ラグビー・トップリーグのサントリー・サンゴリアスは、フランス・リーグ、ASMクレルモン・オーヴェルニュへの移籍を控えた松島幸太朗選手のインタビューをホームページに掲載した。
コロナ禍による異常な状況での移籍。松島選手の意気込みを読み解いてみよう。
«文:牧野森太郎 フリーライター»
ライフスタイル誌、アウトドア誌の編集長を経て、執筆活動を続ける。キャンピングカーでアメリカの国立公園を訪ねるのがライフワーク。著書に「アメリカ国立公園 絶景・大自然の旅」(産業編集センター)がある。デルタ航空機内誌「sky」に掲載された「カリフォルニア・ロングトレイル」が、2020年「カリフォルニア・メディア・アンバサダー大賞 スポーツ部門」の最優秀賞を受賞。
クレルモンってどんなチーム?
まず、松島選手が移籍するASMクレルモン・オーヴェルニュがどんなチームなのか、紹介しよう。
フランスのプロリーグ「トップ14」は、その名のとおり14チームで構成される。ASMクレルモン・オーヴェルニュが現在のチーム名になったのは2004年だが、前身のASモンフェランデーズは1922年、その前身のASミシュランは1911年に設立された歴史あるチームだ。
2010年に念願の初優勝を勝ち取ると、2017年に2度目のリーグ制覇を達成。2018-2019年シーズンはスタッド・トゥールザンに次ぐ2位と健闘した。人口14万人強の小さな町にフランチャイズを置くが、国内でも人気のあるチームだ。
日本ワールドカップに参加したフランス代表選手としては、ラバ・スリマニ(PR)、セバスチャン・ヴァーマイナ(LO)、アルトゥール・イトリア(NO8)、カミーユ・ロペス(SO)、ダミアン・プノー(CTB)らが在籍している。
しかし、一番のビッグネームは、スコットランド代表のスクラムハーフ、グレイグ・レイドローだろう。ジャパンにとって憎き敵将だったレイドローと松島選手がパスを繋ぐシーンは、想像するだけで胸が躍る。
フランス・リーグ移籍に不安はなし
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(c)Getty Images
松島選手のクレルモンへの移籍は、昨年のワールドカップ終了後に発表されていた。なぜクレルモンを選んだかについて、松島選手はこう答えている。
「まずはチームとして温かく迎え入れるということを聞きました。自分が早く溶け込める環境にしたいと思っていたので、そういったところでこのチームが良いのかなと思いました」
さらに、移籍について、サンゴリアスの同僚でトップ14のRCトゥーロンでプレー経験のあるマット・ギタウに相談したと明かしている。
フランス・リーグ挑戦に対する自信は? と聞かれると、「たくさんいろんな舞台でラグビーをやってきて、そういった積み上げが出来ているので、そういった部分で自信はあります」と、きっぱりと答えている。
考えてみれば、桐蔭学園高校卒業後、シャークス(南ア)のアカデミー、ワラターズ(豪)、レベルズ(豪)、サンウルブズと国際的なチームでたっぷりと経験を積んできた。今さら、フランスに行くことに不安はないだろう。
松島選手に最もふさわしいポジションは?
ファンとして気になるのはポジションだ。ワールドカップではウイングとして起用され、5トライと決定力を見せつけた。ウイング・松島のイメージが定着した感がある。
しかし、筆者は、松島選手のパフォーマンスが最大限に発揮されるのはフルバックだと信じている。相手陣形を瞬時に見る判断力は、相手選手との距離があるときに切れまくる。ゲームをスリリングに演出する彼のカウンターアタックは、まさに国際レベルだ。
余談になるが、ワールドカップを迎えるにあたり、ダミアン・マッケンジー(NZ)、イスマエル・フォラウ(豪)、松島幸太朗(日)のフルバック対決を一番の楽しみにしていた。ところが、3人ともそれぞれの理由で15番をつけてピッチに立つことはなかった。
できれば、フルバックでフランスのファンを沸かせてほしい。それが、筆者の願いだ。
ユーティリティプレーヤーとして出場機会を増やす
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(c)Getty Images
一方で、センターに挑戦する、という構想もあるようだ。ポジションについて、どう考えていますか? との問いに、「センターも出来ればやっていきたいです。自分の中でどんどん幅を広くしていきたいという気持ちがあるので、どのポジションでもやっていきたいと思います」と答えている。
ここで思い出すのは、五郎丸歩選手の例だ。2015年、ワールドカップ・イングランド大会で“時の人”となった五郎丸選手は、大会後、レッズ(豪)に移籍した。しかし、出番に恵まれず、ヤマハ発動機ジュビロに戻った後、フランスのRCトゥーロンに渡った。ところが、ここでも試合出場の機会はなかった。
なぜ、五郎丸選手ほどのプレーヤーが試合に出られないのか? その理由のひとつは、フルバックしかできなかったからだろう。
現代ラグビーでは、複数のポジションをこなすユーティリティープレーヤーが重宝される。もの凄い突破力を誇るウイングが代表選考から漏れる例は驚くほど多い。
フルバック、ウイング、そしてセンターもできれば、フランスでも試合に出場するチャンスは多くなるだろう。
もう一度、日本でのプレーも見せてくれ!
気が早い話になるが、次回のワールドカップは2023年にフランスで開催される。そのとき、松島選手は30歳になっている。
フォワードに比べて、バックスはトップ選手として活躍できる期間が短い。松島選手がどこにいて、どんな活躍をしているか、期待を持って見守りたい。
最後に、気になる質問。
フランスで活躍し、その後、日本に復帰するということはあり得ますか?
「全然あり得ると思います。海外でまず自分がやりたいことをやり、しっかりと達成感があれば、あり得ると思います」
待ってるぜ、松島!
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