「誰も知らなかった得点王」なでしこW杯8強進出を牽引する宮澤ひなた “レジェンド”澤穂希に並ぶ5ゴール、大ブレイクを紐解く | CYCLE やわらかスポーツ情報サイト

「誰も知らなかった得点王」なでしこW杯8強進出を牽引する宮澤ひなた “レジェンド”澤穂希に並ぶ5ゴール、大ブレイクを紐解く

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「誰も知らなかった得点王」なでしこW杯8強進出を牽引する宮澤ひなた “レジェンド”澤穂希に並ぶ5ゴール、大ブレイクを紐解く
  • 「誰も知らなかった得点王」なでしこW杯8強進出を牽引する宮澤ひなた “レジェンド”澤穂希に並ぶ5ゴール、大ブレイクを紐解く

7月20日よりオーストラリアとニュージーランドで共催されている、『FIFA女子ワールドカップ2023』で、女子サッカー日本代表「なでしこジャパン」が準々決勝に進出。ここまでの4試合で14得点1失点の快進撃を見せている。

なでしこ旋風を引き起こす中、FW宮澤ひなた(マイナビ仙台レディース)が得点ランキング単独トップの5得点を挙げ、チームを牽引している。

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■8強進出で優勝経験国は日本のみ

女子W杯史上第9回目となる今大会は、決勝トーナメント1回戦を終了した現時点での観客動員数が史上最多を記録。日本にも現地の熱狂ぶりが伝わっている。

その中心にいるのが、ほかでもない日本だ。

グループCの日本(FIFAランク11位)は初戦でザンビア(77位)に5ー0、続くコスタリカ(36位)に2ー0と順当に勝利をおさめ、早々と決勝トーナメント進出が決定。迎えた第3戦も強豪スペイン(6位)相手に4ー0と完勝。3連勝の日本はグループCの首位で勝ち上がった。

さらに、決勝トーナメント1回戦では、1995年の第2回大会を制した古豪ノルウェー(12位)を相手に3ー1と快勝。すでにアメリカとドイツが敗退したことで、準々決勝を迎える現在、優勝経験国は日本のみとなった。

日本は2011年の女子W杯ドイツ大会で悲願の初優勝。直前の東日本大震災によって沈んでいた日本列島全体に、大きな勇気と感動をもたらした。あれから12年の月日が経った現在、当時のチームを率いた佐々木則夫氏は女子技術委員長となって今大会に帯同。「優勝したあの頃のロッカールームと雰囲気が似ている」と話す。

大会最多4度の優勝を誇る女子サッカー大国アメリカの放送局『テレ・ムンド』も、「アメリカの敗退によって、明確な優勝候補となった」と報じている。

■2シーズンで合計4ゴールに留まる

そして、同局が「誰も知らなかったW杯得点王」と見出しをつけて紹介したのが、ここまで5ゴールを挙げ、得点ランク単独トップに立つFW宮澤ひなた。

それもそのはず、彼女は2021年から日本初の女子プロサッカーリーグ「WEリーグ」の誕生を機に、現所属マイナビ仙台レディースへ移籍したものの、2シーズンで合計4ゴールに留まっていたのだ。

そんな宮澤が今大会では初戦から2ゴール。なかなか得点が奪えなかった前半終了間際に挙げた先制点は、その後のチームの快進撃に繋がっている。宮澤が「苦しい時間が長かった」と話した3戦目のスペイン戦は、日本が守備から入るゲームプランを徹底。ボール奪取から宮澤のスピードを活かした反転速攻で4-0。大勝する中で2ゴールを挙げ、ノルウェー戦でも相手が終盤になって前掛かりになった裏を突いたカウンターから大会5ゴール目を挙げた。

すでに優勝した2011年大会で5得点を挙げ、大会得点王と最優秀選手に選出された“レジェンド”MF澤穂希さんによる、W杯1大会の日本人最多得点記録に並んでいるのだ。

■宮澤を輝かせる恩師と新システム

宮澤は現在のなでしこジャパンを率いる池田太監督が指揮した2018年の『FIFA U-20女子W杯』を制した優勝メンバーのひとり。決勝のスペイン戦で見事なミドルシュートによる先制点も挙げたが、当時は懸命にプレスバックしてボールを奪うなど、守備でもハードワークできるサイドアタッカーだった。

しかし、攻守両面で高い能力を兼ね備えることで、仙台での彼女はチーム全体の総合力を上げるために中盤でプレーすることが多くなり、自身のプレースタイルが確立されずに代表から外れることもあった。

そんな中、東京五輪後になでしこジャパンの指揮官に就任した恩師は、昨年10月から新システム[3-4-2-1]を採用。現在の宮澤は2列目のシャドーの役割を担う。

攻撃には「幅」と「深さ」が必要とされるが、幅とり役は「4」の両翼である左の遠藤純(エンジェル)と右の清水梨沙(ウエストハム)に任せ、「深さ」は1トップの田中美南(INAC神戸)が相手DF陣とのつば競り合いを制してスペースを作ってくれる。そのうえで、サイドでも中央でもプレーでき、「味方に活かされるだけでなく、活かす側にもなりたい」と話す宮澤は、その中間にあって相手のマークを受けにくいハーフスペースでボールを受け、攻撃の起点となる。得意のミドルシュートを狙う機会も多い。

守備時は[5-4-1]に変形し、従来のサイドハーフとしてハードワークもできる宮澤は新システム採用によって大ブレイクした。

■元同僚たちのサポートを得て得点王へ

今大会は得点の場面だけでなく、1トップの田中が引いて出来た中央のスペースへと宮澤が走り込み、相手DFラインの背後へ抜け出る形が幾度も炸裂している。最前線の田中が大会最多タイの3アシストを記録しているのも特徴的だ。

そして、その田中と左の遠藤は、宮澤が2018年から3年間在籍した日テレ東京ヴェルディ・ベレーザで、2年連続の3冠を達成した当時の3トップでもある。同じく右の清水や司令塔のMF長谷川唯(マンチェスター・シティ)も当時のチームメイト。連携が抜群なのも頷ける。

そんな日本の次戦は11日に行われる準々決勝のスウェーデン戦。FIFAランク3位にして、前回大会3位の強豪は2021年の東京五輪でも準優勝。今大会でもアメリカ(同1位)にPK戦の末に競り勝ち、ベスト8へ勝ち上がってきた。

スウェーデンは主将MFコソヴァレ・アスラニが攻撃のリズムを作り、最前線のFWスティナ・ブラクステニウス、スーパーサブとなったベテランFWソフィア・ヤコブソンが絡む攻撃は、個でもトリオとしても機能性がある。近年の国際大会でお馴染みとなっているこのトリオは要警戒だ。

日本は主将DF熊谷紗希(ローマ)を中心にここまで1失点に抑える堅守を継続し、宮澤ら元ベレーザ陣が揃う攻撃陣に上手く繋げられるか。攻守に万能なチームプレーヤーでもある宮澤が、レジェンド・澤が成し遂げたように、チームの優勝を自身の得点王獲得で導く。

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文●新垣博之(しんがき・ひろゆき)

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