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ヒルクライムを終えても一息ついている場合ではない。このCAAD9で、ダウンヒル、特にテクニカルなワインディングをこなすのは、何物にも代えがたい至福の時となるからだ。スーパーシックスのような曖昧さが全くない絶対的剛性は感じられない。しかしこのフルアルミフレームは驚くほど素直でコントローラブルなのだ。スライスプレミアムフォークは手の一部に、アワーグラスシートステーは脚の延長となるかのようで、完全に身体の一部としてヒラリヒラリと舞わせることができる。この一体感、バイクを操る喜びに体が震える。休んでいてはいけない。感覚を研ぎ澄まし、脳にCAADを操縦する快感を享受させる努力をするべきである。そうしているとライダーはいつしか次のコーナーを渇望するようになり、CAAD9は標高を下げながら、操る者を陶酔の世界へといざなってくれる。
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この病み付きになりそうな回頭性は、ダウンヒルだけでなく平地でも味わうことができる。ロードバイクというものは乗り手が自分で曲げるものだと思っていたし、ときにはコーナー内側に押し込んでやらないと曲がってくれないバイクにも出会うが、このCAAD9は自らが嬉々として飛び込んでいくのだ。
キャノンデール・レーシングロードのジオメトリ表を見てみると、サイズ50のフロントセンター (BB〜フロントハブ間の距離) が、572mmと少し短いことに気付く (同様サイズの一般的な値は580mm前後)。スモールサイズのロードバイクでは、ハンドルを曲げてもつま先とフロントタイヤが接触しないようにヘッド角を寝かせるなどしてフロントセンターを稼ぐことが多い。平均値より短いフロントセンター長を持つキャノンデールは、取り回し性よりもコーナリング性を重視したのだろうか。
そのおかげなのかは分からないが、ヨーモーメントが小さくなったかのような感覚さえ受けるステア特性は絶品だ。しかも扱いにくいクイックさはなく、直進安定性は良好で、低速でもフラフラしないという理想的なハンドリングを獲得している。ハンドルを大きくきるような場面ではつま先とフロントタイヤが当たることがあり、少し気を使う必要があるかもしれないが、すぐに慣れてしまうだろう。フォークの剛性も充分にあり、ブレーキ性能も素晴らしい。とにかく曲がるのが愉しい。極上のコーナリングバイクである。
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快適性も非常に高く、フルアルミながらハンドルに伝わってくる振動がしっとりと丸くなるのには驚いた。さすがに瞬時に減衰する感じはないが、コンフォート系カーボンバイクといわれても信じてしまいそうなほどである。
フルアルミフレームは死んでないどころか、キャノンデールに限って言えばまだまだ現役、しかも進化を止めてはいない。ここまで基本性能に優れていると急斜面でのヒルクライムでもう少しキレが欲しいと思ってしまうが、それはさすがにすぎた要求だろう。フレーム価格14万円強、完成車で24万弱という価格を考えずとも、よく走るバイクであることは間違いない。シマノ・WH-R561でも十分すぎる性能を発揮するが、もっといいホイールに換えれば (コイツは高性能ホイールを履かせる価値のあるフレームだ!)、登坂でさらなるキレが生まれ、ヒルクライムレースでトップ争いをすることも可能だろう。安くてよく走るバイクを望んでいる若者がいれば、僕はこのCAADを推薦したい。
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このCAAD9が属するであろうセグメントは、他メーカーなら片手間に作っているようなモデルも多く存在するエントリークラスである。事実、CAAD9はキャノンデールのレース系ロードで最も安価なモデルだが、このフレームはキャノンデールの個性に溢れ、そのファットなアルミチューブを主体性が貫いている。
このようなボトムレンジのモデルにまでブランドの美学や哲学を込める (ことのできる) メーカーは少ない。クロモリ全盛時代から大口径アルミフレームを造り続けてきたキャノンデール。ロードバイクシーンがさらにカーボン一辺倒となるであろうこれからも、名車CAADはカタログから落として欲しくないものだ。
過激な加速性能や軽量性ではなく、手に余らない扱いやすさ、操る愉しさ、そしてキャノンデールの理念が詰め込まれたCAAD9。僕はこのフルアルミフレームに、ロードバイクの原点を見た。
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