【THE ATHLETE】BIG4の明暗が反転…『荒れる全豪』はベスト8が出そろう | CYCLE やわらかスポーツ情報サイト

【THE ATHLETE】BIG4の明暗が反転…『荒れる全豪』はベスト8が出そろう

オピニオン コラム
錦織圭対ロジャー・フェデラー(2017年1月22日)
  • 錦織圭対ロジャー・フェデラー(2017年1月22日)
  • ラファエル・ナダル対アレクサンダー・ズベレフ(2017年1月17日)
  • ノバク・ジョコビッチ 参考画像(2017年1月19日)
  • アンディ・マレー対ミーシャ・ズベレフ(2017年1月22日)
『荒れる全豪』という言葉がある。1月に行われる全豪オープンテニスは波乱が起きやすく、しばしば上位シードの選手が思わぬところで敗れるためだ。

その理由はいくつかある。真冬の北半球から最高気温が30度を超える真夏の南半球に渡ってきた選手は環境への適応力が試されるし、前年に大活躍してランキングを一気に上げた選手はオフシーズンに研究されマークが厳しくなる。

世界ランク上位8選手はツアー・ファイナルまで戦うためオフが短く、コンディションを整えるのが難しい。

2017年の全豪オープンも、ファンの予想や期待を裏切る試合があった。今大会の優勝候補と目されていた世界ランク1位のアンディ・マレー、同ランク2位のノバク・ジョコビッチがベスト8を前に敗退。

昨シーズンまでの活躍で盤石と思われていたふたりが脱落したのを尻目に、一方ではケガからの復活で注目されたロジャー・フェデラー、ラファエル・ナダルが準々決勝まで勝ち残った。

■らしくないミスが続いたジョコビッチ

全豪オープンは過去6度優勝しており、大会前に本人も「最も成功を収めたグランドスラム」と語っていた。だが3連覇を目指した今大会の2回戦、世界ランク117位のデニス・イストミンに敗れて姿を消した。

解説を務めていたジョン・マッケンロー氏は、「過去10年に起こった中で全豪最大の番狂わせ」とこの試合を評価した。

実は試合を通して獲得したポイント数ではジョコビッチの方が多い。この試合のスタッツを確認してみると、トータルポイントではイストミンの186に対し、ジョコビッチは193ポイントを獲得している。

しかし、ジョコビッチは勝負所でミスが多く、鉄壁の王者らしからぬテニスで流れを引き寄せられなかった。イストミンのアンフォーストエラー61本に対して、ジョコビッチは72本。ダブルフォルトも9本を数える。

第1セットを落としたあとに第2セット、第3セットを連取して迎えた第4セット。一気に試合を終わらせなければならないところでミスが出て落とすと、第5セットも淡泊なテニスが続く。

普段ならボールを相手のコートに返してミスや攻め疲れを待つ局面から、無理にストレートに打ってネットに掛けてしまうことを最後まで繰り返し続けた。


■信念のサーブ&ボレーに屈したマレー

ジョコビッチが敗退したことで、念願の全豪初制覇に向け視界が大きく開けたマレー。だが世界のテニスファンは、ミーシャ・ズベレフとの4回戦で再び驚くことになる。

積極果敢にサーブ&ボレーを仕掛けるズベレフからマレーは主導権を握れず、ネット際の攻防でもズベレフがマレーのお株を奪う好プレーを連発。粗さも見られたズベレフだが、最後まで主導権を渡すことなく押し切った。

この試合で118回のネットプレーを仕掛け、うち65回をポイントに結びつけたズベレフ。この戦い方について彼は、「サーブ&ボレーでマレーのリズムを破壊した」と話している。

ラケットの性能向上やサーフェスの変化により、現代では絶滅の危機に瀕していると言われるサーブ&ボレーヤー。かつて一世を風靡した戦術だが、ツアーレベルでここまで一試合でネットを取り続ける選手は現代では珍しい。

自分のテニスはこれなんだと信じ、最後まで迷うことなくやりきったズベレフの信念と執着が勝った。

敗れたマレーは、「ガッカリしている。ここでは長く、こんなに早い段階で負けたことなかったからね。僕はキャリアの中で何度も厳しい負けから立ち直ってきた。きっと今回もカムバックするよ」と話し全豪を後にした。


■王の帰還を果たしたフェデラー

2000年代のテニス界に王朝を築き、いまなお第一線で活躍するフェデラー。だが2016年は全豪オープンのあとヒザの故障に悩まされ、出場と欠場を繰り返してシーズン後半は全休した。

