日本自転車界の至宝か、それとも メテオ・ランチ vol.1 | CYCLE やわらかスポーツ情報サイト

日本自転車界の至宝か、それとも メテオ・ランチ vol.1

オピニオン インプレ

安井行生のロードバイク徹底インプレッション
安井行生プロフィール

日本自転車界の至宝か、それとも…
遂に市販されたグラファイトデザインの2本のフレームが自転車界に称賛と否定と歓迎と困惑を巻き起こす中、安井は「性能がどうのこうの…そんなことを列挙するだけなら小学生にだってできる。その前に僕らは、このフレームに対してやらなければならないことがある。読みにくく、分かりにくくなってもかまわないから」と静かに言った。これは新時代の到来を告げる日本自転車界の至宝か?それとも偉大なる失敗作か?実力は?本質は?存在価値は?安井行生渾身の自転車評論。
(text:安井行生 photo:我妻英次郎/安井行生)
早くもリニューアルしたニューマドン6シリーズがツール・ド・フランスを再び制覇し、完全左右非対称設計でカーボン化したドグマ60.1がファンを驚かせる。デダチャイが衝撃的なフレームで自社ブランドを立ち上げ、デ・ローザはカーボンラインナップを美しく一新。スペシャライズドは早くもターマックをSL3に進化させ、アンカーがフラッグシップモデルとしてフルオーダーカーボンフレーム (とその製作プログラム) を発表する…各社ニューモデルのリリースがメディアを騒がせている時期だが、しかしそれらのニュースと同じくらいに日本のロードバイク乗りを騒然とさせている国産車がある。グラファイトデザインという聞きなれないメーカーがリリースした、メテオ・ランチとメテオ・スピードという2種類のフレームがそれだ。
国内プロツアー使用率ナンバーワンを誇るゴルフシャフトメーカー、グラファイトデザインが作ったロードフレームがなぜそれほどの話題をかっさらっているのか?
その理由は、「意図的に剛性を落としたフレームである」 ことだ。国内外を問わず、「昨年モデルより○部分の剛性を○パーセント高め…」 という高剛性化を謳い文句にするメーカーが多い中で、グラファイトデザインは “現在の剛性重視のカーボンフレームのあり方を疑問視” し、“必要以上の剛性は必要ない” とし、“カーボンゴルフシャフトの経験から、硬いだけのフレームの限界を熟知した” うえで、“それ以上に必要なのは 「しなり」 であるはず” という発想から2台のフレームをゼロから開発したのである (“ ”内はメーカー広報資料から抜粋)。
今回取り上げるメテオ・ランチは、ヒルクライムでの使用に特化した軽量モノコックタイプ。EQA・梅丹本舗・GDR (残念ながらチームは空中分解してしまったが…) の清水都貴選手が乗り、国内外のレースで数々の勝利を挙げたフレームである。 メインパイプは、現代には珍しく全て真円断面。異型断面と違って、丸断面は全方向に均等にたわむ。これについて、広報資料は “強度としなりのバランスにおいて欠かせない要素” と説明する。外径も現代大口径フレームの半分ほどしかない。特にリア三角はクロモリフレームより細いのではないかと思えるほど華奢である。シートステーは独特のS字カーブを描き、チェーンステーはシンプルなストレート形状となっている。
インテグラルシートピラーを採用しているのも 「ランチ」 の特徴だが、上下異径ヘッドや内蔵BBなど最新スペックの採用は見送られている。フォークは先行発売されていたアクセラレートフォークをベースにチューニングを施した専用モデル。市販のアクセラレートフォークは高剛性フレームに合わせて硬く作られているが、メテオに付属するフォークは剛性を落としてあるのだという。ちなみに、メテオ (meteor) とは 「流星・隕石」、ランチ (launch) は 「発射台」 という意味である。

