【Bリーグ】稀代のスコアラー折茂武彦さん、コートを去る その「かまってちゃん」の素顔を後輩たちが暴露 | CYCLE やわらかスポーツ情報サイト

【Bリーグ】稀代のスコアラー折茂武彦さん、コートを去る その「かまってちゃん」の素顔を後輩たちが暴露

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【Bリーグ】稀代のスコアラー折茂武彦さん、コートを去る その「かまってちゃん」の素顔を後輩たちが暴露
  • 【Bリーグ】稀代のスコアラー折茂武彦さん、コートを去る その「かまってちゃん」の素顔を後輩たちが暴露

日本バスケットボール史に残る稀代のスコアラー・折茂武彦さんの「引退試合」が6月18日、レバンガ北海道のホーム・北海道立総合体育センター(北海きたえーる)で行われた。

実際にユニフォームを脱いだのは2019−20シーズンだったが、コロナ禍によって予定されていたイベントは2度に渡って延期を余儀なくされ、今回ようやく、開催にこぎつけた。

会場には5400人を超えるファン・ブースターが、今は選手の肩書が取れてレバンガの社長を務める52歳のために駆けつけた。また、選手としての彼を送り出すために集った面子も豪華だった。

来場者全員に特別折茂ユニフォームレプリカが進呈された   撮影:永塚和志

いずれも折茂さんと関係が深い面々だが、元選手側では“盟友”として知られる同級生の佐古賢一・現レバンガヘッドコーチや日大とトヨタ自動車でのチームメート関口聡史さん、やはりトヨタで同じユニフォームを着た古田悟さんなど、往年の名選手たちばかり。現役側も、比江島慎田臥勇太(ともに宇都宮ブレックス)や田中大貴(アルバルク東京)らが参加した。

キャリアの晩年はともかく、若い頃の折茂さんには「怖い」、あるいは「尖っている」という印象があった。本人も、北海道に来る前、Bリーグ以前の実業団・トヨタ自動車(現アルバルク東京)に所属していた頃にはファンのことなど考えてプレーしたことなどなかった、自分が歩いていく先の人垣が彼を避けるように「モーゼの十戒」の海のように割れた、と話したこともあった。

それでも、これだけの人たちが集まったのは、特別な才能を持っていた選手としてだけではなく、折茂さんに人徳や、人を引きつける魅力があったからではないか。

日本代表など長く折茂さんと付き合ってきた五十嵐圭群馬クレインサンダーズ)や竹内公輔(宇都宮)などは引退試合後、折茂さんとのエピソードは、公には「言えないことが多すぎて」と笑った。

自身が大学生の頃から折茂さんと日本代表でプレーした竹内は「ギリ言えるエピソード」として、一緒に食事をする時に先輩である折茂さんが必ずすべて支払ってくれるという「男気」について話した。

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■オールスターの賞金も全部みんなのために使い切る

竹内は「オールスターとかの賞金は全部その日に使うようにしてるようで、1円も自分の財布に入れないで『これは今日、みんなが取らせてくれた賞だからみんなで使い切ろう』と。2年前の(北海道での)オールスターでも100万円くらいMVPの賞金としてもらっているんですけど、喋ったこともない外国人選手とかにも『今日行く店(の料金)、全部俺につけといて』と言って、他の選手にはお金を出させない。そういう筋を通すんです。これはギリ言えるエピソードで、あとはもう…ちょっと言えないです(笑)」と暴露。

2006年の世界選手権(現ワールドカップ)で日本代表を担い、折茂さんと付き合いの長い五十嵐は、そんな印象とは対象的に彼は「かまってちゃん」だと表現した。

「僕自身は怖いという印象はまったくなかったのですが、折茂さんはとにかくかまってほしい、いわゆる『かまってちゃん』だと思うので、そういう意味では僕らも接しやすかったですし、彼も気さくに話してくれました。後輩でも、年齢に関係なく接してくれるというのは、プレーでの折茂さんとは違った凄さかなと思います」と五十嵐は語る。

日本バスケ界の代名詞的存在の田臥は米大学を中退後、折茂さんのいるトヨタ自動車で1年間プレーした。当時の折茂さんはまだ30歳を超えたばかり。五十嵐と対象的に田臥の折茂さんへの印象は「怖かった」だったが、時間とともにそれが思い違いだったという。

記者会見に応じる田臥勇太(左)と五十嵐圭   撮影:永塚和志

田臥は「僕も最初は本当に怖かったんです。トヨタへ行った時に、どういう風に接してくれるのかなと思っていたのですが、いざ一緒にバスケットをやらせてもらったら、下(後輩)に対して面倒見が非常に良くて。折茂さんがこれだけ愛される理由は、やっぱり長くお付き合いをさせていただければいただくほどわかりますね。非常におしゃべりも上手で(笑)。面倒見も良くて、バスケットも上手で。本当、素晴らしい先輩です」と振り返る。

