【THE REAL】鹿島アントラーズの強さの秘密(その1)…ピッチ内で発揮されるしたたかさと貪欲さ | CYCLE やわらかスポーツ情報サイト

【THE REAL】鹿島アントラーズの強さの秘密(その1)…ピッチ内で発揮されるしたたかさと貪欲さ

オピニオン コラム

鹿島アントラーズ 天皇杯優勝
  • 鹿島アントラーズ 天皇杯優勝
  • 天皇杯決勝 鹿島アントラーズ 対川崎フロンターレ
  • 天皇杯決勝 鹿島アントラーズ 対川崎フロンターレ
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■小笠原が意図的に演出した乱闘騒ぎ

ボールを小脇に抱えたまま、表情には殺気を刻みながら、鹿島アントラーズのMF小笠原満男が突進していく。怒声を浴びせた標的は、川崎フロンターレのMF中村憲剛だった。

日本一をかけて対峙した両チームのキャプテンを発端とする小競り合い。満員で埋まった大阪・市立吹田サッカースタジアムに、乱闘に発展するのではないか、という緊迫感がみなぎってくる。

2017年元日の午後2時にキックオフを迎えた「天皇杯全日本サッカー選手権大会」の決勝。フロンターレが得意のパスワークでペースをつかみ始め、日本代表FW小林悠の強烈なシュートがGK曽ヶ端準の正面を突いた直後の前半19分に、ピッチを取り巻く雰囲気が一変した。

自陣からボールを持ち運んできた小笠原が、小林、MF登里亨平の2人がかりのマークにあい、最後は小林のファウルでピッチに転がされる。その際にこぼれたボールを、中村が小笠原へ向けて軽く蹴った。

チームを牽引した小笠原満男

試合がアントラーズのFKで再開されることもあって、中村としてはボールをわたしたつもりだったのだろう。悪質なプレーではないと見なした松尾一主審もカードを出さなかったが、腹部にボールを受けた小笠原はおもむろに激昂した。

「あれは悪意があるでしょう。ボールをぶつけてきたわけですから」

あまりの剣幕に、両チームの選手たちが仲裁に入る。もみ合いのなかで再び転がされても、小笠原は視線を中村から離そうとしない。普段は感情を露にしないキャプテンの珍しい姿を、アントラーズの鈴木満常務取締役強化部長は頼もしそうな表情を浮かべながら、メインスタンドから見つめていた。

「あれは意識してやっているから。あれで相手が怯んだというか。何となくフワッとした雰囲気のなかでああいうことがあるとチーム全体の集中力が増すし、そういう駆け引きを計算してできる(小笠原)満男は、やっぱりすごいと今日は思ったよね」

果たして、強化部長職に在任すること22年目を迎えた、鹿島の歴史の生き字引存在でもある鈴木常務の直感は的中していた。かつてジーコやジョルジーニョ、秋田豊、本田泰人をはじめとするレジェンドたちが、試合の流れを変えるために駆使した『マリーシア』が再現されていたからだ。

■チーム全員が共有している勝負どころ

試合後の取材エリア。小笠原はポルトガル語で「ずる賢さ」を意味する『マリーシア』なる駆け引きを、中村に対して激昂する姿を通じて意図的に演じていたことを明かしている。

「本当に怒っていたわけではなくて、あれもパフォーマンスのひとつ。そういう細かいところにこだわって、何て言うのかな、流れを引き寄せるというか、戦うんだと伝えることは大事なことなので」

確かに騒動の渦中で、中村の表情には「なぜそこまで怒るのか」と動揺の色が刻まれていた。対照的に落ち着きと戦う姿勢を取り戻したアントラーズは前半42分、得意とするセットプレーからDF山本脩斗がヘディング弾を決めて先制する。

後半9分に小林に決められて追いつかれ、そのまま突入した延長戦の前半4分には、小笠原に代わって途中出場していた伏兵、FWファブリシオが値千金の決勝ゴールを決める。

決勝弾を決めたファブリシオ

実はこの場面にも「アントラーズらしさ」が凝縮されていた。MF遠藤康が蹴った右コーナーキックに、ニアサイドに走ってきたDF西大伍がジャンプ一番、頭を合わせる。強烈なヘディング弾がゴールバーを叩き、こぼれ球を中村が必死に大きく蹴り出した直後だった。

「チームのセオリーとして、セカンドボールはシンプルに上へあげることになっているので」

こぼれ球の落下地点に入ったMF永木亮太が、ヘディングで再びゴール前へ山なりの縦パスを入れる。守備から攻撃、攻撃から守備と目まぐるしく状況が変わる状況では、ややもすればメンタルが一瞬のエアポケットに陥りやすい。

アントラーズはこれを最小限にとどめるべく、普段の練習から攻守の切り替えを速める意識を高めてきた。果たして、ボールの落下点にいち早く入ったFW鈴木優磨の周囲にはフロンターレの選手が4人もいながら、誰も競り合いにこなかった。

