ボルダリングのルートを作る魅力は? プロフリークライマー安間佐千さん、日本代表選手の掘創さんに聞いてみました | CYCLE やわらかスポーツ情報サイト

ボルダリングのルートを作る魅力は? プロフリークライマー安間佐千さん、日本代表選手の掘創さんに聞いてみました

オピニオン ボイス
ADIDAS ROCKSTARS TOKYO 2017でルートを作るルートセッターたち(2017年7月16日)
  • ADIDAS ROCKSTARS TOKYO 2017でルートを作るルートセッターたち(2017年7月16日)
  • 安間佐千さん(左)と堀創さん
  • ADIDAS ROCKSTARS TOKYO 2017男子スーパーファイナルのルート(2017年7月16日)
  • ADIDAS ROCKSTARS TOKYO 2017(2017年7月16日)
  • ADIDAS ROCKSTARS TOKYO 2017(2017年7月16日)
  • 壁を登る子どもを見守る安間佐千さん
  • 安間佐千さん
  • 堀創さん
ボルダリングのルート(課題)がどんな意図で作られているか気にしたことはありますか?

ルートセッターと呼ばれる職人が、ホールドと呼ばれる突起物を使って作り上げるルート。前回に引き続き、プロフリークライマーの安間佐千(あんまさち)さんと、クライミング・コンペティション『ADIDAS ROCKSTARS TOKYO 2017』でチーフルートセッターを務めた現ボルダリング日本代表の堀創(ほりつくる)さんに「ルートの作り方」を聞いてみました。(聞き手はCYCLE編集部・五味渕秀行)

安間佐千さん(左)と堀創さん

---:堀さんは現役のボルダリング日本代表選手として長年クライミング・ワールドカップ(W杯)を転戦しています。その経験はルートセットをする上で役立っていますか?

堀創さん(以下、堀):そうですね。W杯でやった動きを(一般向けの)課題に落とし込んで、簡単な課題から難しい課題まで設定して、みんなに共有している感じですね。

---:安間さんはW杯のリード種目で活躍されましたが、リードとボルダリングだとルート設定に違いはあるのでしょうか?

安間佐千さん(以下、安間):思い切り違うと言ってもいいくらい、違うと思います。より造形物としての芸術性で言ったらボルダリングの方がシンプルでわかりやすくて、アートな感じがします。リードの場合は1本の線という感じですよね。細かいホールドが淡々と続いて、それが道になっているような。ボルダリングはアーティスティックな感じが多いです。

最近はリードもちょっとテイストが変わってきて、ビジュアル的にも変化してきました。僕は映像でしか観ていないのですが、去年のスイスのW杯の課題で緑色のハリボテ(ホールドの形状のひとつ)が大量に付いているものがあり、泡のような、樹木のようなビジュアルで面白いなと思いました。

これはADIDAS ROCKSTARS TOKYO 2017男子スーパーファイナルのルート。決勝の上位二人が同時にスタートするデュアル形式で行うため、同じルートを左右に設定。アートを感じさせるルートになっています

こちらは2017年3月に行われたリード日本選手権決勝のルート。男子は左下から右上、女子は右下から左上に、ロープで安全を確保しながら高さ13mの壁を登りました。5mほどの壁を使うボルダリングと比べて巨大です

---:W杯など国際大会のルートに傾向や流行りはあるのですか?

堀:その年によって動きの流行りとかはありますね。僕はもう10年ほど国際大会に出ているのですが、最近になって走ったり、二段ジャンプなどをするものが増えてきています。(見栄えのする)ショー的な要素が強くなっているのかなと思います。それが嫌いな人もいますね(笑)。

---:全体的な傾向として、よりダイナミックな動きが多くなってきていますよね。安間さんがADIDAS ROCKSTARS TOKYO 2017を見て、一番難しそうに感じた課題はどれですか?

