シルバーウィークの2日目、晴天に恵まれた東京の日曜日。夏のような湿度はないものの、強い日差しの中、品川のフットサル場で試合を楽しむチームがいくつか集まっていた。 学生時代に何かにのめりこみながら、しかしその道で生きるのは簡単ではないことを理解し、さまざまな思いを抱きながら大人になっていく。殊にスポーツにのめり込んだ場合、部活動やクラブといった仕組みのなかで仲間に出会い、勝負の浮き沈みを経験し、大人になるまでに少しずつそれぞれの世界を作り、かつてスポーツから得た経験を糧にして、生きることになる。 野球とサッカーという日本における二大メジャースポーツに関しては、10代までに何かしらの形で触れている人は少なくない。 この二大スポーツに触れた場合、人格形成に影響を及ぼす部分は多分にある。サッカーは野球に比べ、世界的な広がりを見せていることもあってか、個人のクリエイティビティ、コミュニケーション力が求められ、プレーの質もそうした人間性に根付く割合が高いように見える。野球は部分的には個人競技でありながら、競技の歴史的な背景も手伝って、日本ではチームという組織が全面に押し出される割合が強く、結果、野球にのめり込んだ人とサッカーにのめり込んだ人の背景を作るものは、微妙に違いがあることに気づく。 いずれにしても、多くの人は人気スポーツに触れながら、目標に向かいどこかで敗れ、少しずつライフステージをうつし、成長してゆく。 草サッカーや草野球というかたちで、かつての仲間とスポーツを楽しむ文化は極めて健全だ。なによりスポーツというコミュニケーションツールは、人と人をつなげる潤滑油になる。 Jリーグ創設以降、急速に国内に根付いたサッカー文化。この数年、世界レベルで活躍する日本人選手が飛躍的に拡大し、日本人の可能性を常に切り拓いていく姿は圧巻ですらある。 トップ選手が世界レベルに引きあがっている背景には、育成組織の努力などはあるが、もっとも必要なことは競技人口の拡がりだろう。そういう意味でも、日本におけるサッカーの拡がりは、一競技の飛躍としてモデルケースになる。 今回の主役は、「続ける大人たち」だ。 ■5人制サッカー世界大会 サッカーは本来1チーム11人。しかし、草サッカーレベルでその人数を集めるのは非常に困難。そこで少ない人数でも楽しめるフットサルで収めたりする。 「5人制サッカー」という、サッカーを圧縮したような競技がある。フットサルに近いが、ルールはサッカーに近く設定されている。この5人制サッカーに、世界大会まで続く大規模な大会がある。 2013年、32か国で開催された「F5WC THE WORLD FOOTBALL FIVES」。この大会が年々規模を拡大している。「F5WC」は、2013年にドバイでスタートした、16歳以上のアマチュア選手を対象とした世界最大の5人制サッカー大会で、世界各地で予選が行われる。最終的には各国の代表チームが決勝大会に出場する。 2013-2014年大会には32か国が参加した。決勝大会には有名クラブからスカウトも参加し、マンチェスター・シティとチェルシーFCに選手がスカウトされるなど、「まだ続けている選手」たちには、夢のような世界への扉が用意されている。 2014-2015年大会には日本も参加。予選を勝ち抜き、日本代表となったのは「柴田工務店」チームだ。 アマチュアながらも日本代表になるレベルのチーム。もう少しでJリーガーのような、若く突出した選手がいるのではないか。なぜチーム名が、カタカナやアルファベットではなく「柴田工務店」なのか…。 取材してみてわかったのはとても成熟したチームだったという事実だ。「柴田工務店」という名前は、メンバーのなかに「柴田工務店」の息子がいるという極めてシンプルなチョイス。突出した選手はいない。そもそも平均年齢が32歳。お世辞にも若くはない。 しかし競技を「続けている」。それぞれのかたちで継続する難しさを深く理解しながら、継続することの大切さを知っているチームだ。 日本代表を決める決勝では、10歳程度年下の、大学生を中心にしたチームを下し、国内の頂点に立った。5人制サッカーという競技の特徴を知り、チームの質が高まることで勝利をつかんだ。 「ひたむきな準備と、チームへの気持ち」 一見、スポーツ選手からよく聞かれる単語だが、そのことばになぜ我々が共感を得るのか。柴田工務店の選手から聞くとそこに気づきがあった。それは、社会や家庭、仕事と、それぞれの「チーム」に貢献する我々も、日々の生活者という「アスリート」なのだということだった。 アットホーム F5WC FOOTBALL FIVES JAPAN CHAMPIONSHIP 2015-2016は、9月26日、千葉予選からスタートする。 ***5人制サッカー日本代表インタビュー 9/21 その1 5人制サッカー日本代表「柴田工務店」、平均年齢32歳が大学生チームに競り勝ったワケ 9/22 その2 5人制サッカー日本代表に「スペシャルな選手はいない」 9/23 その3 5人制サッカー日本代表、平均32歳…「決勝は大学生チーム。満身創痍で臨んだ」 9/24 その4 気温45度、試合開始は3時間遅れ…5人制サッカー日本代表、過酷な世界大会を語る
《土屋篤司》
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