「あの時間帯になると体力的にきついこともあって、相手はみんなボールウォッチャーになるんですよ。そこで1点を取れるのがウチの強さだし、優勝するチームとそうじゃないチームの差がはっきりと出たと思います。

こういう時間帯には何をしなきゃいけない、ということを鹿島というチーム全員で共有できていることを、試合を見ていた皆さんもわかっていただけたと思います」

■タイトルを取ってこそ強いチームになる

得意満面の鈴木がヘディングで狙ったのは、西とファブリシオがほぼフリーの状態で残っていた右サイド。西のシュートこそ必死にスライディングしてきたDF谷口彰悟にブロックされたが、こぼれ球に反応して右足を一閃させたファブリシオを止めるフロンターレの選手は皆無だった。

「あれは自分の最も得意とする形。誰かがマークに来たとしても、絶対に止められませんよ」

鈴木が再び吠える。悲願のクラブ初タイトル獲得へ向けて、フロンターレの選手たちは「絶対に隙を作らない」を合言葉にしていた。チャンピオンシップ準決勝でも、一瞬の隙を突かれて苦杯をなめた。誰もが肝に銘じていたはずが、またも歴史が繰り返されてしまった。

6大会ぶりとなるアントラーズの天皇杯戴冠は、1991年のJリーグ発足後では最多となる5度目となる。J1、YBCルヴァンカップ(旧ヤマザキナビスコカップ)を含めた国内三大タイトル獲得数は、これで他のライバル勢の追随をまったく許さない「19」にまで伸びた。

年間勝ち点3位からの下克上を成就させて、Jリーグチャンピオンシップでは8度目のJ1年間王者を勝ち取った。開催国代表として初出場したFIFAクラブワールドカップでは決勝まで勝ち上がり、欧州王者レアル・マドリードと延長戦にもつれ込む死闘を演じて世界を驚かせた。

そして、モチベショーンを途切れさせるところか、さらに高めて準々決勝以降の戦いに臨んだ天皇杯でも美酒に酔った。40日間で10試合、そのうち2つが延長戦となる軌跡を見つめてきた鈴木常務は、「タイトルを取れば強くなるんだよ」と常勝軍団ならではの持論を展開した。

「接戦で勝っていくなかで、耐える時間帯と攻めにいく時間帯のメリハリがすごく明確になって、自分たちの試合運びに集中できるようになった。今日なんかも攻められていても、まったくあたふたしていなかったよね。

天皇杯を取ったことで若い選手や経験の浅い選手が、さらに力をつけていく。いままでの経験から言えば、2位では何も残らない。タイトルを取ることで力になると、選手にはいつも言っているので」

■アントラーズにあって他にないものとは

過密日程をしぶとく、泥臭く勝ち抜いていたある日のこと。ユースから昇格して2シーズン目になる20歳の鈴木は、小笠原と並ぶ37歳の曽ヶ端にこんな疑問をぶつけている。

「タイトルを取るときって、いつもこんな感じになるんですか?」

アントラーズに在籍すること実に19シーズン目。寡黙な立ち居振る舞いと堅実な仕事で風格を漂わせ、今回の天皇杯で16個目のタイトルを経験した守護神は「本当に押されていても、ゴールされないものなんだ」という言葉を繰り返してきた。鈴木には納得できるものがあった。

「後ろの4枚とソガさん(曽ヶ端)が頼もしすぎるというか、あれだけ危ない場面が多いのに安心していられるというか。優勝するとはこういうことなんだと、身をもって体験できたことで、新しい年のいいスタートが切れました」

狡猾さとも置き換えられる、小笠原の駆け引きに象徴される神様ジーコ直伝の試合巧者ぶり。ベテランから中堅、そして若手の間で共有されている、試合運びの鉄則と勝負所を察知する戦術眼。そしてアントラーズにあって、他のJクラブにないものがもうひとつだけある。

天皇杯決勝までの10試合、合計960分間を曽ヶ端と並んでフル出場してきた24歳のディフェンスリーダー、昌子源が屈託のない笑顔を浮かべながら来たる2017シーズンを見すえる。

「一回でもタイトルを味わうと、もうやめられへんというか、もう一回取りたいとなる。2016シーズンも当初の目標は三冠であり、そこにクラブワールドカップ制覇も加わった。そのなかで(半分の)二冠に終わってしまったことが、鹿島としては不甲斐ないし、反省しないといけない。

今年は何かと鹿島の年とかになったかもしれないけど…今年というか去年か。なので、しっかり次の年も『やっぱり鹿島だね』って言われるようにしたい」

勝ちに慣れるどころか、ますます貪欲になる。満たされることのない飢餓感を、つかの間のオフでさらにぎらつかせて、J1屈指のボールハンター、レオ・シルバ(アルビレックス新潟)、点取り屋ペドロ・ジュニオール(ヴィッセル神戸)らの新戦力を加えた常勝軍団は17日から早くも始動する。
《藤江直人》

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