2016年の一本は「君の名は。」…SFと恋、新海誠の全てが詰まった愛おしい物語 | CYCLE やわらかスポーツ情報サイト

2016年の一本は「君の名は。」…SFと恋、新海誠の全てが詰まった愛おしい物語

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SFと恋、そして新海誠の全てが詰まった愛おしい物語「君の名は。」
  • SFと恋、そして新海誠の全てが詰まった愛おしい物語「君の名は。」
2016年には様々なアニメ映画が公開されてきたが、自分は現在も劇場で上映されている新海誠監督の『君の名は。』を選びたい。

観客動員数1500万人以上に加えて、興行収入200億円を突破したことから鑑賞済みの読者も多いだろう。既にストーリーを知っている人も多いと思うが、ここでもう一度あらすじを説明しておきたい。この物語は、岐阜の田舎町に住む高校生の宮水三葉(CV: 上白石萌音)と、東京都心に住む高校生の立花瀧(CV: 神木隆之介)が夢を通じてお互いの魂が入れ替われるというもの。入れ替わりだけではない要素を大量に盛り込みつつも、男女の恋を主軸に描ききった作品だ。前述の通りかなりの観客動員数を持っているが、筆者の周りでもまだ観たことがないという人もいる事から、ネタバレは自粛しつつ(予告編などで映されたシーンからわかることを中心に)その面白さと魅力を紹介しようかと思う。

この映画が公開されたのが2016年8月26日からなので、12月末の記事制作時までの約4ヶ月以上全国の映画館で現在もロングラン上映中という、とてつもない大きな人気が出ている。筆者が本作を観たのは公開から一週間も満たない9月1日。直ぐ行こうと決心したのは、公開時のスタートダッシュと高い評価に驚くと共に、新海監督のツイートから小島秀夫監督のゲーム『メタルギア ソリッド』のパッケージやPS/SS/GC/X68000などのコンソール機などのゲームネタが背景に盛り込まれていることにも興味が沸いたからだ。他にも、ほのかに細田守監督のアニメ映画『時をかける少女』公開時の盛り上がりにも似たものを感じていたのもある(当時は興味があったが観に行くことをせず、レンタルが始まってから自宅で鑑賞で鑑賞し、あまりの面白さに映画館で観なかったことへの後悔もあったからだ)。

新海誠監督の過去作は、過去にデビュー作の『ほしのこえ』や初の長編作品の『雲のむこう、約束の場所』、そして多くの人々の心を折った(筆者の心も折られた)『秒速5センチメートル』、新機軸を狙った『星を追う子ども』、そして中編の『言の葉の庭』の5作品である。

筆者はそれらほぼ全ての作品を観ていたため、『君の名は。』のラストの展開にはとても驚かされると共に心の底から湧き出るように感動したのを覚えている。観客を飽きさせないテンポの良さや場面展開も然ることながら、一度聴いたら忘れることが出来ないRADWINPSの劇伴、新海作品らしい背景の美しさ、それら全ての魅力を楽しみ、また体験したいという思いから2度目の鑑賞に行くのも時間は掛からなかった。現在までに上映設備の良い関東各地の映画館へと足を運んだため合計で10回以上鑑賞している(音が透き通る様にクリアで大音響で聴ける立川シネマシティの極音上映や、画質の良いイオンシネマのULTIRAなど)。1月に上映を控えるIMAX版にも観に行くつもりだ。

『君の名は。』は、より広い層へと向けた作品でもあるが、今までの新海作品の全部入りの映画でもある。つまりはベスト盤としても制作されたことから、あらゆる場面で過去作のセルフオマージュが盛り込まれているのだ。冒頭のシーンで落ちてくる物体は、『秒速5センチメートル』の“コスモナウト”からのロケット打ち上げシーンの構図と対比になっており、冬の歩道橋での場面も“秒速5センチメートル”のシーンを意識したものとなっている。また劇中の「電車は2時間に1本」というセリフは、元々『星を追う子ども』からの台詞だ。

他にも『君の名は。』には面白い仕掛けが随所に散りばめられている。一瞬で過ぎ去ってしまうもののある程度読める瀧と三葉のメモや、入れ替わりの日記、雑誌の記事や地図などの文字情報。さらにアバンタイトルからのオープニングや三葉が集めているハリネズミグッズ、瀧と三葉が持つ組紐の存在など2回以上観ることによって初めて気付く箇所も多々あるのが面白い。