安間:難しそうに見えたのはジャンプしたりする課題ですけど、一番面白そうだなと感じたのは男子の決勝3課題目。僕はけっこう両手両足を使って登っていくのが好きなのですが、その形状を登っていくのが面白そうだと思いました。

ハリボテの付け方も壁にうまくはめ込んであって、壁の形状とハリボテの形がピタッとあってないとできない奇跡的なマッチングがさりげなく起きていたんですよ。よく見ると傾斜が違う面なのに、こっちを重ねるとここが平面になって、もう1コをここに重ねられる。なんかスゴい感じになっていましたね。偶然ですけど、あれは面白そうに思いました。

ADIDAS ROCKSTARS TOKYO 2017男子決勝の第3課題

---:堀さんが今大会で一番面白く作れたと思う課題は?

堀:女子の決勝2課題目ですね。(スタート直後に)走るやつ。ああいうのって女子はホント苦手なんですよ。セッターたちも『こんなの女子は絶対にできないよ!』と話をしていて、でも僕は一人か二人は登るかなと思い、ちょっと無理言ってチャレンジさせてもらいました。

これは誰か絶対登るからって言って、みんなの反対を押し切って出して。ドキドキしながら見ていたのですが、(ボルダリング日本代表の野中)生萌が登ってくれました。結果的に、個人的には良かったですね。

ADIDAS ROCKSTARS TOKYO 2017女子決勝の第2課題

---:安間さんは小学4~6年生を対象にしたイベント『YOUNG ATHLETES CHALLENGE』でルートセットをしていましたが、子どもたちに登ってもらうときはどんなことを考えますか?

安間:ん~、あんまり考えてないですね(笑)。あ、できた…みたいな感じで。だから僕はセッターじゃないんですよ。その辺はユルくて…。

堀:でも実際、子ども向けのルートセットが一番難しいんですよ。

---:やっぱり背が小さいからでしょうか?

堀:身長ですね。手さえ届けば、ぶっちゃけ『BE A ROCKSTARクラス』の出場選手よりも強い可能性もあるんです。ただ、その距離が遠くてまったく登れないこともあれば、まさかそれ使ってくるの?みたいな(予想外の)動きを使って登ってくることもある。本当に難しいです。

YOUNG ATHLETES CHALLENGEに参加した子どもを見守る安間佐千さん

---:子どもはセッターが考えもしなかった動きを披露することもありますよね。

堀:それ持つのかー!みたいなのがありますね。それと、そんなに壁に入れるの?と思うときも。

安間:ボテとか乗るのもうまいよね。何だろうね、あれ。

堀:子どもはスラブ(登る人の反対側に傾斜した90°以内の壁)だと体が大人よりも、90°のラインの内側に入ることができる。そうするとバランスが取れてしまう。大人は若干出て、滑りそうだなとかバランス崩しそうだなとか思うのですが、子どもたちは登れてしまう。それも考えながら作るのはかなり難しいですね。

安間:子どもの体のサイズの方が絶対安定感があります。それに体重も軽い。

堀:摩擦力は低いかもしれないけど、それでも大人よりは軽いので乗れちゃいますね。

ADIDAS ROCKSTARS TOKYO 2017の課題に挑戦する子どもたち

---:通常の課題は日本人男性の平均身長となる170cmくらいを想定して作るのですよね?

堀:男子はそうですね。170cmくらいで(次のホールドが)あまり遠すぎないように。170cmの人が伸びきるムーブ(動き)は、下のクラスの人は多分できないので、170cmで気持ちよく動ける感じにしています。腕のリーチや身長は考えながらやっていますね。(今回の最上位カテゴリーの)『ROCKSTARクラス』では容赦しませんでしたけどね。

---:自分が作った課題を選手たちにクリアされると嬉しいですか?

堀:嬉しいですね、やっぱり。登られすぎるのはちょっとイヤですけど…。決勝で二人くらいが完登してくれたらすごい嬉しいですし、落ちるのも嬉しい(笑)。セッターも予想しているんですよ、あそこで落ちるだろうとか。ここクリアしてもあそこで落ちてくれたらいいよね、みたいな話をしていて、それが実現するとセッター冥利につきますよね。予想通りに選手が動いて、完登したり落ちたりされるのが。

壁にホールドを固定する堀創さん

---:ボルダリングはジムだけではなく自然の岩場で登ることもあります。堀さんが岩場の登りを楽しむとき、ジムのルートセットで参考になる部分が見つかったりしますか?