引退試合はもちろん折茂さんに花を持たせるものだったため、彼に積極的にパスを回してシュートを打ってもらっていた。結果、稀代のスコアラーは42得点を挙げ、アリーナを湧かせた。折茂さんが前後半でチームを代わるなど、緩やかな形で行われたエキシビションとなったが、現役選手で構成されたTeam 9が往年の選手中心のTeam Legendを80-76で破った。

引退試合にて42得点を記録した折茂武彦「社長」 (C)レバンガ北海道

■「おちょくられる」ことが好き

一方で、参加選手たちはディフェンスでは激しく当たって折茂さんを追い込むことで、佐古さんいわく「負けず嫌い」な彼を楽しませもした。

「オフェンス面ではシュートを打たせて、ディフェンス面ではマッチアップをして楽しませるというか。折茂さんと絡みながらみんながどうできるか。試合前も試合中も自然とそういう空気になっていました。とにかく楽しんでもらえたらという思いでやりましたね」と田臥。

竹内も最初、15歳年上の折茂さんが怖いか、怖くないかでいえば「怖い」ほうだった。だが田臥同様、他の年下の選手たちが彼をいじる姿を見て「この人は怖くないんだ」と思いに変わっていったという。

引退試合は、折茂さんにどんどん得意なシュートを打ってもらいつつ、真剣に得点を狙い、相手の攻撃を阻もうとすることもあれば、観客を笑顔にするようなコミカルなそれも多々あった。当然、主役の折茂さんを他の選手たちがおちょくってファンを楽しませる場面もあった。

試合後の折茂武彦社長会見  撮影:永塚和志

「あの人はそういう(おちょくられること)の、好きなんですよ(笑)。ちょっと選手たちと絡んで、いじられて。大先輩ですけど、友達のような感覚で接するようにはしてます」と竹内。

桜井良太(レバンガ)はトヨタ自動車でも折茂さんとプレーし、ともに北海道へ渡ってきた。いわば長年の同志だ。彼自身は折茂さんを怖いとは思わなかったそうだが、2007年にトヨタから新興のレラカムイ北海道(レバンガの前身)に移った際、大半の選手が若く、彼らがずっと年上の折茂さんとどう接していいかわからない様子だったため、「お前がふざけて自分をいじるなり何なりして、周りが絡みやすいような状況を作ってほしい」と、折茂さんから潤滑油の役割を頼まれた過去を披露した。

「いじる」あるいは「おちょくられる」ことも、折茂にとってはチームビルディングにあたって大切なものだったと言えるのではないか。

引退試合終了後の折茂さんへの花束贈呈で、桜井は花束を片手でぞんざいに渡すふりをするなど、ふざけてみせた。無論、折茂さんはそれを笑顔で応えた。

引退イベント最高の「いじり」の瞬間は、ハーフタイム中に見られた。司会が参加選手たちに“折茂派”なのか“佐古派”を聞いて回ったのだが、主役の折茂さんを前に、大半が“佐古派”を謳ったのだ。

もう、北海道から出ていってもらいましょう」。

桜井までもが“佐古派”を宣言すると、折茂さんは会場に向けてそう言った。この時ももちろん、年輪のごとくシワを重ねた顔は笑っていた。

折茂さんも、現役時には“ミスターバスケットボール”と呼ばれた往年の名選手・佐古さんも、今は相当、丸くなったが、折茂さん曰く、2人の現役時代、「佐古賢一をいじくれるやつはなかなかこの世界にいなかった。僕のほうがいじりやすいんじゃないですか」と振り返った。

「はじめは僕のほうが『怖いキャラ』だったみたいなんですけど、(後々は)後輩からよくいじられていました。みんなが『いじっても大丈夫なんだ、この人は』となって仲良くなれました」と折茂さん自身も振り返る。

自身の世代から、下は30歳の田中と幅広い年代の選手が、折茂さんの引退を飾るイベントに集結した。冗談のトーンも少し込めつつ、折茂さんにとってそれは自慢できることの一つのようだった。

「僕の年代から、大貴とか比江島なんて、かなりの年齢差ですから。彼らともオールスターの時など食事をする機会があったり、飲む機会があったりしながらいろんな話もできました。プレーだけじゃなくて、違う部分でコミュニケーションを取ることは大事。みんなが来てくれて、引退はしましたけどまだ『幅を効かせてるな』という思いです(笑)」。

稀代の選手のプレーぶりをもう見られないという寂しさも感じさせたイベントとなったが、しかし、湿っぽい終わり方は嫌だとでも言わんばかりに、折茂さんは軽やかに、穏やかに、コートを去った。

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著者プロフィール

永塚和志●スポーツライター元英字紙ジャパンタイムズスポーツ記者で、現在はフリーランスのスポーツライターとして活動。国際大会ではFIFAワールドカップ、FIBAワールドカップ、ワールドベースボールクラシック、NFLスーパーボウル、国内では日本シリーズなどの取材実績がある。

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