「勢力図が変わる」Wリーグ33年ぶり外国籍選手解禁の裏側には何があったのか 戦術進化や世界での認知度向上への期待も | CYCLE やわらかスポーツ情報サイト

「勢力図が変わる」Wリーグ33年ぶり外国籍選手解禁の裏側には何があったのか 戦術進化や世界での認知度向上への期待も

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「勢力図が変わる」Wリーグ33年ぶり外国籍選手解禁の裏側には何があったのか 戦術進化や世界での認知度向上への期待も
  • 「勢力図が変わる」Wリーグ33年ぶり外国籍選手解禁の裏側には何があったのか 戦術進化や世界での認知度向上への期待も

10月18日、全国各地で2025-26のWリーグのシーズンが開幕する。近年は選手の移籍が盛んになり、昨シーズンからは上位の「Wプレミア」と下位の「Wフューチャー」の2ディビジョン制を敷いたことなどで、チーム間の格差が狭まり、より面白い戦いが繰り広げられるようになった。

今シーズン、同リーグでは33年ぶりに外国籍選手の採用を解禁したことが最大の話題となっている。それにともなって2ディビジョンの大半のチームが海外から選手を獲得しており予想を一層、難しいものとしそうだ。

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■背景には五輪での銀メダル獲得

外国籍選手の登録は昨シーズンまでも2名までが許されていたものの、対象は主に留学生と中心とした通算5年以上の日本在留実績のある者だった。今シーズンからは、この在留実績がなくとも海外出身選手の登録を認めたということになる。ちなみにリーグでは、この在留条件に該当しない選手を「A登録外国籍選手」とし、該当する選手を「B登録外国籍選手」と規定している。

「勢力図が本当に変わるなと思っています」

昨シーズンまで2年連続でリーグと皇后杯(全日本バスケットボール選手権大会)で優勝を果たしている富士通レッドウェーブの中心選手、宮澤夕貴は外国選手選手解禁について問われるとそのように話した。

外国籍選手の登録規定の改定が発表されたのは今年1月のことだったが、解禁についての議論は以前からなされてきたものだった。男女の日本代表にも長く関わってきたWリーグの高橋雅弘専務理事によれば、2021年の東京オリンピックで女子日本代表による銀メダル獲得という快挙が議論を前に進める契機になったとのことだ。

「FIBAも小さなメンバーがメダルと穫った東京オリンピックの銀メダルに、ものすごい印象があったようです。(Wリーグでも)外国籍選手を入れてもっと(発展を)広めてほしいというふうに言われました。私としてはこれまで33年間、外国籍選手を入れずに日本人選手が工夫をしてやることを考えていたのだけども、という話をしたのですが、『そうじゃないんだ、入れることが強化につながるんだ』と言われました」

外国籍選手の登録規定の変更を受け、大半のチームが欧米を中心とした地域から選手を獲得している。例えばリーグ連覇中の富士通は、2017年の米WNBAで全体3位指名(ダラス・ウィングス)から受けた実績のあるエブリン・アカトーを獲得。またトヨタ自動車アンテーロープスはやはりWNBAで2020年のドラフト指名をされているカイリー・シュックと契約している。

■戦術面で考えられる変化

加入した外国籍選手の多くは想定されていた通り、センターなどのインサイドの選手だ。昨シーズンまでのWリーグでは身長193cmの渡嘉敷来夢(アイシン ウィングス)など、180cm台後半以上の高さを持つ選手はごく一握りに限られていた。規定ではコートに立つことのできる外国籍選手は1名までとなる。

これを鑑みると今後は、リバウンドを含めたリング近くでの攻防がより激しくなることが予想される。それにともなって大きな外国籍選手を使いつつ、戦術面でも変化が見られるのではないか。外国籍選手の使い方に長けたチームがより上位の成績を収められる可能性もある。

ただ、高橋氏が言及したように、主眼は日本の女子バスケットボールの発展だ。それは日本人選手の成長に資することを意味するとしていい。外国籍2名と帰化かアジア枠の最大3名までが同時にコートに立つことのできる男子・Bリーグでもよく聞こえてくる議論、課題として、インサイドの外国籍選手が多くのチームで中心的役割を担うことで日本人ビッグマンの出番が少なくなるというものがある。

宮澤は、Bリーグのように外国籍選手がいたほうがリーグが活性化することもありいいのではないかという考えを「2年くらい前から」持っていたそうだ。ただやはり、その実現によって日本人や留学生として日本へ来た選手たちの成長を阻害しまうという憂慮は念頭にあり、「難しいところ」だったと気持ちを吐露した。

■外国籍選手を相手にすることは「本当にいい経験」

写真:永塚和志

銀メダル獲得の東京オリンピックから一転、昨年のパリオリンピックで日本代表は予選リーグで3連敗を喫する、惨敗に終わっている。Wリーグでの外国籍選手解禁は仕切り直しを計る同代表の再浮上に寄与するものとして期待される。