スペック

この国独自の「自転車文化の土台」になり得る
2年越しの夢
グラファイトデザイン開発メンバーの中心人物である新矢豊氏 (ブリヂストン・アンカーで名車ネオコットの開発に携わった人物) と偶然お会いしたのは、もう2年も前のことになる。「マウンテンサイクリングin乗鞍」 で新矢さんが同じ宿に泊まられており、カーボンフレーム設計に関する興味深いお話を聞かせていただくと共に、宮澤選手のために開発されたという貴重なプロトタイプ (アルミラグのカーボンフレームで、シッティングでのヒルクライム用に作ったものだったと記憶している) に少しだけ乗らせていただいたのだった。短い坂一本のみの試乗だったためすでに記憶は薄れてしまっているが、今までに味わったことのない不思議なライディングフィールだったことだけは印象に残っている。そのときから、僕はGDRフレームの市販が楽しみで仕方なかった。それを走らせられる日がくることを願っていた。しかも貴重な国内メーカーである。僕はナショナリストではないが、日本車に頑張ってもらいたいという想いは強い。今回やっと2年越しの夢が実現し、非常に感慨深いものがある…というのは少々個人的すぎるが。
グラファイトデザイン入社10年になる世界屈指のカーボン技術者、松崎雄一郎氏による 「剛性と軽さはいくらでも作り出せる。これからは乗り味を求めるべきだ」 という主張は、世界のトップブランドのロードバイクエンジニアとほとんど意を同にするものだろうし、実際に各社の最新カーボンフレームの試乗を通して、フレームそのものから感じ取ることができる設計意図である。
しかしながら、GDRの 『しなるフレーム』 という良くも悪くも明確なコンセプトは、それまでの自転車業界と自転車ファンに大きな衝撃と少なからずの困惑を与えたことだろう。LOOKでいえば586も595も、585と比較すれば明らかにしならせてきているし、トレックもかつての5000系から比べればしなりを上手く活かした設計にシフトしている。カーボンを上手く使い始めたブランドの多くはそういった傾向にあるだろう。それは、乗れば誰もが感じ取れるであろう確かな事実である。だが、どこのメーカーもカタログではっきりと 「剛性を落としました」、「柔らかいです」、「しなります」 とは言わない。なぜか?売れなくなるからである。売りにくくなるからである。ユーザーの価値観はそう簡単には変化しないからである。「剛性の高低」 は、今でもロードフレームの優劣の判断基準として十分に機能し続けているからである。
そういったコンセプトによって、「どうやらここんちのは少し違うようだぞ」 とファンの注目を集めることに成功し、イベントや試乗会や各メディアの取材に引っ張りだこのメテオ・ランチとメテオ・スピードの2台を、無理を言って丸々2週間借り、ステム、ハンドル、サドル、ホイールを交換してそれぞれ300kmずつ乗り倒した。同包されたカタログや資料からは、開発陣のヒリヒリとした熱い想いが、痛いほどに伝わってくる。こちらもそのつもりで真正面からぶつからせてもらわなければ失礼にあたる。遠慮なく。まずはメテオ・ランチから。
拒否反応を誘発しやすいコンセプト
ここまで賛否両論が聞こえてくるフレームも珍しい。ある人が 「このしなやかさは例えようもなく素晴らしい!」 と絶賛したかと思えば、ある人は 「あんな柔らかいフレーム、レースで使えるわけがない!」 とこき下ろすのだ。この業界にいると、建て前では決して知られることのない本音がどこからともなく聞こえてくるものである。だから、このフレームについての厳しい意見が存在することも知っている。僕の同業者達も評価に困っているらしく、2009年の末頃には 「アレもう乗った?」 というのが僕等の挨拶代わりになっていたほどだ。今までとは異なる概念は、困惑と拒否反応を誘発しやすいのである。
それに、よく考えてみてほしい。理解されにくいコンセプトに加え、自転車シーンでは無いに等しかったブランド認知度、欧米ブランドトップモデル並みの価格設定、ハイテク最新スペックの不採用、たった2車種の (分かりにくい=選択しづらい) ラインナップ、決し万人受けはしないであろうカラーリング…GDRにブランドコンサルタントがいたら卒倒してしまいそうなくらいに 「売れる」 要素に乏しい。
逆に捉えれば、そんな状況の中から生まれ出たことこそが注目に値する事実であり、識者からは 「よくぞここまで貫いた!」 と称えられてしかるべきフレームであろう。マーケティングだかなんだか知らないが、小売店の貴重なご意見やお客様の声なんぞをクソ真面目に受け止めて製品作りにバカ正直に反映していたのでは、このようなバイクは決して出来上がることはなかっただろう。少人数のカリスマが全権を託され、周りの意見に惑わされることなく、自らの信じたやり方を貫かなければ、このようなバイクは決して完成しなかっただろう。ここまで 「主張」 のあるバイクは近年珍しい。
だから、実際に乗ってどうのこうのと言う前に、『しなるフレーム』 というコンセプトを掲げたその大胆さ、そしてそのコンセプトを抱えてヨーロッパ・アメリカ勢の 「猿真似」 ではなくあえて違う領域に攻め込んだその勇気を、僕らは称えるべきだろう。ピストがファッションになることでも人気芸能人がスポーツバイクに乗ることでもクロスバイクが街中に溢れ返ることでもイージーな自転車雑誌が乱立することでもなく、まさにこういうモデルの誕生こそが、この国独自の 「自転車文化の土台」 となり得るものなのだ、と僕は思う。
《編集部》
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