また新海監督自らが書いた小説版や、脚本協力として参加した加納新太氏による本編から削られた要素を再構成した外伝小説『君の名は。 Another Side: Earthbound』の存在も外すことは出来ない。新海監督の小説版は映画の内容をなぞったものであるものの、瀧と三葉の2人の視点からを描いた作品だ。彼らがお互いの身体から見て感じた東京と糸守などが事細かく書かれているので、映画と小説の両面からも楽しめる。

外伝小説『君の名は。 Another Side: Earthbound』では、三葉に入った瀧からの視点と、オカルト雑誌「ムー」の読者で土建屋の息子であるテッシーこと勅使河原克彦、三葉の妹である四葉、そして三葉の父であり町長の宮水俊樹の4人から見た糸守町とその周辺が書かれている。特に面白いのが、テッシーの話となる第2話の「スクラップ・アンド・ビルド」と、宮水俊樹の過去を描く第4話の「あなたが結んだもの」の2編。テッシーの話は、何故彼が三葉に対して協力的になった事を描いている他にも、彼自身の糸守町に対する思いや現状が書かれており、何故三葉が町の外へと出たがっていた理由も知れるからというのもある。宮水俊樹の話では、三葉の母となる二葉ととしきの出会いの他にも、何故彼が神官から町長へとなった経緯が書かれているため、本編を鑑賞済みの読者にも勧めたい1冊だ。もちろん各登場人物の背景を知ってからの映画本編を観るのも、より感情移入できるので味わい深い。

『君の名は。』では、RADWINPSが手掛けた映画劇伴も忘れてはいけない。この劇伴は、新海監督曰く「第3の声」として存在し、要所要所で素晴らしい音楽が流れる。RADは、“夢灯籠”と“前前前世”、“スパークル”、“なんでもないや”の挿入歌だけでなく全ての音楽を担当。音楽一つ一つをとっても瀧や三葉の心情を表しているため、サントラの曲名を読みそれがどこで流れるのかという部分を知るとより深く映画の内容を知れるようになる。また主題歌として人気の“前前前世”は、映画劇中版とサントラ版(サントラではmovie ver.とあるが歌詞が違う)、オリジナル版の3種類存在しており、含まれる歌や構成が微妙に違うものとなっている。

過去作からのセルフオマージュや小説版の事などを書いてきたが、やはり本作の魅力は10代から20代の若い世代へと向けられた物語であるからと思う。若々しく切なげだが、一歩踏み出し行動した瀧と三葉や、不意に訪れた突然の出逢いなど彼ら彼女らをもっと応援したくなる要素が沢山盛り込まれていたからだ。恋を主軸にしているが、ティアマト彗星などのSF要素、東京の新宿や岐阜の飛騨などのご当地要素、この世が美しさで満ちていることを気付かせてくれる情景的な背景、宮水一葉の言う人や時間、組紐、そして神を繋ぐ“結び”や神楽舞などの伝統芸能がある。それらが本作へ興味を持つ切っ掛けや切り口となっていることも魅力的だ。新海監督は本作の公開前小冊子で「すべての思春期の若者と、思春期の残滓を抱えた大人のための映画」と述べていた。それだけではなく、大人がかつて経験してきた奇跡のような出会いと別れなど、普遍的でとても大切な事が描かれたため、20代以上の世代にもこの物語は届いたのだと思えるのだ。

本作は、12月末の時点で少しづつではあるが映画館での上映回数が減りつつある。2017年1月からのIMAX上映を含め、筆者も「あともう少しだけ」という気持ちから『君の名は。』の上映が終了するまでにもう何度か観に行きたいと思う。

プロフィール: G.Suzuki
ゲーム系ライターで普段はGame*Sparkとインサイドで執筆。28歳。得意分野はミリタリーとアクションもの。主に海外ゲームを含めたメジャー/マイナー/インディーゲームを多数プレイしている。アニメは週に2~3作品を視聴。映画『君の名は。』に10回以上観に行くほどハマったしまった事に自分でも驚いている。

SFと恋、そして新海誠の全てが詰まった愛おしい物語「君の名は。」【2016年の一本】

《G.Suzuki@アニメ!アニメ!》

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