【アーカイブ2009年】LOOK585は嬉々として頂上を目指し始める…安井行生の徹底インプレ | CYCLE やわらかスポーツ情報サイト

【アーカイブ2009年】LOOK585は嬉々として頂上を目指し始める…安井行生の徹底インプレ

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【アーカイブ2009年】LOOK585は嬉々として頂上を目指し始める…安井行生の徹底インプレ
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あえて円熟を拒否する峠の王者







なんといってもこの踏み出しの軽さ。そしてこの比類なき登坂力!軽快感とヒルクライム性能命!の一台である。中トルクまでの軽やかさは586も素晴らしいが、585の蹴り上げるトルクにはかなわない。だから硬派。だから魅力的。




最近増えてきたライダーのご機嫌をうかがってばかりの連中とは大違いだ。それらを否定するわけではないけれど。 加速性能は全てのロードバイクの中でもトップレベルにある。軽いギアをぶん回してもデカいギアを踏み込んでも、ドカンと激しく、どんな速度からでもぐんぐんと加速する。 峠に入れば585はさらに輝きを増す。登坂こそがこのバイクのフィールドだ。そんな場所こそ585が望む位置だ。斜度を得ると、いざ勝負!と言わんばかりにトラクションをほとばしらせ、嬉々として頂上を目指し始める。リアホイールと路面がガッチリと直結しているかのような大トルクモリモリ型ではなく、踏み込んだ瞬間にパンッと弾かれるように進む小爆発繰り返し型だ。これは585最大の魅力であり、585にしかない快感である。ただし、ライダーが元気なうちに限られる。前述したように剛性感はかなり高く、持て余すライダーは多いだろう。良くも悪くもピュアレーシングバイクである。







ブレーキ性能も文句なく素晴らしい。今まで乗ったバイクの中でも最大クラスの強大なストッピングパワーには驚く。高性能タイヤの装着が前提になるが、タイヤが突然路面に貼り付いたようにムギュッと止まる。586よりいいかもしれない。特に絶賛したくなるポイントは、絶対的な制動力だけでなく、急制動中の挙動が非常に安定していることだ。だから内臓が飛び出そうな減速G下にあっても、バイクの細やかなコントロールが可能になる。コーナー手前でこれほど安心してブレーキングを遅らせることのできるバイクを、僕は他に知らない。




しかしクイックなハンドリングによって挙動はシャープだ。直進安定性もいいとは言えない。509mmという短いトップチューブ (=短いホイールベース) も影響しているのだろうが、大人しい586から乗り換えた直後には正反対で戸惑ってしまうほど。ダンシングでもヒラヒラと首を振りたがるので慣れが必要だが、しかしそれが全く不快でないのは不思議だ (クイックなだけ、ヒラヒラと節操のないだけのバイクなんて苛つくだけだ)。慣れてしまえば自由自在。試乗開始から二日を経ずして、僕は手首を返すだけでキュッと内を向いてくれる585ハンドリングの虜になった。



ダウンヒルでもハンドリングはオーバー気味で、コーナー内側へ巻き込むような素振りをみせる。連続するタイトコーナーでもギュンギュン振り回せて楽しいし、回頭性・加速性の良さにものを言わせて無鉄砲に下っていれば驚くほど速い。




速いのに586のようなレールに乗ったかの如き安定感はない。細かい切り返しでは乗り手に荷重移動を強く意識させるし、ギャップを拾えば万人向けバイクに慣れきってしまったライダーを嘲笑うかのようにフレームが暴れる。飛ばしていてもその敏捷さによってどんどん曲がってくれるので、いつか不意にフロントタイヤのグリップを使い切ってしまいそうで恐くもある。そういうスピードでタイヤが仕事を放棄したとき、バイクを御しきる自信は全くない。登坂では586を食うかもしれないが、下りでついて行こうとすると掌に汗が滲むだろう。慣れるまでは薄氷を踏むかのような集中力を要求するが、ロードバイクなんだからそれもまた気分というものだ。ガードレールに張り付くか、意のままに御するか。585は、気高い。







