【アーカイブ2009年】BMC SLX01、個性的なディティールは機能的必然か…安井行生の徹底インプレ | CYCLE やわらかスポーツ情報サイト

【アーカイブ2009年】BMC SLX01、個性的なディティールは機能的必然か…安井行生の徹底インプレ

オピニオン インプレ

安井行生のロードバイク徹底インプレッション



カッコだけか、走りもイイのか、それが問題だ!


スイスの新星BMCが放つ、煌く個性を持つ最新モデル、SLX01。今あえて変則的アルミ/カーボンコンポジット構造を採用した意味とは? その素晴らしいスタイリングは、走っても素晴らしいのか? ホイールをあれこれと換えながら、ときおり雪も舞った峠でせっせと走り込んだ安井がジャッジ。その出来栄えや、いかに。



(text:安井行生 photo:我妻英次郎/安井行生)


ドグマにも586にもマドン6.9にも乗った。プリンスカーボンやライトスピードも、価格を忘れたふりして思い切り走らせた。さて次は何に乗ろうか、と各社のカタログを前にして考えるとき、いち自転車好きとしてはどうしても高価なハイエンドモデルに目が行ってしまう。しかし今の僕は、トップモデルではないけれど、今一番スタイリッシュな一台の新型車を思い当てた。



それは、どれも似たような機能・デザインのものしか選択できず、突出した個性に欠ける今のミドルグレードロードバイク市場、そこに風穴を空ける前衛的スタイルで登場した、BMC SLX01である。



トップチューブ、ヘッドチューブ、ダウンチューブの3分の1ほどがユニディレクショナルナノカーボンによるモノコック構造、残りのダウンチューブとシートステー、チェーンステーがハイドロフォーミング加工とトリプルバテッド加工を施された7005アルミで構成される、アルミ/カーボンコンポジットフレーム。そんな構造も独特だが、外見も特徴の塊だ。T字断面のトップチューブ、シートチューブを巻き込むように接着されるトップチューブ後端、下方にオフセットされたシートステー接合部と小さいリア三角、シートクランプのない翼断面シートポストとその固定方法、断面形状を刻々と変化させる太いチェーンステー、都会的なカラーリングにライトブルーのアクセント、フレームからはみ出すほど大胆に配置された各ロゴ。



それらは秀逸なスタイリングとなって世の自転車好きの視線に “観る楽しみ” を与えるが、そこにロードバイクとしての必然性はあるのか?この変則的アルミ/カーボンコンポジット構造の実力は?300km強を走った印象を基に、冷静な判断を試みた。







スペック






異端者(車)、無個性のカオスにエッジを立てる







人を惹きつけるようなバイクが少なくなった、と思う。「オマエのレゾンデートルは一体何だ?」 と問い詰めたくなるバイクが溢れている、と思う。あらゆる意味の高度な個性を孕み、それを強調しながら生意気にも 「this is what I am!」 と言えるバイクにだけ僕は欲情するのだし、そうやってロードバイクという機材を楽しみたい、と思う。



だからSLX01を初めて間近に見たとき、ドキッとした。そのスイスデザインはどこにも隙がなく、どこにも破綻がなく、どこにも不粋なラインがなかったから。そうかと思えば全く未完成かつ不完全であるようにも見え、と同時に芸術的鑑賞に耐える美しさを持っていたから。そして、あえて没個性の群れを自ら離れんとしているように見えたからだ。



それは 「自転車の未来」 というテーマの、気鋭の若手デザイナーの手によるデザイン・スタディのようであり、一方で、コンピュータ言語をベースにした理路整然としたフォルムにも感じられる。



特に、そこいらのメーカーにはとうてい真似できないであろうセンスで描かれるグラフィックがいい。スローピングフレームとしては最も美しい角度でスロープするトップチューブのシルエットがもたらす、凛と張り詰める空気もいい。派手なディープリムを抱えてアスファルトを踏みしめ立つ様には、全く惚れ惚れする。







しかし自転車はただの機械としての自転車にすぎない、と考えてみるのもまた正しい。情動的な感想だけで全てを語るのは、必ずしも正しくない。だからこそこの個性に疑いを持って挑みたい。



まず、フレーム上半分をカーボンにして振動吸収性を確保し下半分をアルミ等の金属にして剛性を担わせるという構造は、ロードフレーム設計の手法としてはすでに手垢のついているものだ。5年前にはスペシャライズドがターマックE5でやっているし、ジャイアントもアライアンスシリーズ (allianceは同盟という意) で取り入れている。レモンもいつかそんなフレームを作っていたかもしれない。しかしメインストリームにはなり得ていない構造を、何故いまさらBMCが?と思うのは僕にとって自然のことだ。



そして各部の個性的なディティール、それは果たして機能的必然か。例えばトップチューブのT型断面。またはトップチューブ後端の形状。シートステー取り付け部を下げてリア三角を小さくすることによって得られる効能が長所だけであるならば、なぜ世のロードバイクは全てそうならないのか。それらの本当の機能的メリットは?



