人間である以上は当然わき上がってくるネガティブな感情を、一緒にサッカーの試合を作り上げていく仲間として審判団をリスペクトすることで、佐藤は笑顔に変えてきた。
「審判も人間なので変に言われても、いい気持ちはしないし、こちらが言ったところで何も返ってこない。それならば、気持ちよくプレーしたほうがいいですからね」
Jリーグから表彰される個人タイトルにフェアプレー個人賞がある。受賞基準は「原則としてJ1リーグ戦において警告・退場処分を受けていない選手」と定められていて、当該選手が複数いる場合は出場試合数が多い選手が対象となる。

佐藤はフェアプレー個人賞に2007年、2012年、2013年と輝いている。3度の受賞は歴代最多。特に2012年は得点王、ベストイレブン、MVPとの4冠を独占したが、フェアプレー個人賞だけは「シーズンが始まる前から意識していた」と自らの聖域にすえていた。
もっとも、当時の佐藤はこんな言葉をつけ加えることも忘れなかった。
「それ以前にプロとして、目の前の試合に勝つことにこだわらないといけない。フェアプレー個人賞が欲しいがゆえに、相手との接触を避けるのはもってのほかですから。ときには激しいプレーも必要ですし、審判に対して何も言わないのか、と言われれば決してそうでもない。キャプテンという立場でもありますし、伝えるべきことはチームを代表してしっかりとした言葉で伝えないといけない。審判にとっても、自分は決して扱いやすい選手というわけではないと思うんですけど」
ストライカーはイコール、エゴイストと言われることが多い。
「自分がノーゴールでチームが勝つよりも、ハットトリックを達成して負けたほうがいい」
日本サッカー界が生んだ不世出のストライカー、釜本邦茂氏はこんな言葉を残している。自らを評価する唯一無二の数字であるゴールへの、強いこだわりが伝わってくる。

そして、釜本氏ほどではないものの、佐藤もストライカー特有のエゴイスティックな一面をもちあわせている。2014年8月2日、敵地で行われた鹿島アントラーズ戦のハーフタイムに、それは露になる。
1点ビハインドの状況で、森保一監督は佐藤に代えてルーキーの皆川佑介をピッチに送り出すと告げる。その瞬間、佐藤は叫んだ。「何でオレなんですか」と。
監督の専権事項である選手起用に真っ向から異を唱えた。造反であることは理解していたが、ストライカーの矜持が交代を受け入れさせない。チームが苦境に置かれていたことも、納得できない佐藤の感情を高ぶらせた。
アントラーズ戦は後半にさらに4点を失って惨敗した。一夜明けて佐藤と森保監督が思いの丈をぶつけ合い、チームのためを思った末の言動として理解された。
懲罰で2試合はベンチから外れた。その後もリザーブが2試合、後半途中からの出場が3試合続いた。2014年シーズンの出場29試合、プレー時間1883分がサンフレッチェ移籍後で最少となっているのはこのためだ。
もっとも、雨降って地固まる。以来、佐藤が抱くフォア・ザ・チームの精神はさらに強くなった。
【サンフレッチェ広島・佐藤寿人がフェアプレー精神を貫く理由 続く】