【インタビュー】サッカー日本代表コーチ&青学陸上部トレーナーに聞く…仕事の苦労と喜び | CYCLE やわらかスポーツ情報サイト

【インタビュー】サッカー日本代表コーチ&青学陸上部トレーナーに聞く…仕事の苦労と喜び

オピニオン ボイス

早川直樹氏(左)と中野ジェームズ修一氏
  • 早川直樹氏(左)と中野ジェームズ修一氏
  • 早川直樹氏(左)と中野ジェームズ修一氏
  • 早川直樹氏(左)と中野ジェームズ修一氏
  • 早川直樹氏(左)と中野ジェームズ修一氏
  • トレーニングするサッカー日本代表メンバー(2015年9月7日)
アスリートがトレーニングに欠かせないものに、コーチやトレーナーの存在がある。メディアから注目される選手や監督の影に隠れ、表に出る機会は少ないが彼らの力無くして一流選手は育たない。

アディダス ジャパンはトレーニングに対し、「やらなきゃ」という意識を「やりたい」という気持ちに変える新常識を提案している。今回は同社と契約する2名の縁の下の力持ち、サッカー日本代表でコンディショニングコーチを務める早川直樹氏と、箱根駅伝三連覇を達成した青山学院陸上競技部でフィジカルトレーナーを担当する中野ジェームズ修一氏に話を聞いた。

選手と信頼関係を築き、「やりたい」気持ちを与える指導者たちはトレーニングの現場で何を考えているのだろうか?(聞き手はCYCLE編集部・五味渕秀行)

早川直樹氏(左)と中野ジェームズ修一氏

---:それぞれ監督から求められてることは何ですか?

早川直樹氏(以下、早川):監督によって違いはありますが、今のサッカー日本代表チームの監督からはコンディショニングコーチという立場で仕事をさせてもらっています。まずコンディションの維持とケガを限りなく少なくすることを求められます。

あと意外に多いのが、自分のフィロソフィーを選手に落とし込めということ。コンディショニングに関してというよりは、サッカーに対する考え全般をコーチとして落とし込むのが役割だとよく言われます。

中野ジェームズ修一氏(以下、中野):私は種目によって監督からオーダーされる内容やレベルがまったく違います。また選手からダイレクトに相談が来て、監督からコンタクトがない場合もあり、すごく難しいケースもあります。

駅伝の場合は、とにかく走れるコマの数を増やしてくれと言われます。50人の部員がいるとして、50人全員が(エントリーに)選べるようにしてほしいと。そこにケガをしている人が5人いたら(選べるコマが)45人になってしまいますし、半分いたら25人からしか選べなくなってしまいます。

数が増やせるように、ケガをする選手をできるだけ少なくしてくれとオファーをされます。それプラス勝てるために何が必要なのか。フォームや体幹が安定することは当たり前すぎるので、そこから何を強化したら勝てるのか。

ふたつしかありません。他の選手と比べて圧倒的な筋持久力と圧倒的な心肺持久力があったら勝てるんですよ。そこを弱い所で競っていたら差をつけることはできないですし、圧倒的な筋持久力と心肺持久力を高めてあげたらいけるはずなんです。でも、そのためには相当キツいトレーニングを積まないといけない。

実業団の子たちによく言われるのですが「中野さんのトレーニングをやっているなら、レースの方がラク」って(笑)。そう言って優勝して帰ってくるので嬉しいですけど、週1~2回キツいトレーニングをやって追い込んでもケガをさせないことが重要。私はフィジカルトレーナーなので、フィジカルを向上させることが目的で、そこを一番求められますし提供していきたいと思っています。

---:お二人からケガという言葉が出ました。ケガをさせないために選手たちに伝えていることは何ですか?

