F1の魅力を伝える「その瞬間にクギを打つ」…GPフォトグラファー:前編 | CYCLE やわらかスポーツ情報サイト

F1の魅力を伝える「その瞬間にクギを打つ」…GPフォトグラファー:前編

スポーツ 写真
(c) Mark Thompson / Getty Images
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F1の魅力を伝える手段のひとつに「写真」という芸術がある。世界最高峰レースの一瞬を“切り撮る”グランプリ・フォトグラファー、その存在感はある意味で神格化されたものともいえよう。日本GP開催を機に、F1の最前線で永年活躍しているマーク・トンプソン氏に話を聞いた。

10月7~9日に鈴鹿で開催されるF1日本GPに向け、連戦日程である前戦地マレーシア(2日決勝)から来日したGPフォトグラファー、マーク・トンプソン(Mark Thompson)氏。今回はGetty Imagesでチームを組んで撮影にあたるクライブ・メイソン(Clive Mason)、クライブ・ローズ(Clive Rose)の両氏とともに、インタビューに対応してくれた。


◆自動車の美しさに魅かれて

----:最初にF1のレースを撮影されたのは、いつのことですか?

トンプソン氏:1990年代の早い時期です。ナイジェル・マンセルが勝ったシルバーストンのレース、マシンがストップしてしまったアイルトン・セナをマンセルがマシンに乗せて帰ってきた年でしたね(91年イギリスGP)。もう25年前になりますか。

----:なぜ、トンプソンさんはフォトグラファーを目指されたのでしょう?

トンプソン氏:私の場合、もともとモータースポーツがものすごく好きというわけではなかったんです。自動車というもののグラフィック的な美しさに魅かれたこと、それがこの世界に入る動機でした。

----:F1のような最先端レーシングカーの場合ですと、やはり機能美のようなところに魅かれるのでしょうか。

トンプソン氏:機能的で、なおかつ一般車への技術フィードバックがある点も魅力だと思っています。

----:特に好きなドライバーや好きなマシンは?

トンプソン氏:自分がプロになる前の時代の選手でいえば、ジャッキー・スチュワート(1969、71、73年チャンピオン)ですね。マシンで言うならば、85~86年にセナが乗っていたJPSカラーのロータス。そのスロットカーを持っているのですが、まだ箱から出さずに飾ってあるくらいですよ。

----:現在の撮影対象となっているドライバーでは誰でしょう?

トンプソン氏:私が撮影していて特に好きなのは、闘士と呼べるドライバー、たとえばフェルナンド・アロンソですね。

◆「その瞬間にクギを打つ」

----:トンプソンさんは現在、レッドブルのチームオフィシャルフォトグラファーとしても活躍されていますが、先のマレーシアGPではチームが1-2フィニッシュを達成しました。表彰台では優勝したダニエル・リカルド選手が“シューイ”と呼ばれる母国(オーストラリア)独特の儀式(レーシングシューズを脱いで、それにシャンパンを注ぎ、飲み干す)らしいことを行なったりもして大きな注目を集めましたよね。撮る側としては重圧のようなものも大きかったのではないかと思います。

トンプソン氏:マレーシアGPのレース後が(特に)忙しくなったのは確かです。ただ、プレッシャーは毎回感じているものなんですよ。我々は常に「その瞬間にクギを打つ」ことをしなければならないのですから。そのためにはチームとして動くことも大切です。表彰式を撮るなら、たとえば私が正面に位置して、クライブ(メイソン)が左、こちらのクライブ(ローズ)が右から、といった具合に配置を取ったりするんです。

----:F1の撮影環境は、必ずしも撮る側にとって快適といえるものではないと思います。安全性の問題も含めてですが、取材に対する様々な意味での規制は年を追うごとに厳しくなっており、ドライバーたちも古き良き時代のようにはカメラの前で振る舞ってくれない時代になってきたと思いますが、そのあたりについてはどうお考えですか。

メイソン氏:ルイス・ハミルトンは、撮影対象として難しい存在かもしれませんね。彼は自分が完璧な状態の時でないと、なかなか撮らせてはくれない。かつてのジェームス・ハント(76年チャンピオン)、あるいはセナの時代であっても、彼らの自然体の写真を撮ることはそう難しくはなかったわけですが、今のルイスにそれはあまり期待できません。

ローズ氏:最近はソーシャルメディアで情報が一気に拡散されますからね。現役ドライバーたちが自分のイメージに対して過剰なくらい敏感になるのは、やむを得ないところだと思います。コントロールされた環境下での撮影が多くなってきていることは残念ではありますが。

----:そういったことへの対策のようなものは?

ローズ氏:経験しかないでしょう。ドライバーがジュニアフォーミュラに参戦している頃や(F1に出てきても)まだ若いうちから接することによって、こちらの顔を知ってもらう。そうすると彼らのガードも下がって、こちらに顔を向けてもらえたりもします。人間関係も大切なんです。

◆鈴鹿の最高撮影ポイントは「130R」

----:物理的な撮影環境の変化に関してはいかがでしょうか。

トンプソン氏:(60年代のモナコGPで走行中のマシンのすぐ脇に立って撮影しているフォトグラファーの姿をとらえた写真を見せつつ)こういうことはもう不可能ですよね。ただ、モナコのような市街地コースでは建物を利用して上から撮ったりすることもできますからね。やりようはあります。この写真は昨年のモナコGPでニコ・ロズベルグの走りをビルの上から撮ったものですが、ニコ自身がツイッターで「ベストショットだ」と言ってくれました。

----:毎年開催されているコースには、おそらく「ここ」というような撮影ポイントがあると思いますが、鈴鹿サーキットではどこになりますか?

トンプソン氏:やはり(高速コーナーの)130Rでしょう。あそこは“オン・ザ・リミット”になる場所ですから、ドライバーとマシンの躍動感が伝わってくる。鈴鹿で一番好きな撮影ポイントですね。

----:初開催のコースなどでは、どういったところに気をつかわれるのでしょうか。

メイソン氏:各コーナーでの光の当たり方が大事なんです。光と影のでき方ですね。同じコースでも季節が違うと、工夫の仕直しになったりします。この前のマレーシアGPは昨年が3月で、今年が10月。練り直しが必要でしたよ。

トンプソン氏:新しいコースでは、レース後に他のフォトグラファーが撮った写真を誌面等で見て、それを次回への参考にしたりもします。ただ、重要なのは場所だけではありません。シャッタースピードを変える、アングルを変える、マシンとの距離を変えるなど、撮り方による対応も重要ですね。よく、ファンの人からは「どこで撮るのがいいのですか」という質問も受けますが、観客席からでもいい写真は撮れます。これはフェラーリ時代のフェリペ・マッサですが、アメリカGPの際に観客席から撮ったものです。

撮影という“芸術行為”のためのハードルを乗り越えるのは、やはりどんな時代であってもフォトグラファーの創意工夫。「その瞬間にクギを打つ」ための努力に、トンプソン氏らは膨大なエネルギーを注ぎ続けている。

【F1】「その瞬間にクギを打つ」…GPフォトグラファーという芸術家:前編

《遠藤俊幸@レスポンス》

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