【山口和幸の茶輪記】人力でどれだけ速く走れるか? 最高速にかける男たち | CYCLE やわらかスポーツ情報サイト

【山口和幸の茶輪記】人力でどれだけ速く走れるか? 最高速にかける男たち

オピニオン コラム

【山口和幸の茶輪記】人力でどれだけ速く走れるか? 最高速にかける男たち
  • 【山口和幸の茶輪記】人力でどれだけ速く走れるか? 最高速にかける男たち
  • 斜度45度のダート
  • チリのアタカマ砂漠にある名もない山でチャレンジ
  • 【山口和幸の茶輪記】人力でどれだけ速く走れるか? 最高速にかける男たち
  • 時速167.6kmを記録したシュテックル
  • 市販車クラスの雪上ダウンヒル記録はシュテックルの210.4km
時速167.6km。2017年2月9日、チリのアタカマ砂漠にある名もない山にMTBダウンヒルバイクが持ち込まれた。斜度45度のダートを矢のようなスピードで駆け下り、自転車最速記録が更新された。

「自転車でどれだけのスピードが出せる?」。自転車を手にしたこどもなら、だれでも一度は思い描くチャレンジだ。それを追求し続けるサイクリストがいる。

オーストリアのマルクス・シュテックル、43歳だ。かつてはMTBワールドカップのダウンヒルレースで表彰台に上った実績がある。現在はハイスピードレーサーという肩書きとともに若手実力者をそろえたダウンヒルチームの監督でもある。

矢のようなスピードで駆け下りる

1999年から、こんな命知らずの挑戦を続けるシュテックルはこの世界の第一人者。2007年には雪上ダウンヒル記録として時速210.4kmの最速タイムをたたき出している。今回はグラベルと呼ばれる砂利道での記録挑戦。使用する自転車はフレームから各部パーツまで市販されるもの。つまり特別なチューンアップは一切せず、お金さえあれば購入できるものだ。

「そうはいっても信頼できるパーツをセレクトしているから、それなりの価格にはなるんだけどね」とシュテックル。

ヘルメットはノーマルタイプを頭にかぶり、その上から風洞実験室で開発したエアロデザインのカーボンシェルを重ねた。ウエアは空気抵抗を低減させるスキンスーツ。ふくらはぎに整流効果と直進性を高める樹脂製のラダーをつけた。安全のためにエアバッグを装着していたが、転倒すれば命取りになりかねない危険な挑戦だった。

「すべてが冒険さ。路面がしっかりとした未舗装路を見つけるために地球の反対側からやって来た。ダウンヒルバイクを持ち込み、テントで寝て、そのときを待って自転車を担ぎ上げるんだ」

標高3972mの頂きから距離にして1200mを駆け下るのだが、速度計測は最高速が期待できる地点に電子計測器を設置。2つの機器の間を通過する時間差で最高速を算出する。8回のテストランを行って記録挑戦へ。そのときシュテックルの心拍数は170に達していた。そしてその結果は、自身が2011年にニカラグアで記録した164.95kmを上回るスピードだった。

新記録を達成するとゴール地点に倒れ込んでサポートチームの全員と抱き合って快挙を喜んだ。

「時速160kmを超えるトップスピード領域は困難を極めた。そのスピードで運転するクルマの窓から腕を出してみなよ。その空気抵抗が車体と身体全体にかかるんだ。それに耐えられる体力を備えることが新記録達成の要因だった」

時速167.6kmを記録したシュテックル

自転車に乗って人力で出した最高速度はその形態によっていくつかの記録がある。空気抵抗を低減させるカウリングを装備し、仰向けになるようなスタイルでペダルをこぐタイプは、平たん路で時速144.17kmを記録した。

同じく平たん路で1995年に268kmという記録が発表されたが、これは自転車の前に風よけのドームをつけたクルマが走り、いわゆるスリップストリームを使って出した速度だ。

また雪上の急斜面を改造型MTBでダウンヒルする重力加速度を利用した挑戦では、2015年に223.30kmが記録された。

市販車クラスの雪上ダウンヒル記録はシュテックルの210.4km。純粋な自転車競技としては1時間にどれだけの距離を走れるかを競うアワーレコードがあり、現在の世界記録は英国のブラッドリー・ウィギンスの54.526km。
《山口和幸》

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