プロトレイルランナー・鏑木毅「50歳まで世界トップレベルで戦いたい」単独インタビュー 3ページ目 | CYCLE やわらかスポーツ情報サイト

プロトレイルランナー・鏑木毅「50歳まで世界トップレベルで戦いたい」単独インタビュー

スポーツ 選手
プロトレイルランナーの鏑木毅選手
  • プロトレイルランナーの鏑木毅選手
  • プロトレイルランナーの鏑木毅選手
  • プロトレイルランナーの鏑木毅選手
■トレイルランはオリンピックになるのか?

---:オリンピックにトレイルランはまだ含まれていませんが、将来的なオリンピック競技化に向けて動きはありますか?

鏑木:短いトレイルランニングのスタイルならオリンピック競技を目指す動きはあるようですが、オリンピックはどの開催地でも同じ条件でできる環境がなければいけない部分もある。山は天然の山だし、夏のオリンピックは(競技を)増やすのが難しい状況もある。僕自身はオリンピック競技にならなくちゃダメだと、それほど思っていません。競技スポーツとしての側面もありますが、このスポーツの魅力は競技だけではない部分もある。

自転車競技はオリンピックや世界選手権があるけど、最高の栄誉はツール・ド・フランスなんですよね。そういうスタイルのほうがあうのかな。なかなか難しい問題ですよね。

---:オリンピックで楽しみにしている競技は?

鏑木:月並みながら、マラソンですかね。やっぱり僕も同じ走ることをやっているし、もともと陸上競技の選手だったし。日本人が一番メダルを獲れる位置にあると言われてきたスポーツでもあるので、興味があります。あとオリンピックは普段は観れないマイナーな競技も観れるので、こういう世界もあるんだというのを観るのも楽しみです。幅広く観ていますね。


プロトレイルランナーの鏑木毅選手

---:シンポジウムにはさまざまな競技の方が講演しましたが、普段ほかの競技の方と交流や情報交換などはありますか?

鏑木:実はあまりなくて、自分自身よくないなと思っています。そういった意味で今日は有意義なシンポジウムでした。野村(忠宏)さんの柔道の話も、ああそうなんだと意外な部分が見れたり、先生方の話もためになりました。他の競技の方の話を聴いて、練習に取り入れられるエッセンスもあるんじゃないかと思って。いろんなスポーツの方と交流していきたいと思っています。

---:聴講者は指導する立場の人も多かったそうです。今後どのようにいかしてほしいでしょうか?

鏑木:気持ちをつなげていくことが重要だと思います。どうしても指導者の方は目先の結果にとらわれてしまって、結果を出すためにこうする、というプロセスを踏みがち。でも人間はどこでどうやって芽が出るかわからないですし、将来を見据えた指導、野村さんも話していましたが技術的な細かい部分よりも心を鍛えるような、そういった部分がすごく重要。

人としてこうあるべきとか、この局面の時はこうやって耐えてこう乗り越えるみたいなノウハウを学ぶというのは、社会に出ても同じパターンというのはある。そういうのを学ぶのがスポーツの本質だと思う。なかには(スポーツを)仕事にして活躍していく選手も出てくるけど、それはほんの一握り。多くの人たちはどこかでスポーツを、競技者としての向き合い方を諦めて、次のステージに行く。そこが本当のスポーツの力、可能性のような気がする。

そういう人としてのありかたとか、将来を見据えた一歩俯瞰(ふかん)した目線で指導してもらえたらいいなと思いますね。競技的になる時もあるけど、すべてそれにとらわれる必要はないと思う。昔はそういう指導で少年時代に取り組まされてきたので、それへのアンチテーゼじゃないけれど、すごく感じますね。

トレイルランニングは自分自身で選んで、自分自身で開拓して、自分自身で強くなったというプロセスが、すごくワクワクする気持ちでできた。それで(UTMBで)世界3位まで行けたと思うし、少年時代の僕の走ることはそうじゃない部分があった。もっと違う切り口だったら、もっと違うことができたのかなと反省として思っています。

---:鏑木さんにとってトレイルランの魅力とは?

鏑木:やっぱり、遊び?遊びの要素が強いスポーツだと思うんですよね。山に行って日常から離れて、いい景色を見たり綺麗な空気を吸ったり、そのなかで自分の好きなランニングができるのはすごく贅沢な遊びだと思っていて、その感覚を絶対忘れちゃいけない。

自分自身はプロフェッショナルなので結果を出さないといけないし、勝つこともあるのだけど、それにとらわれすぎてしまうと心が疲れてしまう。そもそも好きで始めたトレイルランニングが嫌になってくるのは、その流れで何回も経験しているので、やっぱり自分にとっては遊び。真剣に付き合う遊びなんだと、その感覚を強く持っていないと。そこが自分にとっては重要。遊びは義務じゃないですよね。自分から率先してやるものじゃないですか。そのモチベーションを持つことが重要かな。

---:将来的な目標を教えてください。

鏑木:ウルトラトレイルという160kmを走るカテゴリーで、50歳までは世界トップレベルで戦いたいですね。あと3年ですかね、1年1年がギリギリのチャレンジなんですけど、それが大きいかな。あとは生涯現役みたいなのはありますね。世界トップレベルではなくなっても山を走っていたいなって。遊びの終わりはないわけだし、人間歳を取ったら、遊ぶのを止めるわけではないよね。遊びは死ぬまでやるものだと思っているし、そういった意味で自分にとってトレイルランニングは本当に遊びですよね。

●鏑木毅(かぶらき つよし)
1968年10月15日、群馬県生まれ。2009年に世界最高峰のウルトラトレイルレース「ウルトラトレイル・デュ・モンブラン(UTMB)」で3位入賞。以降、欧米のレースで活躍する。また、競技普及にも精力的な活動をしており、富士山周辺を舞台にしたUTMBの姉妹レース「ウルトラトレイル・マウントフジ」では大会実行委員長を務めている。
《五味渕秀行》

編集部おすすめの記事

page top