【THE MATCH 2022】那須川天心はなぜ武尊を攻略できたのか、勝敗を分けた「3つのポイント」とは | CYCLE やわらかスポーツ情報サイト

【THE MATCH 2022】那須川天心はなぜ武尊を攻略できたのか、勝敗を分けた「3つのポイント」とは

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【THE MATCH 2022】那須川天心はなぜ武尊を攻略できたのか、勝敗を分けた「3つのポイント」とは
  • 【THE MATCH 2022】那須川天心はなぜ武尊を攻略できたのか、勝敗を分けた「3つのポイント」とは

6月19日(日)東京ドームで開催されたビッグイベント「Yogibo presents THE MATCH 2022」。同大会では、RISE世界フェザー級王者・那須川天心とK-1三階級制覇王者・武尊が激突。その他、RISEやK-1、シュートボクシングなど立ち技格闘技界のトップファイターたちがリングでしのぎを削った。

ここでは、メインカード「天心vs武尊」を振り返っていく。

【大会プレーバック/THE MATCH 2022】名勝負は「天心vs武尊」だけじゃない!両陣営のプライドをかけた全16試合の「世紀の一戦」を振り返る

■那須川天心、「会心の左」で武尊をくだす

5万人を超える大観衆に埋め尽くされた東京ドーム。その中心で、右手を高々と上げ、勝利を喜んだのは“神童”那須川天心だった。戦いの神は、天心に微笑んだ。

天心が2015年にK-1の花道で、試合後の武尊に対戦アピールして以来、両者無敗で挑んだ“世紀の一戦”。早い時点でこの対戦が実現していたら、東京ドームが埋まることもなかったであろうし、このタイミングで実現したのは、まさに運命だった。

両者にとって、自身のキャリア最強の相手との対戦だった。天心は、試合後にはボクシング転向を明言しているため“白星以外は許されない”キック卒業式。武尊は「負けたら引退するぐらいの覚悟で」と、K-1を背負うカリスマとして並々ならぬ想いで臨んだ一戦だった。

入場では、お互いがそれぞれゴンドラに乗り、ド派手な演出でリングイン。武尊はリングへ向かう際、普段とは違い、自身の足元を見ながら歩を進めた。若干緊張の面持ちだったように見えた。一方の天心は、普段通りリラックスした表情で、決戦のリングへ上がった。

試合は第1ラウンドから大きく動く。ポジションを取り合う中、武尊が一気に前に出る。いつも通り豪快な左フックを放つと、天心が抜群のタイミングで左のカウンター。武尊がダウンを喫してしまう。

(C)THE MATCH 2022

(C)THE MATCH 2022

試合後、天心はこの一撃を“会心の左”と表現。「大きくならないでコンパクトに。ダウンを取った時はゆっくり見えました。本当に力は入れなかった。切るというイメージで」と語っている。

第1ラウンドから両者の距離が明らかに違った。天心は距離を取り、遠い距離からのワンツー、左ハイキックなど積極的に手数を出す。武尊の前進には右のジャブを合わせて、プレッシャーを止めにかかった。

武尊にとっては、パンチの届く距離に天心が居ない。出ようとするとジャブが飛んでくる、と試合中感じただろう。この天心の右のジャブが、勝負のカギだった。“武尊対策”として多用したジャブは、武尊のプレスを止めるのに有効だった。解説席に座る魔裟斗は「天心はピンポイントで針の穴を通すように、武尊の大きいパンチを見て、天心が小さなパンチを打っている」と評価している。

武尊が天心にパンチを当てるためには、もう一歩当たる距離に入らなければならない。そもそも武尊は、近い距離での打ち合いを得意とする。「肉を切らせて骨を断つ」。この言葉が一番近しいだろう。

武尊は、天心のテンポの速い攻撃を貰い、第1ラウンド終盤に自身のペースを引き寄せるべく前に出た。その刹那に、天心の渾身のカウンターを被弾して、ダウンを喫してしまったのだ。「最後に確認したパンチでダウンが取れた」と天心。トレーナー陣と、最後まで刷り込んだ攻撃が炸裂したのだ。

第2ラウンド、焦りが伺える武尊だが、さすがはカリスマだ。いつも通り笑顔を見せ、終盤にかけてワンツー、フックを放ちながらプレッシャーをかけ続ける。天心は、クリーンヒットを貰わないテクニックを見せるが、オープンスコアでは、4者が10-10、1者が10-9で武尊に付けた。

