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“史上最高のクライミングバイク” という、なんとも魅力的なコピーと共にデビューしたLOOK 586。奇跡的にサドル高の合う試乗車と対峙した安井は思う。今、ロードバイクに重要な変化が起きつつあるのではないか。剛性と軽さの追求?ロードフレームの進化とは、そんなに単純なものではないはずだ。この586を含む何台かは、いよいよ新境地を開拓し始めた。
(text:安井行生 photo:我妻英次郎/安井行生 cooperation:ロードバイクショップコグス)
1年前にデビューした旗艦モデル、595で培われたE-POSTやコンプレッション・カーボンリアドロップアウトなどの先進技術を投入し、LOOKのラインナップでは最軽量となる940g (Sサイズ/フルサイズシート長フレーム重量) を誇る586。車名末尾の 「6」が示す通り、VHMカーボン製のフロントトライアングルはモノコックで作られ、シートステーとチェーンステーがチューブtoチューブ製法で前三角に接着される。
フレーム形状はいかにも最新カーボンモデルらしく複雑だ。トップチューブは後ろにいくにしたがって細くなり、ダウンチューブはヘッド側の菱形からBB側の台形へと断面形状が変化。長方形断面を持つチェーンステーとシートステーは中間部分で大胆に扁平され、優れたトラクションに加え高い衝撃吸収能力を備えているという。フォークは上下異形ベアリングを採用したHSC6。ヘッドにはHEAD-FITシステムが導入され、メンテナンス性を向上させながらシステム全体で40gの軽量化を達成している。
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
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インテグラルシートポストを採用したフレームの試乗はしない。この企画を始めたときからそう決めていた。自転車のポジションの中でも最も重要なサドル高さが合っていないバイクのインプレなんて出来るわけがない。だから僕は自分の職業上体型上、ISPの蔓延をヒヤヒヤしながら眺めている。実際、乗りたくても乗れないフレームが増えてきた。
しかし今回、LOOK社の輸入代理店であるユーロスポーツインテグレーションは、インテグラルシートポスト (LOOK流にいうとE-POST) 採用の586でBB-サドルトップ670mmの試乗車を用意してくれているという。それでも短足チビのサドル高よりまだ数ミリ高いが、サドルを薄いものに交換すれば可能性がある。そこで僕が知っている最も薄いサドル、タイオガ・マルチコントロールを購入し(自腹で!)、もしポジションが出なければそのまま送り返すつもりで試乗車の到着を待った。
サドル交換によってピタリとポジションが出た586で無事に試乗を行うことができたのだが、ISPの性格上、サドル高が変動しないベテランライダー以外は手を出すべきではないだろう。僕はコンマ5mm単位でのサドル高の調整をいまでもやることがある。季節が変わればサドル高が変わるライダーもいる。ペダルシステムやシューズのソールの厚さが変われば当然サドル高も変わってくる。サドル自体のしなり方やサドルの厚みというファクターも絡んでくる。ISPバイクはそれらに合わせての調整がシートピラータイプほど簡単には行えないし、調整の細かさや幅も限定される (E-POSTに付属する調整用スペーサーの最小単位は1.25mmだが、せめて0.75mmくらいからの用意がほしい)。フレームを自分より脚の長い友人に譲ることも出来なくなる。失うものは確かにある。だから僕はインテグラルシートポストを完全に肯定しきれない。
単なる流行で終わるか、ハイエンドモデルのアイコンとして定着するのか。もし広まって浸透するのなら、現在の機構をもっとブラッシュアップして、もう少しの調整幅と微調整のしやすさ (ワンクリックで0.5mmずつ上下するシステムなど) をライダーに与えるISPの登場を願うばかりである。
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チビの僻みはこれくらいにして、実際に走り出そう。第一印象は 「全くクセがなくきわめて上品」 というもので、ストイックな心構えで爆発的な加速を期待していると肩透かしを食らう。といっても加速自体はかなり良好で、伸びやかに高速域まで吹け上がるイメージだ。中トルクまでは全速度域で軽快かつウルトラスムーズな速度上昇が楽しめる。
しっとりと湿った感触をともなってペダルが回転方向に吸い込まれるように脚がシュワッと回り切る、そんなライディングフィールには一切の贅肉がない。
そしていつのまにか、「これは金属と炭素繊維からなる構造体である」 という概念が消え去り、ペダリングそのものやシッティングからダンシングへの切り替えやハンドル操作のあれやこれやを全く意識することなく、というより、「自転車を操縦している」 という意識までを消滅させんばかりの、ただ地上1mを滑空しているようなピュアな感覚に浸ることができる。
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