これは福島県高等学校体育連盟が主催し、平成29年度南東北インターハイ開催事業「ふくしまで一緒にやろう!」プロジェクトの一環として行われたものだ。会場には県内の高校生を中心に、指導者やファンなど合計83人が集まった。
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新城幸也が福島県で高校生に講演会。
講演は「夢を追いかけて」と題された。30歳の新城は制服姿の高校生たちを見て「懐かしいですね」と見渡しながら、自身が自転車を始めた時のことから話しだした。大学受験の失敗。父親と親交のあった当時国内外のレースで活躍していた福島晋一さんとの出会い。何も分からずフランスに渡り、言葉を覚えながらレースに出続けたアマチュア時代。プロデビュー、そしてツール・ド・フランス。
新城は18歳の時に、これからの目標を1年ごとに記した未来日記を書いていたという。18歳でフランスに行って、19歳でナショナルカテゴリーを勝って、ハタチでエリートカテゴリーを勝って……と自分が何歳のときにどのカテゴリーでどんな成績を出していなければならないか、それを書き込んだ。ツールに出るまでの夢を書いていた未来日記だが「予定より1年早くツール・ド・フランスに出ました」と新城は笑う。自転車競技を始めてわずか7年目、2009年に新城は初めてツールの舞台に立った。
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追走集団の先頭。1級山岳ペイルスルド峠を力強く走る新城幸也(ツール・ド・フランス14第17ステージ)
現在は最高カテゴリーのUCIワールドツアーにたどり着いた新城だが、カテゴリーという階段をひとつずつ上っていった。力で勝った者しか上のカテゴリーでは生き残れない世界。レジョナル、ナショナル、エリートと各カテゴリーで勝利をもぎ取ってプロへの道は開かれる。
「下(のカテゴリー)でたまたま勝ってもしょうがない。下は力を付けるところ。次(のカテゴリー)も力を付けて勝たないと上に行った時に通用しないので、また力を付けないといけない。常に苦しんでいましたね。1コ上がれば上がるほど」と振り返る。
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新城幸也が高校生に実技指導。
レースカテゴリーが下がるとレースが落ち着かないそうだ。そこで勝てばプロになれる。トップチームから声がかかる。人生が変わる。そのチャンスを得るために常に誰かがアタックをかけ、レースが動いている。トッププロになった今、新城はUCIワールドツアーよりも下のUCI1クラスで走るほうが感覚的には辛いと苦笑する。レースがどんどん活性化するから自分自身も動かないといけないからだ。そんな新城はヨーロッパカーの前身チーム、ブイグテレコムの選手が出ていたレースで優勝したことでスカウトされ、そして2009年シーズンから同チームのジャージにソデを通すことになる。
2016年のリオ五輪、2020年の東京五輪について話がおよんだ。五輪で新城と高校生たちが日本代表選考のライバルになることは避けられない。新城は「すみません、譲らないです」と高校生に謝りながらも五輪出場に意欲を見せる。東京五輪の時に新城は35歳。「競技を始めるのが遅かった。競技をやってまだ11年目なので、あと5年ならぜんぜん現役でやっていける手応えがあるんですよね。色んな経験が蓄積されて、そのデータを発揮できるんじゃないかと思います。そこを頂点に終えたいですね」と遠くない未来を見据える。
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講演会に集まった高校生たちと記念撮影。
新城は東京五輪でのメダル獲得を思い描きながらも、2015年シーズンのツールはもちろん、アムステルゴールドレース、ツアー・ダウンアンダーも優勝を狙っている。そして高校生に「近い目標がありながらも(将来の)大きい目標を持ってもらいたいです」と未来を考える大切さを伝えた。
言葉もわからないままフランスへ渡り、しかし自らの歩む道を行動することで切り開いてきた新城。自分で夢をつかみ取った新城の多くの言葉は、これから夢を追いかける高校生たちの胸にも届いたことだろう。
講演会の後半は質問コーナー、3本ローラーを利用した実技指導が行われた。