【THE REAL】前橋育英と大塚諒を成長させた7ヶ月…最も短い夏から、最も長い冬を戦った熱い軌跡 | CYCLE やわらかスポーツ情報サイト

【THE REAL】前橋育英と大塚諒を成長させた7ヶ月…最も短い夏から、最も長い冬を戦った熱い軌跡

オピニオン コラム

埼玉スタジアム2002 参考画像
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  • 埼玉スタジアム 参考画像(c)Getty Images
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■語り継がれるグッドルーザーの姿

勝者を称えるスポットライトがまぶしくなるほど、敗者がピッチに落とす影も長く、濃く映る。試合終了の瞬間から描かれる、非情なまでに鮮明なコントラストはときとして、見ている側の胸を強く揺さぶる。

青森山田(青森)の初優勝で幕を閉じた第95回全国高校サッカー選手権大会。9日の決勝で0‐5のスコアで一蹴された、前橋育英(群馬)もまた「グッドルーザー」として語り継がれていくだろう。

部員152人の大所帯を170センチ、62キロの小さな体で引っ張ってきたキャプテン、ボランチの大塚諒(3年)は泣き出したくなる思いをこらえながら、ひざまずくチームメイトたちを一人ひとり鼓舞して回った。

試合終了の挨拶を終えて、青森山田のイレブンとすれ違うときにも「おめでとう」と握手をかわす。笑顔が必死に作られたものであることは、優勝校を表彰する瞬間に見せた大塚のしぐさが物語っていた。

埼玉スタジアムのメインスタンド中段に設けられたロイヤルボックスへ、勝者から先に登っていく表彰式。青森山田の選手たちが喜ぶ姿を脳裏に焼きつけようとした瞬間、大塚の涙腺は決壊してしまった。

「みんな泣いていたけれど、ここまで本当によくやってくれたので、最後は笑って終わりたかったんですけど。でも、やっぱり自分たちがあそこに立ちたかったと思うと、悔しさが込みあげてきて…」

3年連続20回目の出場を誇る選手権の舞台で、2年前の準優勝を越える悲願を果たせなかった。延長戦の末に星稜(石川)に屈した第93回大会の決勝を、大塚たち1年生はスタンドから応援していた。

「先輩たちの姿をスタンドから見て、自分も『ここに立ちたい』と強く思いました。今年はベンチ入りメンバーに入る3年生が少なかったので、(スタンドで応援してくれる)彼らの思いも背負ってプレーしてきました。こういう結果になったけど、最後まで育英のプライドをもって戦えたと思っています」

■インターハイ予選の初戦で負けた衝撃

いまも忘れられない言葉がある。昨年6月11日。シード校の前橋育英は初戦となったインターハイ群馬県予選の4回戦で、常磐と1‐1のまま延長戦にもつれ込んだ挙げ句、PK戦で苦杯をなめてしまった。

「お前ら、史上最弱の代だ!」

1983年からチームを率いる大ベテラン、山田耕介監督が叱咤激励する意味も込めて、あえて厳しい言葉を選手たちにぶつけた。前橋育英の看板に泥を塗ってしまった。誰もが屈辱に体を震わせ、涙した。

大塚も激しく自らを責めていた。2年生のときから試合に出ていたとこともあり、選手間の投票によってキャプテンを拝命した。しかし、とてもじゃないが、大役を果たしたと自信をもって言えなかった。

「それまでの自分は周囲に対してあまり物事を言えなかったというか、嫌われることを恐れるあまりに何も言えなかったんですけど。たとえ批判を浴びてでも、信じたことを恐れずにやっていくのがキャプテンだと思ったので。甘い考え方を捨てて、自分自身がまず変わらなきゃいけないと」

勇気を振り絞って、自分の力で殻を破っていかなければ道は開けない。怖さはあった。しかし、それ以上にもう二度と負けたくなかった。残された最後の冬へ。臥薪嘗胆の思いが、大塚を変えていった。

「投票でキャプテンを選ぶなんて、例年にはないことなんです。監督は以前から『今年は引っ張る人がなかなかいない』と言っていたのも、(投票にした)理由なんじゃないかと。なので、守備が甘かったときには強く言うとか、そういうことを積み重ねていったら、だんだんとチームをまとめられるようになりました」