早川:当たり前のことになりますが、自分なりの生活のリズムをしっかり作ること。あとは睡眠と食事。これは言い続けています。ケガの予防と良いパフォーマンスを出すための前提条件は表裏一体の所があります。サッカーの練習は一日に2時間程度しかやらないわけですが、残りは22時間あって、その内に8時間寝ても10時間以上フリーになります。そこで何をやるのか。

監督は選手やチームのことを考えて2時間のトレーニングで質やボリュームを決めているので、それ以外にチームのトレーニングと同じような負荷をかけてしまったら監督の計画が狂ってしまいます。そうではない形で、自分の体と向き合えるようなことを選手と一緒に考えています。何が足りないのかテストをさせてもらうこともあります。僕の主観だけだと選手も納得できないこともあるので、そういうことを繰り返しているのが現状ですね。

中野:早川さんのおっしゃったように睡眠や食事は当たり前のことですが、たとえば長距離選手だと合宿では三部練なんですよ。朝練、午前練、午後練と3回練習があります。走っている量もとてつもない量を走っていて、夜は自分たちでケアの時間になります。

他の種目の選手の場合ですが、リオデジャネイロ五輪の前に2週間、奄美で合宿をやったときは朝9時~夜9時まで練習なんですね。間にお昼休憩が1時間と仮眠が1時間入るだけで、時計が一周するまで練習し続けることをしようって。そこからフィジカルトレーニングが1時間入るんですよ。さらにケアをして(睡眠を取り)、また朝9時から練習に入ります。

そこで選手たちにいつも言っているのはセルフコンディショニングです。自分でちゃんとアイシングやストレッチをすること。アイシングはトレーナーがしてくれることと思うのは間違っていて、アイシングやストレッチ、アイスバスも自分でやること。基本的なコンディショニングは自分でやることで、それができていたらプラスアルファでアイスマッサージやストレッチをかけてあげる。それはセルフコンディショニングができている選手だけやってあげる。

なぜかといったら、私たちはプロでもその選手自身の体ではないので、痛みのレベルや感覚はわからないんです。触ると確かに張ってるとわかるのですが、どこまでなのかは本人じゃないとわからない。まず自分の感覚に敏感になってセルフコンディショニングをしていたら手を出してあげる。

マネージャーにもセルフコンディショニングをしていない選手がいたらオーダーが入っても受けなくていいからと言ってあります。それをまずしないと結局パフォーマンスは上がっていかない。トップ(の選手)になればなるほど、とりあえずベッドに横になってハイおまかせ!って、それは腹が立ちます(笑)。勘違いしている選手が多くて、逆にセルフコンディショニングが完璧にできていて「中野さんのストレッチいらないです」と言ってくれるのが本来の形。まず自分ですることからです。


---:基本は個人でまずやって、その上でコーチやトレーナーがいるのですね。

早川:サッカーはJリーグが発足した当初、セルフコンディショニングのできない選手が多くいました。現在、サッカー協会では育成年代でのトレーナーの役割を「セルフコンディショニングの指導」としています。プロや大学ではセルフコンディショニングをベースにトレーナーやコーチがサポートしています。育成年代では教育が本当に重要だと思います。

中野:ストレッチをやっても選手は一部の筋肉しか伸ばしていないし、アイシングのアイスラップの巻き方も知らなければ、何分冷やすかもわからない。そこを大学に来てから教わるようでは厳しいです。本当は高校の教育の段階で終わっていてほしい。そうしたら大学ではもっと色々なことができます。そこをもっと下げていかなければならないけど、高校の部活がフィジカルトレーナーを雇えるかといったら雇えない状況です。そこは国から援助があったりすると、部活の中にトレーナーが入っていけます。

---:サッカーと陸上競技には「走る」という共通点があります。参考になる部分はありますか?

早川:陸上とサッカーの走りはその形態がまったく違うので、参考になるところとならないところがあると思います。サッカー選手が駅伝の選手のように時速20kmのスピードで続けて何キロも走れと言われたら難しいでしょうね。

ただ、「走る」という動作では共通点もある。サッカー選手は育成年代でほとんどの選手が「走るための指導」を受けていないと思います。最近では競技間の垣根を越えて陸上のコーチがサッカー選手を指導することもあり、サッカー選手には良い刺激になっていますね。

サッカー選手が90分の試合でボールに触っている時間はたった数分です。残りの時間はボール無しで走っています。無駄のない「走り方」によって、ボールに触れずに走っている時のエネルギー効率が良くなれば、ここぞと言う時の力強い走りを多くすることも可能になるかもしれません。

---:中野さんがサッカー選手に走りの指導をしたことはありますか?