堀:ありますよ、動きとか。自然にできた岩が、みんなにその動きをさせているわけです。でも外に行って、帰ってきて(岩場からヒントを得たルートを)作ろうと思っても失敗しますけどね。

安間:わかる!トゥーモンクス(※)を作ろうと思って失敗した!トゥーモンクスにならない…。

※トゥーモンクス(The Two Monks):奥秩父・小川山にある岩場。難易度は二段。

安間佐千さん

堀:外の岩って(大きな岩の)平面に割れ目が入っているので、インナーホールドなんですよ。ジムは外に飛び出ているアウターホールド。どうしてもホールドを付けると足で踏めたりとか出てきて、どうしても別の要素が出てきちゃう。

今はデュアルテクスチャーというツルツルに加工されたホールドもあるので、それを被せてホールドが使えにくくすることもありますが、どうしても使えてしまう。だから岩場をコピーするとたいがい失敗します(笑)。

---:安間さん、今年登って印象に残っている岩場とかありますか?

安間:今年はそんなに岩場を登っていないのですが、11月にギリシャに岩場の開拓だけのツアーに行く予定なんです。それは自分の人生で初めて開拓しに行くので、すごく楽しみですね。まだ誰も登ってない岩に自分のラインを見つけるんです。セットとちょっと似ているかもしれませんが、自分というより自然の影響を受けながらラインを見つける感じです。

奥秩父の小川山で岩(Rampagista 五段)に挑む安間佐千さんの動画《安間さんのインスタグラムより》

---:最後に、ルートを作る魅力は何ですか?

安間:なんだろう…。でも面白いよね、セットは。

堀:僕はもう自分の好きな課題を作っているので、自分の好きな課題が作れたら自分も楽しいし、っていう(笑)。基本的に同じ課題でトレーニングをしているので、自分で楽しい課題を作って、自分でトレーニングをすれば一石二鳥ですよ。あとジムにトリッキーなムーブが必要な課題を用意して、お客さんがそのムーブでやってくれるのを見ると、いい課題作れたなって嬉しいです。

安間:自分のために作るときは、その課題によって自分の可能性が拡大する可能性がある。だから自分で自分の課題を作るのもすごく大切だと思います。その動きができるようになったら、それが登れるようになる。そういうところかな…。

自分自身もそうですし、人の可能性もそこで開いていけるわけだし。例えば今日、(誰も登れなかった)男子の最難課題で完登が出ていて、それを動画で世界中の人が見る可能性があるのですが、世界中の人がその動きができるようになってくるんですよ。

セッターがやっている仕事は人間の動きの開発みたいなもので、誰かができるようになると結構みんなコピーしてきてます。今の日本の若い子たちが強いのも、そういうものの連続だと思うんです。そこがセットを通して面白い部分ですし、自分自身でも感じていること。外から見ていても課題って面白いなと思います。

---:ありがとうございました。


●安間佐千(あんまさち)
1989年9月23日生まれ、栃木県宇都宮市出身。アディダス契約アスリート。12歳でフリークライミングを始める。2006年世界ユース大会ユースA(18歳未満)優勝など数年で国際大会で結果を残し、2012年・2013年にワールドカップ総合優勝(リード種目)。岩場では2010年に日本人初となる5.15aグレードに登攀(スペイン・Papichulo)、2015年には自身最高グレード5.15b更新(スペイン・Fight or Flight”)。実家は宇都宮市でクライミングジム『Flash』を経営する。

●堀創(ほりつくる)
1989年11月2日生まれ、宮城県仙台市出身。東京都山岳連盟所属。スポーツクライミング日本代表(ボルダリングA代表)。小学5年から登り始め、2007年世界ユース選手権リード種目で3位に。ボルダリングは国際大会で2008年アジア選手権、2011年W杯カナダ・キャンモア大会、2015年アジア選手権で優勝し、表彰台獲得も多い。4年ほど前からセッターの仕事も手がけ、2016年5月からB-PUMP 荻窪店でチーフルートセッターとして働く。2017年IFSCクライミングW杯ボルダリング種目で世界ランキング14位。
《五味渕秀行》

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