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オリンピックに挑むタクシー業界の戦略

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タスティードライバーが2名も誕生したすばる交通
  • タスティードライバーが2名も誕生したすばる交通
  • 英会話教室で上達して見事にタスティードライバーとなった甘利武英氏。56歳とベテランながら上昇志向の持ち主だ
  • タスティードライバーのみに与えられるバッジ
  • 営業所内の1室で英会話教室を開講。受講料の約半額は会社が負担
  • 田中敬子氏
  • タスティーマーク
  • 2015年度タスティードライバー認定式
  • 2015年度タクシー事業者別のタスティードライバー合格者数
 観光地をぐるりと巡る際に便利な観光タクシー。電車やバスなどを乗り継いで回るより出費は増えるが、観光スポットを効率良く移動でき、荷物を持ち歩く負担がない。ドライバーによる観光ガイドを楽しめるのも、マンツーマンな接客が行われるタクシーならではの魅力だ。

 しかし、日本の観光地では近年、訪日外国人観光客の集客が右肩上がりに増えている。そこで、訪日外国人観光客向けとして、観光タクシーサービスを提供できる知識・スキルを認定しようという動きが出てきた。都内約400のハイヤー・タクシー事業者が加盟する東京ハイヤー・タクシー協会が実施する、「TSTiE(タスティー)ドライバー認定」もその一つだ。

■初年度の認定者がわずか15名の少数精鋭

 「TSTiE」とは「Tokyo Sightseeing Taxi in English=英語による東京観光タクシー」の略。認定を受けるためには、まず東京観光のタクシードライバーとしてのスキルが求められる。

 例えば、東京の魅力を紹介できる証となる、東京観光財団の「東京シティガイド検定」に合格していること。他にも、高齢者や障害者などへの対応力を養う全国福祉輸送サービス協会「ユニバーサルドライバー研修」、観光タクシードライバーに必要な基本的サービスを習得する東京ハイヤー・タクシー協会の「東京観光タクシードライバー認定研修」の修了が条件だ。

 その上で「TOEIC600点」程度の英語力を持ち、最終的に東京ハイヤー・タクシー協会の「観光英語対応ドライバー認定プログラム(20時間の研修+スピーチ・ヒアリングテスト)」に合格すると、晴れてタスティードライバーとして認定される。2015年度に初のタスティードライバーが誕生したが、その数はわずか15名とまだまだ少数精鋭だ。

■社内の英会話教室で学び外国人客をつかめ

 このタスティードライバーに2名の合格者を出したのがすばる交通。車両台数228台、従業員数593名という中堅クラスの同社で副社長を務める田中敬子氏によると、観光タクシーサービスについては約20年前から取り組んでいたという。その中で、インバウンド需要を見込んで、2年前から講師を迎えて英会話教室を開講。有志のドライバーがレッスンに励んでいた。

「2名のうち1名は海外在住経験を持ち、英語が堪能なドライバー。もう1名は英語が得意だったわけではありませんでしたが、英会話教室でメキメキと上達し、タスティードライバーに挑戦したのです」


 タクシー会社にとっては長距離賃走を除くと、観光タクシーは一度にまとまった売り上げが得られる魅力あるサービスだ。それはドライバーについても同様で、タクシー乗り場での客待ちや空車走行で客を探さずに集客できる。客との関係が密接なことから、「ありがとう」と喜ばれることが格段に多くなり、やりがいを感じているようだ。

 「東京シティガイド検定」の合格者、「東京観光タクシードライバー認定研修」の修了者には、観光タクシーの客が優先的に回されるため、同社にもその合格者・修了者は数多い。これと同じことが対外国人客にも当てはまる。

「もともと英語が話せるドライバーが数名いるほか、英会話教室で上達したドライバーも増えていますので、外国人客の利用が多いホテルなどには会社として営業をかけています。これまでにもホテルから、外国人のお客様の空港までの送迎や東京観光案内などを依頼されました。今後はタスティードライバーが在籍していることをもっとPRし、外国人客向けの仕事を多くしていきたいと考えています」

■外国人客の獲得で受注アップ

 英語での接客が可能になると、都内であれば成田空港までの長距離賃走の客を得られるほか、観光タクシーによるまとまった収益も期待できる。実際、同社では英会話教室を開講する前後で受注件数が約1割向上。今後、認定に合格した2名がタスティードライバーとして活躍の幅を広げれば、さらなる売上の向上が期待できる。

 とはいえ、ドライバーの中には言葉が通じないことで、外国人客に苦手意識を抱いている人もいるだろう。そういう人が前向きになれるような取り組みも、地道に続けていく必要がある。例えば、朝礼にワンポイントで英会話を取り入れるなど、会社全体として認定に積極的な姿勢を示すことも大切だ。

「タスティードライバーに認定されることのメリットを社内に周知し、認定者を増やしていくのが今後の目標です。そのためにも、もともと英語が話せるドライバーには認定の取得を勧め、一方では現在の英会話教室に観光タクシー向けの内容を加えて、タスティードライバーを目指せるようにしていきたいと考えています」

 外国人観光客に向けた認証制度を取得するということは、単純に利用客数を増やすだけでなく、長距離賃送などの利幅の高い業務を増やすことに繋がる。このような話は都心部や観光地に限った話ではない。近年では着地型観光のニーズなどもあり、観光地以外の場所でも、外国人観光客の姿を見るようになった。電車やバスといった交通手段が整備されておらず、外国語対応の案内などが不十分な中、二次交通の手段として頼りにされるがタクシーだ。

 タクシーはサービスでの差別化が難しく、優秀なドライバーを抱えていても、その魅力を伝えるのは難しい。すばる交通の例に見るように、資格の取得はドライバーを育てるだけでなく、それをアピールする上で重要な存在。一刻も早く導入に取り組みたい。

【オリンピックと業界認証:4】タクシー業界編

《加藤/H14》

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