【スポーツ誌創刊号コラム】地方誌を侮るなかれ 愛媛のスポーツチーム、アスリートを応援する『E-dge』3周年 | CYCLE やわらかスポーツ情報サイト

【スポーツ誌創刊号コラム】地方誌を侮るなかれ 愛媛のスポーツチーム、アスリートを応援する『E-dge』3周年

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【スポーツ誌創刊号コラム】地方誌を侮るなかれ 愛媛のスポーツチーム、アスリートを応援する『E-dge』3周年
  • 【スポーツ誌創刊号コラム】地方誌を侮るなかれ 愛媛のスポーツチーム、アスリートを応援する『E-dge』3周年

■愛媛だからこそ「ありえる」スポーツ専門雑誌


愛媛のスポーツマガジン E-dge(エッジ)』は、2018年2月28日に愛媛新聞社から創刊された文字通り「愛媛のスポーツ」に特化した雑誌だ。


スポーツ業界にも出版業界にも身を置かぬ方からすると、「なぜ愛媛?」という疑問も湧くだろう。しかし愛媛の方、四国の方からすれば釈迦に説法なテーマだが、愛媛は野球どころとしてあまりにも名高い。


「野球」という和訳を考案したのは明治27年(1894年)、鹿児島出身の中馬庚(ちゅうま・かのえ)(この方、なぜか名前の読みが定まっていない珍しい方です)。だが、なぜか通説では愛媛県松山市出身の正岡子規とされることが多いのも、その縁あってこそと思われる。


正岡子規が「野球」という和訳の発明者とされるのは、その野球愛からだろう。幼名「正岡升(のぼる)」という本名にひっかけ自身の号を「野ボール(野球)」とし、おそらくこれが広まることで「正岡子規=野球」説が広まったと考えられる。


また、巨人「初代監督」とされる藤本定義の活躍による影響もあるだろう。藤本は松山商、早稲田大学で活躍し、その後は当時の東京鉄道局野球部(現在のJR東日本)に監督として在籍。黎明期の東京巨人軍を相手に2勝を挙げ、名を轟かせた(当時の巡業で巨人は36勝3敗。3敗のうち2つが藤本率いる東鉄だった)。その采配手腕を見込まれ、巨人の監督に就任。7年で7度の優勝を勝ち取り、巨人の第一期黄金時代を築き上げた人物だ。


さらにプロ野球黎明期の「ミスター・タイガース」景浦將も松山出身。コミック『あぶさん』の主人公の名は、彼にちなんだとされている。


以降、巨人の藤田元司(投手および監督)、西本聖投手、遊撃手だった河埜和正、愛媛県人初のメジャーリーガー・元ヤクルトの岩村明憲など時代を代表する野球選手を輩出し続けている。


よって半ばスポーツ業界に身を置く私からすると、「愛媛のスポーツ専門雑誌」は奇異なことでもなんでもなく、愛媛だからこそ「ありえる」雑誌だと考えている。


発行人は土居英雄、編集人は元永知宏。彼は私にとって大学の同期でもある。


スポーツの話題が充実する愛媛ならではのコンテンツ


創刊号の特集は、その雑誌の行方を占う意味でも興味深い。目次にさっと目を通しても中々、唸らせるチョイス。巻頭特集は「愛媛から世界へ」と題し、サッカー日本代表元監督、現FC今治岡田武史オーナー(現・代表取締役会長兼オーナー)にインタビュー。将来のエースと目される阪神秋山拓巳投手、福島ホープス岩村明憲監督、ジュビロ磐田川又賢碁選手、さらには声優・水樹奈々と豪華なメンバーが出揃う。


巻頭特集のFC今治・岡田武史氏のインタビュー


愛媛にはプロ野球球団こそないものの、元巨人で投手だった河原純一監督が率いる愛媛マンダリンパイレーツが、四国アイランドリーグの雄として人気を博しており、2018年から2年連続で後期優勝を果たしている。


また、サッカーもJ2にFC愛媛があり、岡田武史氏が率いるFC今治も「世界」を目指している。バスケットボールもB2の愛媛オレンジバイキングスが存在。他にも県内学生スポーツの動向や結果を誌面では掲載しており、話題に事欠かない県民事情がありそうだ。


幅広い競技をカバーした「E-dge」創刊号の目次


■地元企業の広告サポートも充実した地方紙の“ロールモデル”


雑誌はもちろん有料ではあるが、購読費だけで賄える商売ではない。入広(いりこう)、つまり広告収入の比重は非常に高く、現在のファッション誌が大した部数でもないにも関わらず、存続できているのはそのためだ。


この広告も重要な表4(裏表紙)には愛媛トヨタ、表2(表紙の裏)にはレクサス松山、表3(裏表紙の裏)には三浦工業株式会社と、地元企業のしっかりとしたサポートが感じられる。愛媛新聞社の広告営業の力強さを思い知る出来だ。ちなみに三浦工業は、松山で創業されボイラーなどの製造販売を世界で展開する企業。地方発の企業力は極めて侮れないと痛感する。


『E-dge』創刊号の表1(左)と表4


地元企業である三浦工業による表3広告(左)


元雑誌屋としては、けっこうワクワク感満載な雑誌だ。地方活性化のためにも、こんなメディアは今後増えて行くのかもしれない。他地方からしても、ひとつのロールモデルに違いない。


元永編集長自身も愛媛の出身。創立119周年という由緒正しい県立大洲高校から立教大学野球部卒(2020年で創立120周年)。東京と愛媛の二重生活が続いていると言うが、年齢に負けず、ぜひこれからもこの雑誌を切り盛りして欲しいと陰ながらエールを送りたい。


『E-dge』は2021年で2月で創刊3周年を迎える。2020年4月号では松山商業野球部監督だった澤田勝彦さんを表紙に据え、75%以上の実売率を記録した。


うむ、やはり愛媛は侮れん。次号は12月20日発売とか。愛媛出身ならずとも、気になる方はぜひ。


ハフィントンポスト 2018年10月23日掲載に加筆・転載


著者プロフィール


たまさぶろ●エッセイスト、BAR評論家、スポーツ・プロデューサー


『週刊宝石』『FMステーション』などにて編集者を務めた後、渡米。ニューヨークで創作、ジャーナリズムを学び、この頃からフリーランスとして活動。Berlitz Translation Services Inc.、CNN Inc.本社勤務などを経て帰国。


MSNスポーツと『Number』の協業サイト運営、MLB日本語公式サイトをマネジメントするなど、スポーツ・プロデューサーとしても活躍。


推定市場価格1000万円超のコレクションを有する雑誌創刊号マニアでもある。


リトルリーグ時代に神宮球場を行進して以来、チームの勝率が若松勉の打率よりも低い頃からの東京ヤクルトスワローズ・ファン。MLBはその流れで、ニューヨーク・メッツ推し。


著書に『My Lost New York ~ BAR評論家がつづる九・一一前夜と現在(いま)』、『麗しきバーテンダーたち』など。

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