアは20-14と6点差。そして、30分、ゴロパントをうまく抑えた山下楽平のトライ(コンバージョン成功)で、ついに20-21と試合はひっくり返った。クボタの善戦もここまでかと思われたが、なんと36分にPGのチャンスが! ファンデンヒーファーが慎重にボールをプレースした。
ここで思い出されるのが、4月11日のトヨタ自動車戦だ。6点リードで迎えた80分、試合を終わらせるはずだったファンデンヒーファーのPGがゴールを外れ、そのボールをインゴールから運ばれて逆転トライを許してしまったのだ。しかし、悪夢も二度は起こらなかった。逆転PGがポストの間を通過して再逆転。その後の猛攻をしのいでクボタが初のベスト4進出を決めた。50分間を14人で戦って掴んだ、価値がある勝利だった。
■いよいよ準決勝、注目ポイントは?
NTTドコモレッドハリケーンズvsトヨタ自動車も追いつ追われつの好ゲームだった。前半を11-15と4点ビハインドで終えたNTTドコモが後半3分に茂野洸気のトライで逆転。一時その差を8点に広げたが、最後はヘンリー・ジェイミーに2トライを奪われて29-33で力尽きた。NTTドコモの今シーズンの快進撃を象徴する善戦だった。
パナソニック ワイルドナイツはキャノンイーグルスを17-32と退けた。圧巻は福岡堅樹の自陣22メートルからの80メートル独走トライ。緩急鋭い独特のステップワークは、間違いなく世界クラスであることを再確認した。本当にいいものを見せてもらいました!
さて、準決勝はトヨタ自動車vsパナソニック、クボタvsサントリーという組み合わせとなった。楽しみなのは、クボタが圧倒的な得点力を誇るサントリーに挑む一戦。サントリーはリコーブラックラムズにコロナ感染者が出て準々決勝が不戦勝となった。このため中2週となり、4月11日以降、5週間で1試合しかしない異例のローテーションとなった。これがどう出るか。勢いに乗るクボタが再びアップセット劇を演出できるか、注目だ。
パナソニックのディフェンスはさらに磨きがかかっている。特に自陣ゴール前の密集では、相手ボールとみるやひとりもラックに入らずにタックル体勢を取る。フェイズを重ねて得点を取るのは至難の業だ。トヨタ自動車のフォワード・アタックも強烈だが、ロースコアでのパナソニックの勝利を予想する。プレーオフトーナメントも残すところ3試合。いい試合を期待したい。
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著者プロフィール
牧野森太郎●フリーライター
ライフスタイル誌、アウトドア誌の編集長を経て、執筆活動を続ける。キャンピングカーでアメリカの国立公園を訪ねるのがライフワーク。著書に「アメリカ国立公園 絶景・大自然の旅」(産業編集センター)がある。デルタ航空機内誌「sky」に掲載された「カリフォルニア・ロングトレイル」が、2020年「カリフォルニア・メディア・アンバサダー大賞 スポーツ部門」の最優秀賞を受賞。