未完成ゆえの魅力が心を猛らせる







なにより、ライダーをアツくさせるものがある。マドン6.9や586の高性能には冷静でいられた僕が、585では簡単に頭に血がのぼってあっさりとハイになってしまう。コンコンコンとリズミカルにシフトダウン、アスファルトにめり込む制動力でギュギュッと減速、敏捷なハンドリングで交差点をクルッと回り、加速しながらカンカンとシフトアップ、筋肉を軋ませて締まったハンガーを踏みつけ、トラクションを後輪にかけ暴れるハンドルを操り、路面をほじくり返しながらカツンカツンと硬質な加速、ほぼ無意識のうちに2段まとめてシフトアップし、路面からの衝撃をビンビンに感じつつスルリとチェーンをアウターギアにかけ、一気に非日常の高速域までもっていく、ロード乗りとしてそんなとき、正気でいるのはとても難しい。




585で山道を駆け巡る、それもまたスリルと刺激に満ちた体験だ。それは自転車との 「濃密なまぐわい」 とでも言いたくなるものだ。体力と脚力はもちろん、自転車に対する愛情となみなみとした生命エネルギーが必要となるらしく、いつもとは違う興奮に襲われる。586に比べると、585の存在は圧倒的にピュアだ。少なくとも、僕にはそう感じられる。



どちらが出来の良いバイクか、と問われれば、僕は間違いなく586だと断言する。だから人に薦めるなら586だ。一般的に好まれるテイストで、ハードとしての正義を持つのは586だろう。しかし自分で買うなら絶対に585である。信号ダッシュが楽しい。坂が待ち遠しい。レースの緊張感が恋しい。本質むき出し。本能むき出し。







全てがスムーズで洗練の極地、という感のある586に比べれば、585の速さは 「バラバラ」 で 「はちゃめちゃ」 と言いたくなる種の野蛮な速さだ。水道管の継手のような無様なラグ、質素で垢抜けきれないグラフィック、そんな外見もオルカや586やマドンに比べれば全く無骨この上ないものだし、僕が481で虜になったかつての “LOOK的なる深い味わい” は薄い。




586は優しく包み込んでくれさえするのに、585は 「しっかり走れ!」 とビンタしてくる。あくまで 「従の位置」 で控えめに輝く586に対して、585は 「主として叫びたがる」 のだ。



それでもこんなに走るのが楽しいのは、「バラバラ」 で 「はちゃめちゃ」 なりに 「バランスがいい」 からだ (理論破綻してるけど)。シャープでギリギリであやうい。そのギリギリであやういバランスが見事に成り立っており、それがいいスパイスとして効いている。そのスパイスが、僕たちのようなバカのつく自転車好きを否応なく高揚させる。今回少し感情的になってしまったのは、そのせいだ。




デビューしていくばくもたたない586が技術による熟成を経たまろやかさを持ち、発売からはや5年が過ぎようとしている585がいまだ溌剌とした若者の青春を感じさせるのは、実に興味深い。アンダーステイトメントの美学、オーバーステイトメントの香気。そんな2台は対称的だが、しかしどちらからもしっかりとしたLOOK流のヴィジョンをもってつくられた、という印象を強く受ける。2台とも開発者の 「高い志」 と 「主張の貫き」 を強く感じさせるが故だ。僕は586を万能型カーボンフレームの傑作だと評したが、585は紛うことなきホンモノである。これはスピードと興奮を集約した名機である。



おそらくこれからの時代、586やニューマドンのような次世代へ向けて飛翔を始めたバイク (=洗練を極め、完成度を飛躍的に高めたバイク) はいくらでも買えるようになるのだろう。その傾向はそのうちミドルグレードにまで下りてきて、「未完の魅力」 を画一化という名のパテでキレイに穴埋めした 「正しいロードバイク」 たちが世に溢れることになるだろう。それらの好悪をいうつもりはないが、しかし僕は、いまのうちに585のような蛮カラで野獣的なバイクを一台手に入れておくべきかもしれない、と少しの焦りを覚えるのだ。ロードバイクたちに躾けが行き届き、その牙が抜かれてしまう前に。 あらゆるものは完成をみたその瞬間からある種の魅力を失い始めると言われるが、586と585の対称性に意味を見出すとすれば、おそらくそういうことになるはずだ。



586が新たに得た才能はなにひとつ持っていないが、586が失ったものは全て持っている。そんな585は、ライダーを耽溺させる魅力に満ち満ちていた。だから僕は今、すこし昔のカンパニョーロを組みつけたこの上なく美しいイタリア製のクロモリバイクを、585のために手放そうかと本気で考えている。



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