日本自転車界の至宝か、それとも メテオ・ランチ vol.2 | CYCLE やわらかスポーツ情報サイト

日本自転車界の至宝か、それとも メテオ・ランチ vol.2

オピニオン インプレ
万人に勧められる味付けではない
まるで「別世界」の乗り物
しかし、実際の評価となるとはやり難しかった。決して万人に勧められる味付けではないからだ。明確に柔らかい。前回のドグマ60.1などと比べると、まるで 「別世界」 の乗り物である。しかし、僕の体重と脚力で踏む限り、巷で言われているほど、そして皆様が思われているほど、フニャフニャではない。しかし善くも悪くも、踏み応えはない。カチンコチンのフレームをガシガシと踏みつけるのが好きな方なら、乗った気にすらならないかもしれない。
同じ目的を持つ同価格帯バイクの中ではもっともしなりが大きいフレームである。踏み込めばたわみ、たわみきったところからヌヌヌヌッと反力でペダルを押し返してくるというレースバイクとしては特異な味付けだが、これはロードレースでのアタックへの反応など、急激なスピード上昇が必要とされるシーンにおいては不利となるものだろう。
まずは欠点を列挙しておこう。加速やスプリントは苦手である。ビッグギアでのゼロスタートはからっきしである。ターマックSL3や585など、高剛性で刺激が強いバイクに乗りなれている人がそれらに合わせたペダリングスキルのままメテオ・ランチで急斜面に行ったら、「全っ然進まねぇ!」 とびっくりするかもしれない。
高剛性バイクから乗り換えると違和感あり
ダンシングで踏み込むとBB部分がグッと沈み込む (感じがする)。横だけでなく、縦にも柔らかいのだろうか。高剛性フレームに慣れていると戸惑う。ダンシングというより、水中でゆらゆらと歩いているような感じ。シッティングからダンシングに切り替える瞬間も、ヘッド周辺にたゆんとしたたわみがあり、大口径ベアリングでガチガチに固めたヘッドを持つバイクから乗り換えると違和感あり。
振動吸収性は非常に高い。しかし高剛性フレームではないので、ダン!と一瞬で衝撃を消し去る収束力は持っていない。フレームの下の方でブルルンブルルンと振動を処理するやり方は、昔の鉄フレームのそれに共通するものだ。
ハンドリングはなかなかのもの。しなやかなので操舵も頼りないのかと危惧していたが、思った以上にしっかりと曲がってくれる。ただ、倒し込むにつれてアンダーステアが強くなるので注意。高速ダウンヒルでは多少の慣れを必要とするだろう。フォークもしなやかなので、ハードブレーキングでノーズがグググッとダイブする。しかし嫌なバイブレーションなどは一切発生しない。

「本場の価値観にはないものを創る」という挑戦
取捨択一
しかしこういった欠点も、そのしなやかさを生み出すためなのだと思うと、むやみに責める気にはなれない。これ以上ないほどなめらかなペダリングがこのバイクの核心であり、真価であり、本質である。踏み込むタイミングと加速開始との時間差がほとんどゼロという高剛性を売りにするフレームと同じ乗り物とはとうてい思えないが、何かを突き詰めれば諦めざるを得ないものも出てくる。「取捨択一」 とは、このフレームのためにあるような言葉である。
回転を意識しながらシッティングで回すと、ペダル一回転の中でトルクがかかっている時間が長い印象を受ける。一つのポイントでガツンとパワーがかかるのではなく、スーッと広いバンドで脚力がトラクションに変換されるように思えるのである。フレーム全体が絶妙にしなることで、パワーのピークが低いかわりにトルクの抜けが少ないのだろうか (剛性の高すぎるバイクだと高回転のダンシングでスカッと踏み抜けてしまう感じがする)。各ブランドのトップモデルを全て集めて大試乗会を開催し、ロードバイク初心者に 「一番乗りやすかったバイクは?」 というアンケートをとったら、おそらくこのメテオシリーズがダントツでNo.1に輝く。
そして、一度スピードに乗せてしまえば、高速巡航が非常に容易に思えるのもこのフレームの大きな特徴だ。ネムい初期加速の反動による錯覚かとも思ったが、どうやらそうではなさそうだ。メテオ・ランチは、今まで乗ったものの中で最も巡行性に長けたバイクのうちの一台である。どんなペダリングでも受け入れてくれる懐の深さによる性能だろう。トルク変動が小さくスピードの上下が少ない状況下では意図された性能を発揮できている。
強引に言うとすれば、小柄で、常用出力帯がそれほど高くない (もしくは急激なスピード変化ではなく一定ペースで淡々と踏んでいくスタイルの) 人、または (レーシングバイクとして設計した開発者の方に対して失礼にあたるのは承知のうえで) 翌日に疲れを残したくないロングライダーに向いている…と思う。だが、そう言い切る自信は全くない。合う人には合うだろうが、合わない人にはとことん合わない。「好き嫌いがひどく分かれるフレームである」 としか言えない。
しなりを取り入れているのに、万人向けではないところが新しい。実際、メテオ・ランチで走っていると、ときにそれはひどく前時代的に思え、またあるときは想像以上に新鮮に感じたりもし、緩斜面では思いもしなかったほどの (ペダリングとの) 同期 (シンクロ) 度合いを感じさせることもあった。だから実を言うと、300km以上走った今でさえも、僕はこのフレームに対するはっきりとした結論を出し切れないでいる。
このバイクの誕生には大きな意味がある!
ただ確実なことは、繰り返しになってしまうが、このバイクの誕生には大きな意味がある、ということだ。ロードバイクは西洋で生まれ、西洋で歴史を刻み、西洋の伝統に則り、様々な分野でボーダーレス化が進んだ現在でも、西洋に模範がある。だから、どのブランドも欧米の価値観の範疇から大きく外れないところで 「似通った個性」 を競い合うことが多い。
そんな中、GDRのデビューには、「自転車がまだ文化とはなりきってはいないこの日本という国の、しかも (自転車界では) 真新しいブランドが仕掛けた、『本場 (ヨーロッパ) で培われた価値観にないモノを世に問う』 という高尚な挑戦」 を見ることができる。僕は、メテオシリーズのそこを高く買いたい。だから我々は、「GDRフレームのデビュー」 という事件に、まずは大きな意味を見出すべきなのである。
《編集部》
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