【小さな山旅】筑波にまつわるエトセトラ…茨城県・筑波山(3) | CYCLE やわらかスポーツ情報サイト

【小さな山旅】筑波にまつわるエトセトラ…茨城県・筑波山(3)

オピニオン コラム

女体山の山頂から見た、男体山。
  • 女体山の山頂から見た、男体山。
  • 男体山の山頂。
  • 男体山から眺め。うっすらと富士山が。そして、写真ではわからないが、スカイツリーも見えた。
多くの人々に愛される山は、多くの人々に登られている。

多くの人々に登られる山は、それなりの魅力があって、それなりに登りやすい。そして、「思い出」を与える。つまり、多くの人々に「思い出」を与えた山が、多くの人々に愛されるのだ。

茨城県を代表する山・筑波山も、そんな山の一つ。事実、週末には季節を問わず、老若男女を問わず、たくさんの人々が登山に訪れている。当然、そこには登山者の数だけ思い出が生まれているはずだ。

筆者にも、筑波山には思い出がいくつかある。先日、筑波山の男体山の頂上からスカイツリーを眺めていた時、思い出の一つが鮮明に蘇った。それは、筆者が農業に勤しんでいた時のことである。

男体山の山頂

勤め先の農家には、中国人の研修生がいた。研修生はとても真面目でよく働き、仕事もよくできた。加えて、明るい性格で親しみやすかったので、他の従業員にもとても慕われていた。国籍は違えど、筆者たちにとって優しい兄のような存在であった。

そんな彼と、お別れの日が近づいていた。研修期間が終了し、母国の中国に帰るのだ。

お世話になった彼に何か御礼がしたい。そう思って、他の従業員たちと一緒に彼を喜ばせようと企画を練った。

おそらく、彼は日本に来てから仕事ばかりで、どこにも観光などには行っていないだろう。せっかく日本に来たのに、畑仕事の思い出しかないというのは、何とも切ない。というよりも、日本人として、海外から来た人に「日本に来て良かった」と思ってもらいたい。

本当ならば、京都や東京、富士山など…「これぞ日本!」という場所に連れて行ければいいのだが、当時の筆者たちはいかんせん、そのような遠出をする金がない。だからせめて、「これぞ茨城県!」という場所に連れて行こうと思った。それが、筑波山であった。

その時は、つつじヶ丘からロープウェイを使って、山頂のすぐ近くまで行き、そこから男体山に登った。研修生の彼が、農業で鍛えた脚力ですいすいと、軽々と岩場を登る姿が、とても印象に残っている。そして、山頂から見えるスカイツリーを指差して彼に言った。

男体山から眺め。うっすらと富士山が。そして、写真ではわからないが、スカイツリーも見えた

「あれが、スカイツリーだよ。あそこにも連れて行きたかったなぁ」。すると、彼は「知ってる。行ったことある」と言った。「え? 行ったことあるの?」と聞き返すと、「うん」と屈託のない笑顔で彼は答えた。

当時、日本に住む筆者ですら行ったことがなかったスカイツリーに、彼はすでに行っていた。そして、他にどこに行ったかを聞いてみると、やはり筆者が行ったことがない地名や観光地が、次から次へと彼の口から飛び出してきたのであった。

今回筑波山に登って、男体山からスカイツリーを眺めて、研修生の彼を思い出したという思い出が、新たに刻まれた。思い出を思い出したという、思い出ができた。思い出が積み重なることで、また少し、筑波山を好きになれた。
《久米成佳》

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