中野:サッカー選手はないですが、フットサル選手はあります。サッカーから学びたいと思うことはたくさんあって、例えば大学の陸上部で「中学時代に何をしていたの?」と尋ねると、サッカーをやっていた選手が結構いるんです。しかも長距離で。

サッカーと長距離のマラソンはまったく違う要素なのですが、それなのに何でこんなにサッカー選手(を経験した学生)が多いのか。そこをもう少し見ていきたいと思うし、意見交換をしていきたいと思いますね。

また、陸上選手とサッカー選手は体幹の作り方がまったく違います。サッカーは足を上げるし、横にも動きますし、止まったりもします。サッカーはコンタクトスポーツで(他の選手と)ぶつかるじゃないですか。でもマラソンはぶつかることはほとんどないので横にも動かないし、足も持ち上げることもない。と言うことは体の安定の仕方が違うんですよ。

どうも陸上選手はサッカーの体幹トレーニングから入ってくる(選手が多い)のですよね。これどこかで見たことあるな…って思うと体幹トレーニングの真似事をしている。それをできるようになるには、その前にやらなければならないことはいっぱいあるのに、それを飛ばしてしまっています。だから違う筋肉で体を支えているのですが、わかっていない陸上選手が多いです。

体幹トレーニング=サッカーの体幹トレーニングというイメージを持つ陸上選手も多いです。種目によって体の作り方も違うのですが、それが浸透していない。私は陸上の面で話して、種目別でトレーニングが違うことを伝えないと、サッカーの長友(佑都)選手や香川(真司)選手がやっていたからといって陸上選手が同じことを始めてもそれは違うでしょって(笑)。

トレーニングをするサッカー日本代表の様子 参考画像
(c) Getty Images

早川:サッカーの世界でもあります。トップアスリートがヨガをやっていたからと、もっとやらなければいけないことがたくさんある小中学生が同じことをやるとかね。ヨガが良いと言ってたら「じゃあヨガだ!」みたいに(笑)。僕らにも責任はあるけど、(トップアスリートは)影響力があるわけです。発信の仕方にも注意を払わないといけないですね。

中野:トップアスリートがやっていたことは影響力が強すぎて、(テニスのノバク・)ジョコビッチが何かをやるとみんながそれを真似をする。でもジョコビッチになれるとかというと、それは違うんですよね。

早川:僕は体幹トレーニングという言葉はあまり好きではないのですが、陸上選手とサッカー選手でそれぞれ必要なものがあって、その前提条件として関節が正常な範囲で動くとか、体を安定させられるとか、競技は違っても共通する部分はあると思います。まずはそういうところを作り上げて、そこから競技別に分かれていくようなことをみんなでディスカッションできるといいですね。

---:コーチ、トレーナーならではの苦労点はありますか?

早川:サッカーの場合は監督の影響力がかなり強くなります。僕の思っている方法論と監督の思っている方法論が違う場合は、監督の方法論に沿ったやり方をしなければならないこともあります。そうすると選手が(僕から)今まで指導されていたことと違うことを監督から言われて、「どうなんですか?」と質問が来ます。一方では「木(選手個人)」を見なければいけないし、一方では「森(チーム全体)」を見ていなければいけない立場なので、そういう所では苦労しますね。

あとは選手との距離感ですね。トップ選手であっても、(指導したことが)できていないのであれば何度も注意しなければならないこともあります。選手の成長=チーム力の向上になるので、そのあたりのバランスの取り方には苦労しますね。

