【Bリーグ】千葉ジェッツ新指揮官ジョン・パトリックHCが見つめる日本バスケの進化 | CYCLE やわらかスポーツ情報サイト

【Bリーグ】千葉ジェッツ新指揮官ジョン・パトリックHCが見つめる日本バスケの進化

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【Bリーグ】千葉ジェッツ新指揮官ジョン・パトリックHCが見つめる日本バスケの進化
  • 【Bリーグ】千葉ジェッツ新指揮官ジョン・パトリックHCが見つめる日本バスケの進化

Bリーグを代表する強豪にやってきた日本語流暢な指揮官、彼の名はジョン・パトリック

愛称はジョンパト、JP。アメリカ出身の54歳。彼が初めて日本の地を訪れたのは1991年11月末だった。成田空港に到着後、3日ほど滞在したのが千葉県船橋市だった。「都会だな」と第一印象を受けたその船橋市に31年経ちヘッドコーチとして舞い戻ってきた。不思議な縁である。

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■スタンフォードから近畿大学へ留学で初来日

「大学生の頃、近畿大学のテストを受けに来ました」と日本との出会いを語り始めた。スタンフォード大学のチームメートが実業団チーム、当時の三井生命とジャパンエナジーに所属していた。その2人を訪ねた。

大学卒業後、ジャパンエナジーグリフィンズなどで選手として13年間にわたってプレー、同時に複数チームでコーチングなどスタッフとしても携わる。2003年にヘッドコーチとしてドイツに招聘され、指導者の道へ。また日本に戻り2005-06シーズンにはJBL時代のトヨタ自動車アルバルク(現アルバルク東京)を指揮しリーグ優勝に導いた。

選手・指導者として大阪に2年、東京に10年、そして今回、日本での13年目がスタートする。2006年以来16年ぶりの日本。「だいぶ日本語を忘れたと思う」というが、一度も通訳を介さずにインタビューは終わった。時々、大学の恩師や当時の友人と電話で話す際に日本語を使っていた。家庭では、奥様が日本生まれで日本語を話すことができる。子供たちに聞かせたくない話は日本語で会話しているという。

久しぶりの日本での生活、単身での来日。練習が終わるとお気に入りの場所を散歩したり、ジョギングや料理をしたりとリフレッシュしながら過ごしているそうだ。 

■驚くべき日本バスケ界の変化

パトリックHCが離れていた間に、日本のバスケットボール界は驚くほど変化した。

ゲーム中には厳しい表情も(C)千葉ジェッツふなばし 撮影:Keisuke Aoyagi

Bリーグが2016年9月に開幕。ファンは増え、パトリックが知る日本リーグやJBLとはまったく違う世界が広がる。かつて街中では、自身のクリニックを受講した生徒から声を掛けられることはあったものの、ファンに声を掛けられることはなかった。しかし来日後、まだ開幕前にもかかわらず街で声を掛けられる。そのため、お気に入りだという千葉のおすすめスポットは「秘密ですよ」と明かすことなく、いたずらに笑った。何より「プレシーズンの試合でおよそ4000人が来場。びっくりした! 昔の実業団やJBLとは全然違う。リーグがビジネス的にもプロフェッショナルになっている」と大変驚いた。

開幕を控え「プレシーズンは建築家で言うと設計図や家の土台を作る期間なので、スタッフを知り、選手たちを知るのが大切。思ったよりケミストリーはできている」と好感触を得ている。開幕2週間前に日本代表活動を終え富樫勇樹がチームへ合流。最後に日本帰化選手ギャビン・エドワーズも開幕1週間前に合流し全員がそろった。「一人一人、リーダーシップがあると信じている。スタッフ陣もスター選手も役割を果たすことで強いチームになる」と確信。選手にはコアメンバーも多いが、スタッフ陣は一新されている。果たして、強豪はどんなチームに生まれ変わるのか。

千葉Jの選手たちの印象を聞いてみると原修太の名が真っ先に挙げられた。「一生懸命。練習をもっともっとやりたいという気持ちがある。スタッフ陣からセーブさせなければならないくらい意欲が高いし、コーチとしても好きですね」と明かした。練習から貪欲に力を出し切ることは何よりも大切。原の真摯にバスケと向き合う姿勢は早くも指揮官のハートを掴んでいる。

富樫のことは、2014年に「彼がNBAのサマーリーグに参加した時にも見ていた」とか。その後ダラス・マーベリックス傘下のテキサス・レジェンズでプレーをした富樫について、そのころは「まさか彼のコーチになるとは…」と思いもしなかった。まだ合流からまもなく、2週間ほどしか一緒に過ごしてはいない。日本のバスケ界を牽引し続ける富樫についても、そのプレーを知るという作業が始まったばかり。「タレント性とスキルは間違いないし、ディフェンスもフルコートでタフに頑張れる。練習中にもよく話していていろいろな人に意見も聞いている、リーダーシップもしっかりあるようだ」とすっかり分析済み。

通訳を介さず、笑みを絶やさずインタビューに応えるパトリックHC 撮影:SPREAD編集部

同じく千葉Jのベテラン、西村文男についても「以前、私のクリニックに参加していたから小学生の頃から知っている。能力もありセンスがいい。相変わらず面白い選手」と目を細めていた。