ただ長年、日本を支えてきた髙田真希(デンソー アイリス)や渡嘉敷来夢(アイシン)はともに30歳台半ばで、宮澤も32歳。彼女たちの後を継ぐインサイドの選手の発掘、育成は急務だ。しかし、Wリーグで外国籍選手が採用されることで日本人ビッグマンははたして十全な出番を得ながら、成長をする機会を得られるのだろうか。

高橋専務理事は「そういった懸念はいろんなところから出てきました」としながら、体が大きく、強い外国籍選手がいてもそれに臆することなく戦うことが肝要だと強調する。同氏が挙げたのは今夏の中国でのFIBA女子アジアカップだ。この大会の準決勝。日本は予選ラウンドで敗れていた中国に対して雪辱し、銀メダル獲得につなげている。中国は220cmと205cmの選手を擁し、サイズの面では日本を圧倒していたが、フィジカルな戦いぶりとスピードで相手を凌駕した。

【動画】FIBA女子アジアカップ準決勝「日本 vs.中国」

国内のWリーグにおいても、外国籍選手らと日常的に練習や対戦をすることで大きく、強く、手足も長い外国出身の選手のサイズ感などに慣れることができるというのが、リーグの目論見だ。宮澤は「海外の選手はやってみたいとわからない。こんなところからブロックが来るの?というのもあるので」と、リーグの選手たちにとって外国籍選手を相手にすることは「本当にいい経験」だと話す。

一方で、3名まで外国出身者がコートに立つBリーグとはやや違い、最大で1名(規定では外国籍と帰化選手が同時にコートに立つことは認められており、将来的にはそうした場面が増える可能性は十分ある)のWリーグで外国籍選手たちがどれほど試合に大きな影響を及ぼすのか、もっといえば支配をするのかは、現段階では判然としない。

赤穂ひまわり(デンソー)は「これまでのシーズンで外国籍選手がいない中で戦っていたサイズの小さなチームにも外国籍選手が入るので、それまでのチームごとのカラーやプレースタイルなどがちょっと変わってくるところもあるのかな」とし、さらに「日本人のビッグマンやこれまでいた留学生らが競い合って強くなるのもいいこと」と語る一方で、「一概に良いと言っていいのかどうかはやってみないとわからない」と率直な感想を述べた。

赤穂の言うことももっともなところがある。大きな外国籍選手が入ることで、リバウンドやリング近くでの得点などで大きな影響がもたらされることは間違いないものの一方で、チームのスピードが落ちる懸念はある。Bリーグでも3名の外国出身選手を起用することでテンポ等が「重たくなってしまう」ことがしばしばある。

シュックやENEOSサンフラワーズに加入のプレッチェル・アシュテンといった身長が196cmもある選手もいるが、大半の外国籍選手は190cm以下だ。このあたりは上記の「重たくなってしまう」ことを回避するための編成なのではないか。

■リーグの価値向上につなげられるか

また、大きな者が小さな者を守り、またその逆といった、「ミスマッチ」の攻防が外国籍選手の解禁でより面白くなりそうだ。チームとしてもそうした状況を作りだして、有利に得点が狙えるような戦術等をより考えてくるはずだ。

「戦術的にスイッチ(ディフェンスでマークをする相手を敵方の動きに合わせて変えること)をした時に、外国籍選手が外に出たら(インサイドの)スペースが広がると思うので、そういう戦術的な部分でもレベルアップができたらいいなと思っています」

日本代表の東藤なな子(トヨタ紡織サンシャインラビッツ)がこのように話した。一方、宮澤などは「ディフェンスもオフェンスもチームで守って、チームで攻める」所属チームのこれまでの戦い方が、外国籍選手が入るからといって激変するわけではないと話している。こうした言葉を聞いていても、外国籍の採用がどのように戦況等を左右していくのかは、興味深い。

また、外国籍選手がプレーをすることでWリーグが世界からの認知度をいかに変化させていくかにも注目したい。髙田は自信のYouTubeチャンネルで「ただ選手が来ました、窓口を広げました、だけだと盛り上がりに欠ける部分は出てくる」とし「せっかく海外から選手が来るのだから、その国の人たちも日本のリーグを見てもらうための施策は絶対に必要になってくる」と話している。リーグの価値が上がることで国内外のファンが増え、ひいては収益等にも影響が及んでくることで、それも競技力の向上につながるといったところか。

いずれにせよ、Wリーグでの外国籍選手の解禁はどのように転んでいくのかというところも含めて、今シーズンの一番の関心事だとしていい。

2025-26のWリーグのレギュラーシーズンは2月8日まで行われ、3月28日からは上位4チームによるプレーオフが開催される。同準決勝の勝者、2チームによる決勝は4月4日から開催される。レギュラーシーズンでプレミアの8位のチームは次シーズン、フューチャーへ降格し、フューチャーの1位はプレミアへ昇格する。また、3月20日からはプレミアの7位チームとフューチャーの2位チームによる入替え戦が行われる。

すでに開催されている今シーズンのカップ戦「ユナイテッドカップ」は、決勝ラウンド進出の5チームが確定している。決勝ラウンドは2月13-15日に横浜武道館で開催される。

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