中野:私も監督との関係性が一番難しいですね。最終的に責任を取ってくれるのは監督。なので私たちは監督の意見を尊重しなければいけないのですが、監督もフィジカルの専門家ではないので、そこに関してはどちらが責任を持つかというと、本当はフィジカルのことに関しては私たちに責任を持たせてほしいと思っています。

ただ、トレーナーとして入った1年目などは、私たちがこれやりたい、あれやりたいと言っても、まだ何も成果が出ていないので監督がOKを出してくれないんですよ。「このトレーニングが必要だと思う」と言うと、監督に「それは次の日の練習に響くから無し」って言われちゃう。説明してもわかってもらえない。

そういうことで1年目は自分のフラストレーションになるし、でも結果を出さなくてはいけない。でも、1年目に結果が出ると2年目は何を言ってもやらせてくれる。2回連続で結果を出すと3年目はすごいラク。結果を残さないと何にも成果がないと思いますし、リオのときも代表が確定したときから、やりたいことを全部やらせてもらえました。それまでが大変なんですけどね。監督が1時間で終わらせてほしい練習のためにも、監督がいないときに2~3時間やって積み重ねていました。

---:結果を残して監督から信頼感を得ていくわけですね。

中野:選手との信頼関係を築くのも難しくて、ある実業団の監督さんに「トレーナーと選手はどうやったら信頼関係を築けますか?」と質問したんです。選手たちは年齢が若いので、自分の子どもみたくなってくるんですよね。(自分と選手の)性別が違ってくると余計にギャップもあって、そこで信頼関係を築くのはすごく難しくて。

監督さんは「それは一個しかない。結果を出す以外にトレーナーと選手が信頼関係を築けることはない」と教えてくれました。どんなに話がヘタでも、どんなに感じが悪くても、結果さえ出してくれたら信頼関係は築けるって言われて、確かにそうだなって(笑)。


---:今の仕事で一番喜びを感じることは何ですか?

早川:僕はチームスポーツなので、スタッフにはそれぞれの役割分担があります。サッカーの日本代表チームには約25人、監督を筆頭に色んな役割のスタッフがいますが、結果が出たときは(役割の壁を飛び越えて)監督とシェフでさえ抱き合って肩をたたいて喜びを爆発させて分かち合える。その瞬間を味わえるのが何と言っても最高です。一度味わうと病みつきになりますね。

中野:それ以外に何にもないですよね。本当にそうです。選手が結果を出してくれたり、オリンピックでメダルを獲ってきてくれて首にかけてくれたりしてくれたとき。トレーナーの仕事って9割大変で、良かったことは1割ないんですよ(笑)。キツかったこと、辛かったことが100%に近いくらいで、喜びって一瞬なんですよ。一瞬が終わると次の試合が待っているので、すぐ切り替えなければならないし。ほんの一瞬の喜びを味わいたいために頑張ってる。大変なんですけどーー。

早川:でも好きだから(笑)。

中野:そう、好きなんですよ、すごい好き(笑)。昨日もふたりのトップアスリートとセッションが4時間あったのですが、朝から「今日4時間もできる!」と思うとワクワクして楽しくて。その環境に自分がいて、そこでトレーニングさせて、キツかったと(アスリートが)帰ってくるのを見るのが幸せ。仕事ができていれば幸せですね!

早川:その通りですね!(笑)

早川直樹(はやかわ なおき)
1963年生まれ。アディダス契約アドバイザー 、サッカー日本代表コンディショニングコーチ。1993~1995年ガンバ大阪トレーナー、1996~1998年ジェフユナイテッド千葉アスレティックトレーナー、1999~2010年サッカー日本代表チームチーフアスレティックトレーナー。2010年から現職。

●中野ジェームズ修一(なかの ジェームズ しゅういち)
1971年生まれ。有限会社スポーツモチベーション最高技術責任者、フィジカルトレーナー。米国スポーツ医学会認定運動生理学士。スポーツモチベーション最高技術責任者。近著に『結果を出し続けるフィジカルトレーナーの仕事』(光文社)などがある。

取材協力:アディダス ジャパン
《五味渕秀行》

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