長崎ヴェルカの伊藤拓摩ゼネラルマネージャー、アルバルク東京の伊藤大司トップチーム・ゼネラルマネージャー、富山グラウジーズで活躍する松井啓十郎も、かつてパトリックのクリニックに参加していた。松井のアメリカ留学への道を繋げたのもパトリックHCだった。長い時間を経て、Bリーグの舞台で再会。既にグラウジーズとは2日に「プレシーズンカップ2022 in ふなばし」で対戦している。

試合を振り返りながら「松井は全部決めていたね。14得点!くそー」と悔しがるふりを見せ、取材陣を笑わせた。「ずっと応援していたし、うまいなと思いながら松井のプレーを見てました」。まさに西村も含め、パトリックHCにとって日本の息子たちだ。自チームの息子たちも他チームの息子たちにとっても親孝行、恩返しの機会が巡ってきた形だ。彼らの成長を間近にし、終始「将来こんなふうになるなんて思わなかった」とほほ笑みを浮かべる姿がとても印象的だった。

■海外へもユースへも若い頃からのチャレンジを勧める

今、NBAで活躍する八村塁(ワシントン・ウィザーズ)や渡邊雄太(ブルックリン・ネッツ)、過去には田臥勇太(宇都宮ブレックス)もその舞台に立った。アメリカへ留学した彼らのことも含め「本人たちの努力と苦労があり、決して簡単ではなかった」と、パトリックHCの表情は一気に引き締まった。

日本がさらに成長を遂げるためには若い世代からの育成と挑戦は欠かせない。日本人の海外挑戦については「決して遊びじゃない、本気の挑戦。覚悟があるなら早めに行きなさい」と上を目指す選手へ伝えたい。言葉の壁や家族との距離など問題も多いが、「人材育成をどう考えるかだ」と指摘。バスケの場合、アメリカに渡る選手も多いが「ドイツは治安もいいし日本と似ている。おすすめ」と語るHCを見ていると、まだまだこれからも日本で多くの“息子”を育ててくれそうだと思えた。

もちろん海外へ挑戦することだけがすべてではない。来日から1カ月、「Bリーグはチーム数も多いし、高校生や大学生や若い選手も能力があると思う。もっと早く、高校くらいからBリーグにトライした方がいいのでは」と感じている。スロベニア代表として東京オリンピックにも出場し、日本代表とも対戦したダラス・マーベリックスのルカ・ドンチッチの名をパトリックHCは挙げた。ドンチッチは13歳の時にはスペインのレアル・マドリードと契約を結んだ。

パトリックHCが長く指揮者として活躍したドイツのバスケットボール・ブンデスリーガでも「15、16歳からプロに入りレベルがとても高くなっていく」という。ドイツ出身のNBA選手も徐々に増えている。かつては、シアトル・スーパーソニックスをNBAファイナルに導いたデトレフ・シュレンプ、近年ではダラス一筋2019年に引退したダーク・ノビツキー、今シーズンはロサンゼルス・レイカーズと契約したデニス・シュルーダーなど「7人のNBAプレーヤーがいる」。

それでも国民的人気スポーツはサッカー。ただ、「私が行った時(バスケは)もっともっとマイナースポーツだった。それでもメインスポーツへとドイツも変わっていった」そうだ。スピード、フィジカルなど初めてドイツのバスケと向き合った2002年とは大きく変わった。日本もBリーグとともに発展途上。「日本では同じ世代の子とプレーをしているが、レベル向上のためには世代を超えてプレーをすることも必要。ユース世代の若い選手がBリーグにはいない」と訴える。

日本でも多くの後進を育ててきたパトリックHCが、またも日本のバスケに変革をもたらすか (C)千葉ジェッツふなばし 撮影:Keisuke Aoyagi

パトリック体制になり、千葉JはU18に所属する藤井暖がトップチームの練習に参加するなど変化がある。もちろん16歳の藤井にとって刺激的な経験であるのはさることながら、20代前半の若い選手も「ロールモデルの役割を果たし新たなチームケミストリーを生んだ」という。「大倉颯太や二上耀には負けたくないという気持ちが芽生えていたと思う」とユースから刺激を受けたのも事実。新しい風が吹き始めている。

新たな千葉Jは「どんなスピードでどんなプライドを持っているかやっているか。ハードなスケジュールでもどんなハードなディフェンスで頑張るか見てほしい」と語る。そして「練習にはもう飽きちゃった」がインタビューの最後の言葉だった。

シーズンの開幕を待ち遠しく感じていたのは誰よりも新指揮官かもしれない。いよいよ16年ぶりの日本での戦いが始まった。

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■著者プロフィール

木村英里(きむら・えり)●フリーアナウンサー、バスケットボール専門のWEBマガジン『balltrip MAGAZINE』副編集長

テレビ静岡・WOWOWを経てフリーアナウンサーに。現在は、ラジオDJ、司会、ナレーション、ライターとしても活動中。WOWOWアナウンサー時代、2014年には錦織圭選手全米オープン準優勝を現地から生中継。他NBA、リーガエスパニョーラ、EURO2012、全英オープンテニス、全米オープンテニスなどを担当。

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