【THE REAL】湘南ベルマーレのルーキー・杉岡大暉が秘める可能性…クラブ史上に残る快挙達成へ | CYCLE やわらかスポーツ情報サイト

【THE REAL】湘南ベルマーレのルーキー・杉岡大暉が秘める可能性…クラブ史上に残る快挙達成へ

オピニオン コラム
湘南ベルマーレ新体制発表(2017年1月20日)
  • 湘南ベルマーレ新体制発表(2017年1月20日)
■先輩選手の体に悲鳴をあげさせる猛練習

17歳にして下した決断は、間違ってはいなかった。相模川沿いにある平塚市の馬入ふれあい公園サッカー場でハードな練習を消化しながら、湘南ベルマーレの高卒ルーキー、DF杉岡大暉(写真:後列左から一番目)は日に日に手応えを深めている。

ベルマーレを率いて6シーズン目になる曹貴裁監督は、強度の高い練習メニューを課すことで知られる。2014シーズン途中に期限付き移籍で加入したMF熊谷アンドリュー(現ジェフ千葉)は、初練習後にこう漏らした。

「ここはサッカーではなく格闘技をやるところなのか、と思わず目を疑ってしまいました」

試合前日になると、セットプレーの確認や軽めの調整で終えるクラブが多い。ひるがえってベルマーレは、セットプレーを確認するにも実戦のような雰囲気が漂い、激しく接触して顔をしかめる選手が続出していたからだ。

今シーズンは1月16日に始動。原則として午前、午後の二部練習が組まれ、場所をひらつかビーチパークに移して、砂浜のうえを徹底して走り込むメニューが中心となった練習も二度課されている。

20日は平塚市内のホテルで新体制発表会見が行われ、新加入選手がスーツ姿でひな壇に立った。その一人、名古屋グランパスから完全移籍で加入した28歳のFW野田隆之介は、自己紹介の席で恐縮しながら頭をさげている。

「すみません。全身が筋肉痛なので、座ってしゃべらせてもらってもいいでしょうか」

もっとも、新たに加わった選手のなかで、ただ一人の高校卒業組となる杉岡は涼しい表情を浮かべていた。

「自分はまだ高校生なのでちょうどいいというか、そのくらいハードに練習したほうが成長できるので。砂浜でのトレーニングはけっこう足腰にきましたけど、ベテランの選手もやっていたので、自分がへばるわけにはいかなかった。このチームにきたかいがあるというか、体に負荷のかかった、最高の練習ができていると思います」

■高校年代でナンバーワンのセンターバック

昨夏のインターハイを制した千葉県の名門、市立船橋の最終ラインを支え続けた。6試合でわずか1失点。高校年代ではナンバーワンのセンターバック、といつしか呼ばれる存在となった。

ベルマーレへの加入内定が発表されたのは、18歳の誕生日を1週間後に控えた9月1日。もっとも、インターハイが開幕する直前の7月下旬には、市立船橋を率いる朝岡隆蔵監督を介して入団の意思を伝えていた。

昨シーズンのベルマーレはファーストステージから苦戦を強いられ、J2への降格圏をさまよっていた。ユニフォームに袖を通すときには、舞台がJ2になっているかもしれない。それでも、杉岡に迷いはなかった。

「J2へ降格したときのことも考えましたけど、湘南スタイルを武器とするアグレッシブなサッカーに惹かれたのと、日々の練習の質や強度の高さ、先輩の方々が取り組む姿勢を含めて、このチームならば毎日のように成長していけると思ったことが決め手になりました」

ベルマーレを含めて、4つのクラブから正式なオファーを受けた。名古屋グランパス、高校の地元でもあるジェフ千葉、そしてFC東京。そのなかでもFC東京とは、ちょっとした縁があった。

中学時代は下部組織でもあるFC東京U‐15深川で、ボランチを主戦場としてプレーした。しかし、高校進学を控えた中学3年生の夏に、FC東京U‐18には昇格できないと告げられた。

もうひとつのFC東京U‐15むさしに、サイズがほぼ同じで、左利きのボランチという点でも一緒だった鈴木喜丈がいた。FC東京は熟慮した末に、鈴木の昇格を決めた。

そのFC東京を実力で振り向かせた。U‐23チームをJ3に参戦させているFC東京ならば、1年目から公式戦のピッチに立てる可能性も大きくなる。それでも、ベルマーレに抱いた杉岡の憧憬の念は変わらなかった。

