素材を鍛え上げたFP7のパフォーマンス vol.1 | CYCLE やわらかスポーツ情報サイト

素材を鍛え上げたFP7のパフォーマンス vol.1

オピニオン インプレ
安井行生のロードバイク徹底インプレッション
安井行生プロフィール

素材を鍛え上げたFP7のパフォーマンスを試す
サイクルモード2008で主役をさらったピナレロの新型レーシングバイク、FP7。イタリアンスーパーロードバイクの風情強く漂わすこの最新モデルに、安井はいかなる印象を抱き、300kmを経ていかなる結論に至ったか。そもそもモールド流用バイクに健全なるロードレーサー・マインドは宿るのか?その本質に迫らんとする第34回。
(text:安井行生 photo:我妻英次郎/安井行生)
2008年11月に日本で行われたサイクルモードインターナショナルで、一台のニューモデルが話題を振りまいた。ピナレロFPシリーズのトップモデル、FP7が突如として発表されたのである。本国イタリアより先の世界先行発表という、予想だにしていなかった新型車のデビューに誰もが驚いた。他メーカーのトップモデル並の強気の価格設定、今までのピナレロ各車とは明らかに違うが斬新で妖艶なグラフィック、実戦系伊達男ブランドピナレロは、またしても自転車ファンの視線を独占した。
このFP7は、プリンスカーボンの形状を継承しながらミドルレンジに最適化したFP3のモールドを使用し、カーボンのグレードを46HM3KへとグレードアップしたFPシリーズの最上位モデル。フレーム形状はFP3と全く同じ。ONDA FPKフォークや左右非対称チェーンステー、上下異径ヘッドチューブ、内蔵ブレーキケーブルなどももちろんFP3と同一である。ちなみに、プリンスカーボンの素材は50HM1K、プリンスカーボンに形状が酷似するFP3は30HM12K、ピナレロ初の量産型カーボンマスドロードモデル、F4:13とモールドを共有するFP5も30HM12Kで、パリカーボンの金型を使用したFP6は30HM3K。FP3と同じ形状のFP7は46HM3Kで、これはパリカーボンと同じ素材である。詳しくない人にとっては何を言っているのかさっぱり分からないだろうが、オリジナリティ溢れるフレームを設計し、その形状の持つ優位性を活かしながら簡素化・最適化し (プリンスカーボン→FP3・FP7)、またモールドそのものを流用しながら (パリカーボン→FP6/FP3→FP7)、素材を変更して味付けをガラリと変え、色っぽいカラーリングで包み込んで魅力的なバイクをどんどん産み出す。これが今のピナレロカーボンバイクのやり方である。
そんなピナレロの現況を如実に現すFP7とは、一体どんなバイクなのか?他のFPシリーズやプリンスカーボンと比較しながら、300kmを走破した。

スペック

見た目に反して、中身は驚くほどの正統派

世の春謳歌中のピナレロは新製品ラッシュだ。FP3、FP6が立て続けに発表され、09モデルが出揃ったかと思いきや、昨年のサイクルモード2008にてプリンスカーボンの直下に位置するFPシリーズのトップモデルが、FP7というまたまた身も蓋もない車名で登場した。よくもまぁ次から次へと…というのが正直な感想だが、ラインナップ数がそれほど多いわけではないので (ライバル他社に比べるとむしろ少ない)、一台一台がデビューするたびに世 (と僕) に与えるインパクトが大きいのだろう。それぞれの発表時期をずらすのも戦略かもしれないが。
ピナレロ・ジャパンの説明によるとこのFP7は、「FP3のモールドをベースにしながらもカーボンのグレードを大幅に高めることで、プリンスに匹敵する剛性バランスやキレの良さを与えられたリアルレーシングモデル」 なのだそうだ。プリンスに匹敵する性能で20万円近くも安いのなら誰もプリンスを買わんだろう、なんて天邪鬼的発想はさておいて、そのFP7でヤビツ峠や三増峠や大垂水峠を走り回ってきた。日本未入荷カラーだというゴールド×ホワイトを纏った貴重なFP7は、行く先々でサイクリストから羨望の視線を浴びた。

行く先々でサイクリストから羨望の視線を浴びるほどにド派手でラテンの情熱ほとばしる見た目に反して、その走りは、意外にも、実に真面目なものだった。ほとんど愚直といってもいいくらいに。FP3やFP6のオールラウンドネスをさらにブラッシュアップしたようなバイクだと勝手な想像をしていたが、それらとは全く違った性格が与えられていて驚いた。たった3ヶ月前に発表されたばかりだということや、そのいかにも斬新でオーバーデコラティブなペイントから想像するより、その乗り味はずっとオーソドックスで、(決して悪い意味ではなく) 古典的ですらあった。
適度なフレーム剛性によっていつでもどこでも楽しいFP3とは違い、FP7はペダリングフィールに一切の曖昧さや遊びがない。といっても、それは軽快感を押し付けんばかりの585でもなければ、同じFPシリーズの3や6にあった優等的万能性にも似ない。例えるならば、やはりプリンスカーボンか、もしくはエクストリームパワーを思い起こさせる。というのは、ミッチリと詰まった 「ソリッドな重厚感」 がバイク全体を隅々まで支配しているからだ。
軽いギアでの漕ぎ出しはフレームの硬質さによってすさまじく軽いが、チェーンをアウターにかけて踏み込む中速域 (試乗車はコンパクトドライブ仕様) に到達すると、軽快感には乏しくなり、ズシリと重厚な感覚が脚に伝わってくる。これもプリンスやエクストリームパワーに共通して感じられるもので、フレームの剛性感が高いため、中速域にドテッとした 「軽快感に欠けるゾーン」 があるのだろう。このゾーンに限って個人的な好みを言わせてもらえば、好きな味付けではない (フレームサイズ、体重、脚力も影響していると思われるが)。しかしそれはユルさによる重ったるさではなく、ガッチリとした剛性ゆえの、頼もしい質量感である。
《編集部》
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