【プロ野球】ヤクルト石川雅規救援登板の謎 先発投手「通算200勝達成プロジェクト」のひと幕か… | CYCLE やわらかスポーツ情報サイト

【プロ野球】ヤクルト石川雅規救援登板の謎 先発投手「通算200勝達成プロジェクト」のひと幕か…

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【プロ野球】ヤクルト石川雅規救援登板の謎 先発投手「通算200勝達成プロジェクト」のひと幕か…
  • 【プロ野球】ヤクルト石川雅規救援登板の謎 先発投手「通算200勝達成プロジェクト」のひと幕か…

7月6日の東京ヤクルト・スワローズが意外な投手起用でファンや解説者を驚かせた。

この日は、2023年デビューし未勝利投手の丸山翔大が先発し2回を無失点、3回表に味方打線は1点をあげ、夢のプロ初勝利が少し見えてきたところだった。

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■敗戦投手となった石川雅規

だが、その裏から二番手に先発要員の石川雅規がマウンドに上がった。石川は5イニングを自責点ゼロに押さえたが味方の連続失策もあり逆転を許し、敗戦投手になってしまった。投球内容は悪くはないと思われたが、翌日に石川雅規は登録抹消、前半戦最後の一軍登板ということになった。この投手リレーについて首脳陣からは明確な説明がなかった。

その夜のプロ野球ニュースでは「この時期ではまだ珍しいが、石川に勝ち星を取らせようとしたのだろうか」という解説者と「個人記録を重視するとも思えないので、野村克也監督がときどきやったような、先発投手に合わせて左打者がずらっと出てきたところで早めに左投手を出して相手打線を機能させないようにする、というたぐいの作戦かもしれない」という解説者もいた。

確かに、最多勝を取らせるための起用をするにはまだ7月は早いし、近年はシーズン終盤でもそのようなタイトル優先の起用をハーラーダービーに関しては見なくなっているような気がする。また、この日のDeNAベイスターズは特段左打者を並べたわけでもないので、相手打線を殺すような継投策にも見えない。

監督が理由を明かしてないので、以下は憶測になる。

解説者のひとりがいうとおり、石川に勝ち星をということではないだろうか。ただし、シーズン最多勝ではなく、通算200勝をなんとか達成させたいということではないか。今はシーズン終盤ではないけれども、200勝にあと15と迫った43歳の石川のキャリアは先発投手としては最終盤だと思う。

彼については2022年9月5日付本欄でも触れたけれども、現時点で残り15の勝ち星を先発で稼ぐのは大変である。2019年から22年までの4年間は20勝23敗、今の力量や起用法を維持したとしても3年はかかり、その間に17敗は覚悟しなければならない計算だ。40歳代の後半にさしかかる中でそれはむずかしい、となれば、ほかの先発投手がつかむべき勝ち星を石川に譲る形で稼ぐよりほかはない、と高津臣吾監督は判断したのではないだろうか。

■モチベーションが難しい 「ブルペンデー」

「ブルペンデー」についてここで説明する必要はないと思うので省略するが、丸山先発と聞いてそう思ったファンもいたかもしれない。しかし、石川は295試合連続先発の日本記録保持者なのだ。2021年に12年ぶりにリリーフ登板をしたときもニュースになったほど、今回もそれ以来の救援登板だった。

そもそもブルペンデーは日ごろブルペンにいる、もっぱら救援が役割の投手だけでその日をまかなうゲームプランであり、メジャーリーグで始まったものの日本ではまだまだ普及したとはいいがたい。

救援陣も疲弊する。しかも、ブルペンデーでも先発する投手だけは、5回まで投げない限り間違っても勝ち星がつかない。今はローテーションの柱となって開幕投手に登り詰めた北海道日本ハム・ファイターズの加藤貴之が4年ほど前にまだ救援時代によくブルペンデーの先発を務めることが多かった。手元に統計はないが、当時の栗山英樹監督はこの作戦をいちばん用いることが多かった日本人監督だったと思う。

これを特集したテレビ番組で加藤が「勝ち星が絶対につかないこの役回りはいやだった」とはっきり語っていた。このことを私たちは知っておきたい。

オークランド・アスレチックス※の藤浪晋太郎が現在5勝を挙げているが、すべて救援で挙げた勝ち星であり、彼はこの5試合、リードした場面で登板したことは一度もない。こうして負けパターンの投手が勝ち星になることはたまにあることだが、先発で5回未満に降板した場合はその可能性がない。ブルペンデーの先発投手にはその可能性があらかじめない。日本でこの戦法が広がらないのは投手の勝ち星の重みを監督がよく理解しているからではないだろうか。

※現地19日、ボルチモア・オリオールズにトレード

1969年10月10日、金田正一は読売ジャイアンツの投手としてこの試合で通算400勝を達成した(うち353勝が当時の国鉄スワローズ、現ヤクルトでの勝ち星)。金田にはもう先発で5回を投げ切る力は残っておらず、首脳陣はどうしても達成させたかった。当然の配慮だが、誰か同僚の投手が犠牲になる。

■前人未到400勝達成の裏で…

この試合で犠牲になったのは当時29歳、前年までプロ7年間で通算129勝を挙げていたエース城之内邦雄である。先発で彼は4回を投げ、リードした場面で5回以降を金田に譲った。この年は調子を落として4勝しかしておらず、その2年後に31歳で引退した城之内にとっても欲しかった勝ち星のはずである。当時のジャイアンツ関係者は金田本人も含めて偉業達成の祝福ムード一色であり、「城之内には申し訳ないことをした」というようなコメントは見つからない。

それでも後年ロッテの監督になった金田は城之内をロッテの投手として1974年に現役復帰、もはや一軍で通用する成績は残すことができなかったが、その後もコーチ、スカウトとして活躍した。そのときの1勝の恩義があったのではないか、これも私の憶測である。

この先、石川雅規にはなんとか200勝を達成してもらいたいと思うが、仲間の勝ち星を意図的に奪うような形ではないようにしてもらいたいものだ。奪われた投手にとっても、それは大変重要なものだ。丸山翔大が早くプロ1勝を挙げることも祈っている。

なお、ヤクルトで200勝以上を達成しているのは、金田のみ。1970年代にエースとして活躍、球団に初の日本一をもたらした松岡弘が191勝で名球会入りを逃している。また球団としてこれに次ぐ勝ち星を挙げているが現在185勝の石川。

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著者プロフィール

篠原一郎●順天堂大学スポーツ健康科学部特任教授

1959年生まれ、愛媛県出身。松山東高校(旧制・松山中)および東京大学野球部OB。新卒にて電通入社。東京六大学野球連盟公式記録員、東京大学野球部OB会前幹事長。現在順天堂大学スポーツ健康科学部特任教授。

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