それらを 「シルエットだけでBMCと分かる」 云々…と人は褒め称えるが、シルエットだけでBMCと分かる“ためだけ”にそうしているのであれば、それが単なる鑑賞品としてならまだしも、機能がそのままスタイリングとなるはずのロードバイクとしては、僕らは罵倒を浴びせるべきであろう。カタログ用のもっともらしい理由など後からいくらでもつけることができる。



それらについて、知り合いである元自転車エンジニアの某氏に聞いてみたところ、



(構造について) 「こういうフレームは難しい。パイプの途中で素材が変わるわけだから、接合部で予期しないたわみかたをしたりする。もちろんそれぞれの素材の長所を引き出せることもあるけど、打ち消してしまうこともある。それに、2つの素材 (この場合はアルミとカーボン) を重ね合わせて接着する必要があるから、接着部がどうしても重くなる。そういうデメリットがあるから構造として主流にはならないんだと思う。BMCはそれを上回るメリットを見出せたんだろうね。それにこのバイクは、走行中に応力が集中しやすいダウンチューブ上部に接合部を持ってきて、素材の重合によるパイプの強度アップに上手く応力を担わせている。どう?ダウンチューブの剛性、出てたんじゃない?」



確かに、トレック・マドンも同じ理由で同じ場所にパイプ接合部を持ってきていた。



(トップチューブT型断面について) 「同じ肉厚・質量の場合、ねじりに対しては丸断面が一番強いはず。トップチューブのT型断面はねじりには弱いけど、横と縦からの曲げに対して強い形状。ねじりはダウンチューブに担わせ、トップチューブは曲げに対して特化させる、という考え方なのでは」



(バック三角の形状について) 「シートステー取り付け部を下げるとバック三角の面積は小さくなって、確かに剛性は上がる。しかしシートステー上端とトップチューブ後端の位置が上下にずれるので、シートステーからの入力 (路面からの衝撃) をシートチューブ (とトップチューブ後端) で支えることができなくなる。するとシートチューブとシートステーの接合部に負担がかかり、シートチューブを分厚くしなくてはならず、重くなってしまう、という欠点がある。ただ、SLX01のシートチューブは翼断面なので、結果として接着面積が大きくなり、縦方向の応力にも強くなるので上手く応力を分散させているように思う。最近のロードバイクでこういう設計が少なくなったのは、素材やパイプ異形加工技術の進化によってバック三角の剛性が確保できるようになったのと、スローピングジオメトリの一般化によってシートステー取り付け部の位置が下がってきたことが挙げられる」



とのこと。納得できるような、できないような。僕はここで個性を否定しているのではないし、そうするつもりも全くない。むしろ「ロードバイク作ってるような会社なんだからなんかオモロイことやってみろよ」と思うのが本心だ。しかし、あくまで (スタイリングとしての) デザインが先行するのではなく、形態は 「機能に従う」 べきものだ、と言いたい。スタイリングがファンクションを超えてはならない。



しかしエンジニア本人と深く飲み交わしでもしない限り、設計した当人ではない僕に、というより一度も自転車を作ったことなどない僕に、そんな構造やディティールが本当はどのような意図によって形作られたのかという、その真相の判断は不可能に近い。とはいえ、派手やかで魅力的な商品力を与えるために進化の歩みを止めてしまうようなことがあるのなら、それはロードバイクという乗り物に対する敬意の欠如=侮辱に他ならない。だから新型バイクについて何かを語ろうとするとき、(健全な) 批判精神を持って接することは大切だ、と僕は思う。



「安井はいつもそういうよね。オレは、機能が犠牲になっていないのであれば機能上必ずしも必要のない個性はあっていいと思う。ロードバイクは、単なる競技用機材とは違う面も持っているからね」



《》

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まとめ

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