【THE ATHLETE】"ビースト"を悩ませるのは背中の怪我、マーション・リンチの去就に注目 | CYCLE やわらかスポーツ情報サイト

【THE ATHLETE】"ビースト"を悩ませるのは背中の怪我、マーション・リンチの去就に注目

オピニオン コラム
マーション・リンチ(c)Getty Images
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現地15日の時点でアメリカンフットボールのシアトル・シーホークスとマーション・リンチの契約は、まとまっていない。シーホークスはリンチに1000万ドル(約11億8000万円)のオファーを出したとされるが、未だ両者は合意に至っていないのだ。

NFLメディアのイアン・ラポポートは、両者の事情を難しくしているのはリンチの背中の怪我だと伝えており、それはどうやら私たちが思っている以上に深刻なようだ。

昨年11月のカンザスシティ・チーフス戦でリンチは、ハーフタイムでロッカールームに戻るのを拒否、サイドラインに留まり続けた。その理由は「冬の気温に慣れた身体で、ロッカールームを行き来するとプレーに支障が出るかもしれない」と説明された。

そうしたリンチの姿を現地メディアはNBAのスーパースター、ラリー・バードのようだと喩えている。バードはマジック・ジョンソンと並び称されるほどのレジェンドだが、キャリア晩年は慢性的な背中の痛みに悩まされ、シーズンの大半を欠場し、マッサージを受ける姿がよく目撃された。

リンチの背中もそれと同じくらい良くない状態なのではと言うのだ。

■物議を醸したプレーコールにより集まる注目

ここまでリンチの去就が注目されるのは、彼がリーグ屈指のランニングバックというだけでなく、シーホークスがスーパーボウルで喫した負けにある。より具体的に言えば負け方だ。今年のスーパーボウル、シーホークスはニューイングランド・ペイトリオッツと対戦し、あと1歩のところまで追い詰めながら最後にQBラッセル・ウィルソンがパスをインターセプトされ負けた。


このときパスを投げさせたシーホークスのプレーコール(作戦指示)には、試合終了直後から多くの疑問や批判が集まり、今なお納まっていない。ピート・キャロルHCが「私がパス投げさせろと指示した。オフェンス・コーディネイターは悪くない」と、全責任を背負ったことでメディアの中にはキャロルHCが過去に出したプレーコールと、今回のプレーコールを比較する特集組むところも現れた。

「リンチにボールを渡していれば違った結果もあったのではないか」と、エースRB走らせた場合の"if"を口にする選手も出てきた。

だがNFLアナリストのブライアン・バークは試合終了後、キャロルHCの意図を読み解く形で擁護し、現地2月14日にはジム・ハーボー氏(49ers前HC、現ミシガン大HC)も「シーホークスのプレーコールは良い選択だった」とコメントしている。

「ハーボー:私は本当に彼らが良いプレーを選択したと思う。それはゴールラインのディフェンスに対する、鋭い洞察だった。彼らはまだ2回、マーション・リンチにボールを渡すチャンスがあった。誤算とすればペイトリオッツの若い選手が、一世一代のプレーを見せたことだ」

この発言を理解するには、フットボールの基本的なルールの説明が必要だ。

■失敗するならどこが最善かを考える

フットボールの攻撃は大きく分けて"パス"か"ラン"の二択だ。成功した場合はどちらも同じ点数が入る。だが失敗した場合に違いが生じる。パス失敗の場合、残り時間を示す時計は止まる。一方ランで失敗した場合、時計は進み続ける。そして、あのときシーホークスは、タイムアウトを1回しか残していなかった。

もし2ndでランを仕掛け失敗した場合、残り20秒のシーホークスは次の攻撃に進むため、否応なくタイムアウト使わざるを得ない。タイムアウト使い切った3rdダウン、再びランで失敗すると時計は止められないため、その時点でゲームオーバー。4thダウンを保険に残すと考えたら、攻撃の選択はパスしかない。当然それはペイトリオッツも読んでいるだろう。

こうなってくると事態は「どうやってタッチダウンを取るか」と同時に「どこでパス失敗して時計止めるか」になる。どこか1度は失敗覚悟で投げなければならない。

2ndでパス失敗して時計止めればタイムアウトは残る。3rdでラン失敗したらタイムアウト取って、4thダウンに進めば良い。これなら3rdも4thも攻撃の選択肢を保持したまま、残り3回の攻撃チャンスをフルに使い切れる。

キャロルHCの考えは、おそらくこうだったのではないか。あの場面で彼は冷静に、リスクの軽減を考慮してプレーコール出したのだ。ただ結果はペイトリオッツの新人バトラーが、最高のプレーでパスをインターセプトした。あれだけは誰も読めない。

■ビースト・モードは見納めになってしまうのか

試合が終わり冷静になってみれば理由らしいことも説明可能だが、それでもリンチがランニングバック最大の見せ場を与えられないまま、チームの敗北を目の当たりにした事実は動かせない。そのことが彼の去就にファンの目を集めている。

希代のランニングバック最後のプレーが、あれになってしまうのか。

本当にリンチの"ビースト・モード"は見納めなのか。

今はただ彼の決断を待つしかない。
《岩藤健》

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