そして迎えた第3ラウンド。ダウンを奪われた武尊は焦りもあっただろう。残り3分で、ダウンを奪取しなければ、判定負けは確実だった。その証拠として第2ラウンドには、珍しく相手を投げてしまい、注意をもらっていた。

天心はジャブ、フックをコツコツ当てる。武尊は笑顔を見せて、打ってこいとアピール。武尊はノーガードで、左右のフックを振り回し、KOを狙って前に出続ける。だが、天心は冷静だった。ダッキングで武尊のパンチを交わし、近距離ではクリンチも使いながら、主導権を渡さない。

勝負は判定で5-0で天心が勝利。ジャッジが読み上がる際に、先に天心が涙を流し、その後武尊と抱き合って健闘をたたえ合った。試合結果では、天心が完勝するかたちで武尊を撃破した。

武尊はぐったりとうな垂れ、ファンに礼をしてリングを後に。天心はマイクで「やったぞー、俺、勝っちゃったよ」と喜びを爆発させた。勝者がいれば、敗者がいる。その現実をファンや関係者は突きつけられた。何とも残酷な結末だった。これが格闘技か。

■「世紀の一戦」で勝敗を分けた3つのポイントとは

勝負を分けたポイントは、大きく3点あると筆者は考える。

1つ目は、魔裟斗の指摘通り“天心の右ジャブ”だ。距離を詰めるべく、武尊が出る絶妙なタイミングで繰り出すジャブ。武尊のセコンドから「ジャブは捨てろ」との声が上がっていたと天心はいう。それを聞いて、逆に強めのジャブを打ち続けた。この攻撃が起点となって、左のカウンターに繋がったと言える。

2つ目は、“天心の戦い方そのもの”だ。天心は、武尊戦が決まった際、相手との違いを“マインド”と表現していた。筆者はいわゆるそれを、勝ちに対する貪欲さと考えている。

天心は、決して危ないことをしない。打ち合いでいうと「効かせるタイミングを待って打つ」「危険な攻撃は避けた上で打つ」。これを徹底しているのだ。一方の武尊は「死ぬ覚悟で危険な距離で入って打つ」と以前から話している。

武尊自身も、天心にフックをヒットさせるべく攻撃を出していた。しかし、天心は冷静にその攻撃を見てダッキングなどで交わす。その上で、どの攻撃が当たるのかを常に観察していた。当たるタイミングを測った上で、攻撃を繰り出している。

また、戦いにおいて決して熱くならない。武尊がどれだけノーガードで笑おうと、メンタルが一切ブレることはなかった。そのシーンを天心は「ここで乗ったらダメだなと思いました」と振り返っている。どの局面でも、那須川天心の戦い方を貫ける。

3つ目は、“セコンド陣との戦略”だ。ダウンを奪ったパンチについて「最後に確認した」と語っているように、試合前からどのようなパターンで相手を料理するのか、戦略を綿密に立ててリングに上がっている。試合後には「武尊選手が笑ったらどんな攻撃を出すのかも分析していました」というほどの、徹底ぶりだ。

試合前のインタビューで、天心は「(攻略の)イメージ出来ていますね。全てにおいて見える。何パターンも技を用意しています」と話していた。一方の武尊は「特別イメージは持たないようにしています。戦ってみてその時に自分の直感を信じて戦おうと思っています」と語っている。

もちろん武尊が天心対策をしていなかったというわけではない。だが、最終的には「天心の綿密な戦略」vs「武尊のこれまで打ち合いで殴り勝ってきた感覚」。その激突で、天心は戦略勝ちしたというわけだ。

武尊は、打ち合いに来てくれる選手との戦いにめっぽう強い。K-1でしのぎを削って来た相手は、村越優太を除くと打ち合い上等の選手が多い。逆に、危険な打ち合いに付き合わない選手=天心を相手には、自身の力を発揮することが出来なかった。

天心はこの試合を最後にボクシングに転向。武尊はどのようなキャリアを歩んでいくのか。勝敗は付いてしまったが、天心も最強、武尊も最強であることには変わりない。ファンの心に深く深く刻まれる世紀の一戦を戦った両者に、心から拍手を贈りたい。

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文・吉田崇雄

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