大ヒットドラマ『逃げ恥』に見る、若者の“契約”に対する価値観 | CYCLE やわらかスポーツ情報サイト

大ヒットドラマ『逃げ恥』に見る、若者の“契約”に対する価値観

ライフ 社会

夫婦を会社に見立て、雇用主と従業員の関係や男女の関係を対比することで、労働や結婚に対する考え方を揺さぶる視点がみどころ。秋クール、一番の注目作!
  • 夫婦を会社に見立て、雇用主と従業員の関係や男女の関係を対比することで、労働や結婚に対する考え方を揺さぶる視点がみどころ。秋クール、一番の注目作!
「HJHJアーカイブス」では、年末年始にもう一度振り返りたい記事を、過去の記録からピックアップしてお届けします。第五回目は最終話の余韻が未だ残る、あの人気ドラマに現代流の“契約”の価値観を見出したコラムです。

 エンドロールの“恋ダンス”でも視聴者の話題をさらったのが、TBS系ドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』です。夫婦を会社に、結婚を仕事に見立てて、主婦の仕事を賃金に換算するという“契約結婚”を題材にした物語は、その異色なエピソードが多くのファンを呼びました。そこには契約に対する、若者の価値観の変化を垣間見ることができます。そんな、現代流の雇用主と従業員の関係という視点から、作品の見どころをドラマ評論家の成馬零一氏が解説しました。(16年10月25日の記事)

-----------------------------------------
ドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』に見る“契約”の価値観

 秋クールの新作ドラマが出揃ったが、一番の注目作は『逃げるは恥だが役に立つ』(以下『逃げ恥』)だろう。本作はTBS系で夜10時から放送されている契約結婚をモチーフとしたドラマだ。

 主人公の森山みくり(新垣結衣)は大学院に進み、臨床心理士の資格を習得。しかし、どこにも就職できずに派遣社員として働いていたが、派遣切りに遭ってしまう。父親の紹介で家事代行の仕事を始めるのだが、そこでIT企業で働く津崎平匡(星野源)の家を訪れる。津崎は潔癖症で他人と関わることを極端に嫌がる性格だったが、丁寧な仕事が認められて働くことになる。しかし、父の定年退職をきっかけに両親が田舎に引っ越すことに。

 みくりは一人暮らしをするか親と同行するか選択を迫られるが無職で収入がないために親について行こうと決める。別れの挨拶を津崎にするみくり。しかし、ふとしたきっかけで、二人は契約結婚をして周囲に内緒で、津崎が雇用主=夫、みくりが従業員=妻という関係で一緒に暮らし始める。

 初回の平均視聴率は10.2%(関東地区)と決して高いものではなかったが、第二話では12.1%(同)へと上昇。ほとんどの連続ドラマの視聴率は第一話が高く、第二話で下がるものだ。逆に言うと、第二話で視聴率が上がる作品は、初回が面白いと評価されたドラマだと言える。今後どうなるかはわからないが、序盤は文句なしのスタートだと言えよう。

 人気のポイントは、何と言っても主演のガッキ-こと新垣結衣と、ミュージシャンとしても高い評価を得ている星野源のコンビだろう。近年のドラマはどうしても男性ファンか女性ファンの人気に特化しがちだが、男優も女優も魅力的で、双方にファンがついてる状況は珍しいのではないかと思う。

 また、ドラマ以上に話題となったのは、エンドロールで星野源の「恋」にのって流れるガッキーたちのダンスシーン。この「恋ダンス」は放送終了後にフルバージョンがYOUTUBEにアップロードされ、一週間で609万再生を果たした。

 脚本を担当したのは今年の春に放送された連続ドラマ『重版出来!』(TBS系)が高く評価された野木亜紀子。『図書館戦争』シリーズや『俺物語!!』といった映画の脚本を手掛ける野木は原作モノの名手だ。近年、漫画や小説を実写映像化すると必ず物議を巻き起こすが、彼女の手掛けた原作モノはどれも評価が高い。


 この『逃げ恥』も講談社から出版されている海野つなみの少女漫画が原作だ。まだ第二話で物語自体ははじまったばかりだが、饒舌で理屈っぽいが淡々としていて心地いいという漫画の持ち味を殺さずに、まずは二人を魅力的に見せることに成功している。

 本作は2015年に講談社漫画賞を受賞し、漫画好きの間では既に高い評価を獲得していた。筆者はドラマ放送に合わせて、今回はじめて手に取ったのだが、これは一筋縄ではいかない問題作だと感じた。これから漫画を読む人やドラマを見る人のためにネタバレは極力避けるが、契約結婚を扱っている本作は、恋愛モノであると同時にお仕事モノの傑作である。

 みくりと津崎は、「夫婦を会社」、「結婚を仕事」に見立てて、主婦の仕事に賃金を支払い、労働時間をしっかりと決めて契約したらどうなるかを、淡々とシミュレーションすることで、お互いにわずらわしい感情やしがらみが生まれないようにしようと努める。しかし、そこは同じ家で暮らす男女、どうしても“仕事では割り切れない特別な感情”が生まれてしまう。

 本作には、夫婦を会社に見立てることで、お金が介在する雇用主と従業員の関係と、お金が介在しない男女(あるいは家族)の関係を対比することで、現代を生きる男女にとっての労働や結婚に対する考え方を揺さぶる思考実験的な面白さがある。かなり、理屈っぽい話だが、こういったことは、普通の会社を舞台にしたお仕事モノだと逆に見えづらいのではないかと思う。

 また、契約結婚を通して、二人を取り囲んでいる現代の若者を取り囲む困難を浮き上がらせているのも面白い。

 第二話では(偽装)結婚した二人が、森山家に挨拶に行くのだが、喜ぶ親に対して津崎が「結婚式をしません」と言う場面は見ていてヒリヒリする。彼らのやっていることは犯罪ではないが、両親や友人に嘘をついていること、あるいは社会の一般常識をはみ出した生活をしていることに対する後ろめたさは、原作以上に強調されている。だから、基本的には明るいラブコメなのだが、みくりたちが笑顔で悲鳴を上げているかのように見えてくる瞬間がある。

 タイトルの「逃げるは恥だが役に立つ」はハンガリーのことわざ。このことわざを言った後、津崎は「後ろ向きな選択だっていいじゃないか。恥ずかしい生き方だったとしても生き抜くことの方が大切で。その点においては異論も反論も認めません」と言う。二人は“何から逃げることで”生き残ろうとしているのか? ガッキーと星野源にうっとりしてると、時々ピリッとした痛みが走る意欲作である。

★成馬零一(なりまれいいち)
1976年生まれ。ライター、ドラマ評論家。WEBマガジン「ich」(イッヒ)主催。主な著作に『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の評論家』(河出書房新社)がある。
https://twitter.com/nariyamada
https://note.mu/narima01

HJHJアーカイブス:05「大ヒット『逃げ恥』に知る、若者の契約観」

《HANJO HANJO編集部》

編集部おすすめの記事

page top