広島県で7月下旬に開幕したインターハイは千葉県勢同士の決勝となり、市立船橋が流通経済大学柏を破って頂点に立った。真夏の太陽に照りつけられるなかで、前橋育英は逆襲の牙を研ぎすませていった。

■1週間も続いた腹を割った話し合い

もっとも、決して平たんな道のりではなかった。あまりにも早く夏の目標を見失ったチームは、山田監督をして「何をやっても上手くいかず、バラバラで大変だった」と言わしめるどん底の状態に陥った。

「選手たちは何をやっていいのか、私たちスタッフも何から始めていいのか、よくわからなかった。要するにチームとして、やるべき方向性というものがよくわからなかったんですね」

衝撃の敗退から1週間は、徹底した意思疎通の場に当てた。チームを10人ずつのグループに分けて、監督やコーチ陣に言いたいことを事前に提出させて、それを基に腹を割った話し合いをひたすら続けた。

152人もの大所帯ともなれば、さまざまな思いが交錯する。選手たちから上げられた意見のなかには、大塚によれば「何でこの選手がトップチームに入っているのか」というものも含まれていた。

「下のカテゴリーの選手には『もっと自分のことを見てほしい』という思いもあったんです。そうしたら監督は、いろいろなカテゴリー同士の紅白戦を増やしてくれた。よかった選手は上のカテゴリーへあがり、トップでダメだった選手は逆に下げられる。そういった形の紅白戦が、1ヶ月くらい続きました」

山田監督自身、選手個々の能力は問題ないと見ていた。欠けていたのはチームとして戦う術。問題を掘り下げていくと、寮での人間関係に行き着いた。選手たちが考えて、改善することを求められたと大塚は言う。

「食事当番や掃除などを、上下関係で下級生にやらせていた部分もあった。それらを部屋ごとの当番制にしましたし、サッカーにおいても、夏以降は下級生もしっかりと意見を言えるような環境も作りました。自分が2年生のときはそうじゃなかったので、そこは変えていこうと」

選手権の群馬予選が始まるころには、レギュラーの半分近くを2年生が占めた。個の力ではなく複数の選手によるコンビネーションで相手を崩す攻撃を身につけた、創造性あふれるチームに生まれ変わっていた。

■最も短い夏を最も長い冬に変えた軌跡

迎えた選手権の舞台。夏の結果もあって芳しくなかった前評判は、2回戦でPK戦の末に優勝候補筆頭の市立船橋を破ると急上昇。準決勝までの5試合を無失点のまま、2大会ぶり2度目の決勝へ駒を進めた。

選手たちの思いはただひとつ。大塚をして「監督を胴上げして男にしたい」と言わしめた夢は、無残にも散った。仮定の話をすれば、前半に訪れたビッグチャンスをひとつでも決めていれば、となる。

青森山田のゴール前でFW人見大地(3年)が1対1となった16分のビッグチャンスは、FC東京入りが内定している守護神・廣末陸(3年)が必死に伸ばした左足に弾かれて潰えてしまった。

大塚自身も27分、廣末が味方と接触した関係でがら空きとなったゴールをペナルティーエリアの外から狙ったが、右足から放たれた強烈な弾道はゴールバーの上を無情にも超えてしまった。

2年前の星稜、そして今回の青森山田と名門チームの初優勝の引き立て役となった山田監督は「指導者仲間からは『日本で一番勝負弱い』と言われています」とメディアの笑いを誘いながら、表情を引き締めた。

「どこか甘いところがあるんですね。ただ、失敗はひとつひとつ取り除いていけばいいので、まだまだ取り除ける内容があるということ」

胸にかけられたのは無念の銀メダル。それでも最も短い夏を、全国の高校生のなかで最後まで戦える、最も長い冬へと変えた軌跡は決して色褪せない。むしろ金色以上の輝きで、大塚たちの未来を照らし続ける。

「自分自身でも変われたかなと思うし、自分が変わったことでチームも変わった。それでも、この悔しさは絶対に忘れない。チームの半分は2年生以下。この思いをバネに、来年こそ勝ってほしい」

卒業後は立教大学に進む大塚は涙がすっかり乾き、さわやかな笑顔でバトンを託した。喜怒哀楽のすべてが凝縮された、波瀾万丈に満ちた7ヶ月間は選手たちの成長を心身両面で加速させ、これからの人生を歩んでいくうえでの羅針盤となる。
《藤江直人》

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