ランキングも17位まで落として臨んだ今回の全豪オープン。3回戦で世界ランク10位のトマーシュ・ベルディヒに圧勝し、4回戦では錦織圭と対戦した。

錦織との試合では序盤こそ4ゲーム連取されたものの、そこから追いつくなど尻上がりに調子を上げていった。錦織の狙いが自分を左右に振って走らせることにあると理解したフェデラーは、強引にでも圧力を強め主導権を力業で奪う。

勝負所でミスが出た錦織とは対照的に、フェデラーは要所で確実にポイントを奪っていく。第1セットは落としたものの、第2セットでファーストサーブの確率を80%まで高め一気に奪い返すと、第3セットでも立ち上がりから攻め続ける。

このセットはリードが大きく開いたところから、錦織が第4セットを意識してセーブし始めたこともあり、フェデラーが30分かからずに奪った。


疲労が溜まった足に鞭を打って第4セットは奪い返した錦織。だがゲーム間にトレーナーを呼び、何度も治療を受けながらの試合だった。対するフェデラーも動きに若干の衰えは見せたが、それでも復帰初戦の5セットマッチとは思えないスタミナで錦織を圧倒した。

錦織としてはフェデラーを振り回して楽な試合をさせないはずが、逆にフェデラーに振り回され消耗を強いられた。


激闘を制したフェデラーは試合後、「ケイは素晴らしい試合をした。リードされても、これ以上は悪くなりようがないと自分に言い聞かせた。マレーの試合は相手のミーシャ・ズベレフが良いプレーをしていた。マレーにとっては厳しい敗戦になったけど、きっと戻ってくるでしょう」と話している。

■前年の悪夢を払拭したナダル

2016年の全豪オープンはナダルにとって厳しいものだった。体調不良でシーズン最終戦を欠場した2014年。そこからの復活を期すも調子が上がらなかった2015年を経て、今年こそと臨んだ全豪では1回戦でフェルナンド・ベルダスコに敗れる波乱。

全豪オープンでは初となる初戦敗退を喫し、ショックに打ちひしがれる姿が世界を駆け巡った。

あれから1年。再びケガからの復活を目指す年になった今シーズン、ナダルは3回戦で新鋭アレキサンダー・ズベレフに苦しめられながらも、フルセットのすえに4回戦まで勝ち進んできた。4回戦の相手はガエル・モンフィス。

抜群の身体能力を誇る相手にナダルは今大会で一番とも言えるテニスを見せ第1セット、第2セットを連取した。

しかし、モンフィスも2セットダウンになったところから開き直り、迷うことなく強打を打ち始める。どんどん前に出て力強いショットを打つモンフィスに、ナダルは第3セットを奪われてしまった。

第4セットも一進一退の攻防が続いた。しかし、徐々にモンフィスの勢いに陰りが見え始めナダルが押し返す。

最後はモンフィスがダブルフォルトを出したことでマッチポイントを握り、このチャンスを仕留めきって全豪では2年ぶりとなるベスト8進出を果たした。

「これは僕にとって非常に大きな意味を持っている。本当に素晴らしいニュースなんです」とナダル。世界ランク6位のモンフィスを破ったことは、「とても良いプレーヤーからの、非常に重要な勝利だ」としている。


■復権を目指すレジェンド対ネクスト・ジェネレーション

大会前の予想からするとBIG4の明暗が反転したとも言える全豪オープン。グランドスラムでフェデラーとナダルがそろってベスト8に残るのは、2015年の全仏オープン以来になる。テニスファンからは決勝戦で相まみえることを期待する声が多い。

準々決勝の対戦相手はフェデラーがマレーを破ったズベレフ、ナダルは第3シードのミロシュ・ラオニッチ。前哨戦のブリスベン国際でラオニッチに敗れたナダルに、早くも雪辱の機会がめぐってきた。

一方のラオニッチも今回は負けられない。マレー、ジョコビッチが敗れて残ってる選手ではシード順が最も高い。グランドスラム初制覇に絶好の機会だ。

ナダルのドローは若い選手が多くラオニッチ、ダビド・ゴファン、グリゴール・ディミトロフの3人はいずれも90年代生まれ。レジェンド対ネクスト・ジェネレーションの構図が鮮明だ。

反対側の山はフェデラーがズベレフのサーブ&ボレーをどう攻略するかに注目。自身も若いころはサーブ&ボレーを多用していただけに、やられたら嫌なことを知っている。

そこを通過したとして準決勝で当たる可能性があるのは第4シードのスタン・ワウリンカと、第12シードのジョー=ウィルフリード・ツォンガ。

グランドスラムの2週目に強いワウリンカ、トップ10返り咲きに意欲を燃やすツォンガ。どちらが勝ち上がってきても面白い試合になりそうだ。
《岩藤健》

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