「J3のことももちろん考えましたけど、やはりJ2のなかでも限りなくJ1に近いレベルで練習して、試合に出て成長したいと思ったので」

■青森山田の守護神・廣末陸へ送った言葉

高校入学と同時に、ディフェンダーへコンバートされた。左利きのセンターバックは日本サッカー界でも希少価値であることと、自身の左足には精度の高いキックが宿っていることを朝岡監督から教えられた。

迎えた最後の冬。昨年度の東福岡(福岡)に続く夏との二冠を目指した全国高校サッカー選手権大会は、最終的には準優勝する前橋育英(群馬)との2回戦で、0‐0のまま突入したPK戦でまさかの黒星を喫した。

高校ナンバーワンストライカー、岩崎悠人を擁した京都橘(京都)を完封した1回戦を含めて、2試合で1失点も喫していない。それでも、高校生にとって最大の目標である選手権の頂点に手が届かなった。

「2日くらいは落ち込んでいましたけど…自分には次があったので。プロの舞台で早く戦いたいと。左足のキックの正確さと対人の強さを生かして、J1昇格という目標に少しでも貢献できるように頑張っていこうと」

優勝候補が早々に消えた選手権を制したのは、歴代の最北端優勝校を更新した青森山田(青森)だった。守護神・廣末陸はFC東京U‐15深川時代のチームメイトであり、同じくU‐18への昇格がかなわなかった。

「決勝はテレビで見ていました。廣末は中学のころから、本当にキックが上手かった。刺激を受けたし、負けたくない、という思いも強くなりました。高校ではプレミアリーグでもよく対戦したし、いいライバルとして、これからもお互いに切磋琢磨していきたい」

決勝が終わってすぐに、LINEを介して「おめでとう」と廣末へメッセージを送った。優勝だけでなく、お互いに踏み出す新たな門出を祝う思いを込めた。「これからお互いに頑張ろう」という言葉が返ってきた。

廣末もまたFC東京を振り向かせ、古巣でJリーガーになる道を選んだ。カテゴリーはJ1とJ2とで異なるが、ともにプロの世界で未来を切り開くチャレンジをすでにスタートさせている。

■あの中田英寿ですら達成できなかった快挙

21日には初めての対外試合となる、産業能率大学との練習試合が組まれた。キャプテンのFW高山薫、MF菊地俊介、DFアンドレ・バイアをはじめとする主力がピッチに立ったユニットに、杉岡も名前を連ねた。

ポジションは3バックで組む最終ラインの左。3シーズンにわたってレギュラーを務めた、DF三竿雄斗が鹿島アントラーズへ移籍。数人の選手が繰り広げているゼロからの競争へ、杉岡も堂々と名乗りをあげた。

スカウト担当部長時代は、公式戦だけでなく練習を含めて常に杉岡をチェック。湘南ベルマーレユースのコーチをへて、今シーズンからトップチームのコーチを務める小湊隆延氏は「十分にポテンシャルはある」と期待を込める。

「強さと激しさ、そして前へ出ていく力を兼ね備えていて、湘南のサッカーに合う選手、というのが彼への第一印象でした。もちろん他の選手との競争はありますけど、開幕戦から出られるように頑張ってほしい」

ベルマーレの高卒ルーキーの歩みを振り返ってみれば、日本代表として三度のワールドカップに出場した中田英寿ですら、韮崎(山梨)から加入した1995シーズンの開幕戦はベンチを温めたまま試合終了を迎えている。

当時とは異なるJ2が舞台とはいえ、クラブ史上に残る快挙を達成する可能性を、杉岡は182センチ、75キロのボディに秘めていることになる。

「とにかく頭を使う、いままで経験したことのないメニューが多い。頭を使う分、ちょっと苦労はしていますけど、すごく勉強になる。ディフェンスラインのコントロールは細かいし、判断の速さを求められる部分でも高校時代との違いを感じます。ただ、90分間を通してそれらを表現していかないといけないので」

可能性をさらに広げる狙いを込めて、曹監督は杉岡が中学時代まで務めていたボランチでの適性も見たいと青写真を描く。東京オリンピック世代でもあるホープは、「どこでもできる選手になりたい」と貪欲に前進していく。
《藤江直人》

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