チタンの正統「LYNSKEY」上陸 vol.1 | CYCLE やわらかスポーツ情報サイト

チタンの正統「LYNSKEY」上陸 vol.1

オピニオン インプレ
安井行生のロードバイク徹底インプレッション
安井行生プロフィール

チタンの正統「LYNSKEY」上陸、徹底試乗!
ひとつのアメリカンブランドが日本に上陸する。あのライトスピード社を創立した人物が立ち上げたチタン専門メーカー 「リンスキー」 だ。今回はベーシックグレードとなるR220を国内初試乗。インプレッションに加えて、安井がその在り方について深く迫る。そもそも、「いいロードバイク」 とは何だろうか?
(text:安井行生 photo:我妻英次郎/安井行生)
LYNSKEY=リンスキー。この聞き慣れないブランド名をご存知だろうか。もし知らなくとも、そのブランドヒストリーを聞けばロードバイクファンなら少なからずとも心惹かれる存在となるに違いない。といっても、それ自体に歴史らしい歴史はない。リンスキーは2006年、たった2年前に創業した新しいブランドで、日本には09シーズンからゼータトレーディングの手によって輸入される。
重要なのはリンスキー創業以前のストーリーだ。創始者のデヴィッド・リンスキーは、あのチタンフレームといえば…のライトスピード社を1986年に設立し、同社の社長とCEO (最高経営責任者) を兼任していた人物である。その後何があったのかは知る由もないが、1999年に彼はライトスピード社をアメリカン・バイシクル・グループに売却している。(ちなみに、デヴィッドの兄弟であるマーク・リンスキーという人物が2005年までライトスピードに残ってCEOを勤めている。なんだかややこしい)
「退職後の数年間は同業他社を興してはならない」 という米国の法律の縛りが解けた06年、再び理想のフレーム作りを目指し、リンスキー一族は自らの名を冠したブランド、「Lynskey Performance Designs社」 を立ち上げる。だから “チタンフレームのオーソリティー” としての血統をより濃い状態で受け継いでいるのは、むしろリンスキーの方だとも言えるのである。ちなみにリンスキーはライトスピードと同じテネシー州のチャタヌーガという場所に本拠を構えている。
今回はそんな逸話と共に日本へ上陸したばかりのリンスキー2台を借り、2週間かけて徹底的に試乗した。1台につき300km近くを走ったが、あえてトップモデルのR420は後に回し、まずはベーシックグレードとなるR220について語りたい。

スペック

冷酷な兵器を操縦するより、ワクワクしていたい

「オレね、そのクルマを開発したエンジニアに聞いたの。これは何をするためのクルマなんですかって。そしたらね、彼は 『A地点からB地点まで最もラクに速く移動するためのクルマです』 って言うのよ。オレね、それはスポーツカーとして間違ってると思う。オレ達はレーシングドライバーじゃないんだからさ。コレに乗ってると自分が兵器を操縦するロボットになっちゃうような気がするんだよ。確かにサーキットでタイム削るにはいいクルマなんだと思うよ。気持ち悪くなるくらいに速いしね。だけどいいスポーツカーだとは思わない。いいスポーツカーっていうのは決して速いクルマとイコールじゃないんだ。いいスポーツカーって、ゆっくり走っていても機械の鼓動が伝わってきてワクワクできる。ハンドルを握っているだけでも楽しいものなんだよ。」
現在は自転車ジャーナリストとして活躍されている、元ベテランモータージャーナリストの方の言葉である。某自転車メーカーの展示会でお会いしたときの雑談の中で、ある国産高性能車についてその人はこう語った。
僕はクルマについては全くの門外漢だが、「スポーツカーとはなにか?」 「スポーツカーの定義とは?」 という議論がカオスの中に置かれていることぐらいは知っている。
しかし、彼が 「いいスポーツカー」 についてこう語るように、僕たちにとっての 「いいロードバイク」 についても、同じようなことが言えるのではないか、と僕はそのとき考えさせられたのだ。レースで勝つためなら目が回るほど速いバイクに乗ればいい。だけどハンドルに手をペダルに足を置いた瞬間に手足の先から神経がスッとフレームに伸びていきそこに人の血液がシャッと通い始めるようなバイク、サドルに体重を預けたその瞬間に身体にピタッとフィットするような有機的な感覚を与えてくれるバイクは、確かに、速いバイクと必ずしも一致しない (もちろん一致することも多い)。そして、簡単に出会えるものでもない。

日本に入ってきたばかりだというこのリンスキー・R220は3Al-2.5Vチタンを使用したチタンフレームである。ダウンチューブのヘッド側は縦楕円、BB側は横楕円になっているが共に変形量はわずかで、目を凝らして見ないと楕円だと分からない。シートステーもオーバル形状で振動吸収性を高めるために湾曲している。シートステーとダウンチューブ以外には真円パイプが使われおり、至極オーソドックスな形状をしたフレームである (すでに09モデルとしてR230が発表されているが、エンド形状以外に大きな変更はないという)。
結果から言うとR220は、前述した 「いいバイク」 という観点から見れば嬉しくなるほど素晴らしいバイクだった。僕の完全なる好み・主観でしかないが (所詮インプレなんてそんなものさ)、今まで乗ったチタンバイクの中でベストなバランスを持つ一台だった。その肢体は陸上競技のメダリストのように全身が 「強靭なばね」 だ。それはクロモリフレームのようにしなやかに走り出し、しかしクロモリフレームから鈍重さを綺麗に拭い去ったようにスムーズにスピードを上げる。挙動に一貫性があり、フレームの全部を上質な 「粘り」 が支配している。適度な粘度を持ったペダリングで伸び伸びと堂々と滑らかに走る。
《編集部》
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