高校野球はなぜ人を感動させるのか?…その理由に中小企業経営のヒント | CYCLE やわらかスポーツ情報サイト

高校野球はなぜ人を感動させるのか?…その理由に中小企業経営のヒント

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「すべてが不完全ゆえに存続しうるのが高校野球の秘密」と語る中島隆信・慶大教授
  • 「すべてが不完全ゆえに存続しうるのが高校野球の秘密」と語る中島隆信・慶大教授
  • 『高校野球の経済学』(中島隆信/東洋経済新報社)
「HJHJアーカイブス」では、年末年始にもう一度振り返りたい記事を、過去の記録からピックアップしてお届けします。第六回目は高校野球を題材として昨年5月に発刊されると、とたんに話題となった1冊の本の中に、中小企業の経営のヒントを探ったインタビューです。

 高校野球がいかに非効率で不合理なコンテンツであるか、しかしそれが逆に国民的イベントへと押し上げる原因となったと語るのが、『高校野球の経済学』(東洋経済新報社)です。そのあり方には、どこか中小企業に通じるものが感じられます。HANJO HANJOでは著者の中島隆信さんに話を伺い、なぜ高校野球がここまでの成功を収めているのか、その理由の中に企業経営のヒントを発見しました。(16年8月8日の記事)

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「高校野球」はなぜ、日本最大の人気コンテンツになりえたのか?

 今年5月に出版された、中島隆信さんの『高校野球の経済学』(東洋経済新報社)が評判だ。高校野球はなぜ、長きに渡って日本人の心をつかんできたのだろうか? そのシステムの不思議を経済学の視点で分析したのが本書である。

 昨日、開幕した「全国高校野球選手権大会」はなんと今年で98回目。もはやスポーツ分野での日本最大の人気コンテンツといっても過言でないだろう。しかし、高校野球の仕組みはどう考えても不合理である。にもかかわらず日本に不可欠な存在であり続けている。それは中小企業経営のあり方に似ているとはいえないだろうか。中島さんが教鞭をとる慶應義塾大学にお邪魔して話を聞いた。

■非効率、不合理。そして非商業性が継続の秘密

――中島さんは『高校野球の経済学』の中で、高校野球がいかに非効率的で不合理なコンテンツであるかをさまざまな角度から分析し、それゆえに国民的イベントになったという趣旨の内容を書かれていました。この内容は、何か中小企業の経営に役立つのではないかと考えています。

中島 そうですね、経営のためのヒントはあるでしょう。本にも書いているのですが、そもそも野球は非効率的で不合理なスポーツです。選手のほとんどは動かないうえ、球場は広く、制限がないため試合時間が異常に長くなることがあります。バッターボックスでの判定は審判の主観によるところが大きく、選手は審判のクセを見抜きながら投球や打撃をしなければならなりません。

 そんなスポーツがなぜ日本中の注目を集めることになったのかといえば、もともと学生たちの遊びから始まったからです。野球は、大学や大学予科の学生たちが好んで興じる文化的なコンテンツでした。学生の帰省とともに全国に広まり、やがて各地の学生たちを夢中にしたのです。そこには当然、興業スポーツとしての市場価値はありません。そしてこの「非商業性」が、高校野球を国民的人気コンテンツにのしあげるための布石になりました。

 いうまでもなく、プロ野球と高校野球の一番の違いは商業化されているか否かです。高校野球の非商業化は公益財団法人日本高校野球連盟(以下:高野連)によって徹底されており、選手や監督に金が払われないことはもちろん、審判はボランティア、甲子園使用料や放映権は無料、観戦料金は格安(外野席は無料)と、最低限の運営費を除けば金銭はほとんど動いていません。それどころか企業の宣伝になるのを防ぐため、ブランドロゴの入ったユニフォーム等の着用まで禁止しているのです。

 その理由は、高校野球が教育の一環として行われている点にあります。健康な心身を育成するための野球は「高校生らしく」実施されなければなりません。非商業主義を貫いた結果、高野連は夏の盛りにひたむきに野球に打ち込む「理想的な高校生像」を作り出し、見世物として観客に提供することになりました。

 高校野球の観客のニーズは今どき珍しいほどの「高校生らしさ」全開の舞台です。スターによるスーパープレーではありません。朝から晩まで灼熱のグラウンドに立つ姿に胸を打たれる。強豪校では4000時間ともいわれる時間をつぎ込んで練習し、一発勝負のトーナメント戦に挑む様子に感動する。徹底して磨き上げられた「高校生らしさ」に心を震わせることに価値を見出しているのです。


――だからこそ、テレビや新聞はこぞって選手やマネージャーがもつ「物語」を報道するのですね。

中島 そういうことです。私は、高野連を演出家の集まりだと考えています。甲子園を「高校生らしさ」をみせる場にするための仕組みを考え、周知し徹底させているからです。アンダーソックスや手袋の色を規定したり、選手がキビキビと動くようグラウンドにはダッシュで出てくるよう指導したりと実に細かいルールを設け、一定の基準の「高校生らしさ」を作り出しています。

■「高校生らしさ」がすべて

――売り物が何か、明確になっているコンテンツほど訴求力が強いということでしょうか。

中島 そうですね。面白いことに、高校野球はそれ以外のすべてが中途半端なコンテンツです。教育性、文化性、スポーツ性のどれも徹底しきれていない。すべてが不完全ゆえに存続しているのです。

 もしも教育性を追求するのであれば、熱射病のリスクが極めて高い夏の盛りに試合をすることはないでしょう。しかし、文化性はこの時期に行われるからこそ保たれています。帰省した人たちがテレビをつけて地元の学校を応援する、暑い中で野球をしている姿に驚きと感動を覚える。秋に開催されたのでは多忙な人々は目もくれません。

 また、スポーツ性を追求するのであれば、松井秀喜を5枠連続で敬遠したピッチャーへの言動や、花巻東高校のカット打法に対する措置は違ったものになったでしょう。これらの措置はゲームの勝ち負けよりも「高校生らしさ」を大切にする高野連の考えを反映しているのです。

――何にもまして「高校生らしさ」が優先されているということですね。一番重要な売り物を守ることで、高校生は価値を維持し続けています。

中島 一大コンテンツである高校野球には、観客やテレビ局から料金をとって収益化する道もあるでしょう。しかしそれは成功しないと思います。より高いパフォーマンスを見せるプロ野球がすでに存在しているうえ、商業化により「高校生らしさ」が失われてしまったら、高校野球は重大な「売り物」を失ってしまいますから。

――ここから企業の経営に通じる視点を見出すことは可能でしょうか。

中島 コンテンツの提供者は何が売り物として市場に受け入れられているのか理解することです。世の中にはなぜ存続しているのかわからない現象や企業がたくさんあります。私は学者としてそれらを経済学的に分析することを生業としていますが、高校野球が発展し続けてきた背景には、「売り物」を明確にし、柔軟に適応してきた事実があるからではないかと考えています。

<Profile>
中島隆信(なかじまたかのぶ)
1960年生まれ。慶應義塾大学商学部教授。専攻・研究領域は生産性分析、費用構造分析。現実に起きている経済現状に経済学の理論を当てはめ、分析する手法が注目を集めている。過去の研究対象は、大相撲、寺院、家族、障害者など。主な著書に『日本経済の生産性分析』(日本経済新聞社)『大相撲の経済学』『お寺の経済学』(いずれも東洋経済新報社)など多数。

HJHJアーカイブス:06「高校野球はなぜ人を感動させるのか?」

《HANJO HANJO編集部》

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